日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG28] 農業残渣焼却のもたらす大気汚染と健康影響および解決への道筋

2022年5月23日(月) 15:30 〜 17:00 201A (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:林田 佐智子(総合地球環境学研究所)、コンビーナ:竹内 渉(東京大学生産技術研究所)、Patra Prabir(Research Institute for Global Change, JAMSTEC)、コンビーナ:山地 一代(神戸大学)、座長:Patra Prabir(Research Institute for Global Change, JAMSTEC)、Mizuo Kajino(Meteorological Research Institute)

15:30 〜 15:45

[HCG28-01] インド・パンジャーブ地方における稲藁焼きの実態調査と改善への取り組み: 地球研Aakashプロジェクトの活動

*林田 佐智子1、Aakash プロジェクトチーム (1.総合地球環境学研究所)

キーワード:農業残渣焼却、大気汚染、大気汚染物質排出

インド北西部のパンジャーブ州とハリヤーナー州で行われている稲藁収穫後の大規模な焼却は,周辺地域,特に首都デリーで深刻な大気汚染を引き起こすことがよく知られている. また,稲藁の燃焼がインド・ガンジス河平原全体の大気質を悪化させ, 多数の住民の健康に悪影響がある可能性が,これまでの研究によって指摘されている. この問題の解決につながる道筋を明らかにするために,私たちは総合地球環境学研究所で,学際的な研究プロジェクト「Aakash」を立ち上げた.Aakashという名前は, ヒンディー語で空を意味している.

Aakashプロジェクトでは, 2020年度のプロジェクト開始からこれまでの2年間に, (1)パンジャーブ州とハリヤーナー州での藁焼きによる大気汚染物質の排出量の調査, (2)いくつかの異なる排出インベントリを用いたACTMシミュレーション, (3)現地と衛星で観測された,インド北西部での大気汚染物質の解析, (4)この地域の大気汚染物質を測定するための小型機器の設置等を行った. プロジェクト開始時期がCOVID-19パンデミックと重なったため, インドにおけるロックダウンによる大気汚染の一時的改善の時期を捉えて集中的に関連研究を推進した. その研究はmission DELHIS (Detection of Emission change due to Lockdown: Human Impact Studies)と名付けられた. その成果のうち, デリー周辺での人為起源の二酸化窒素排出フラックスの推定(Misra et al., Scientific Reports, 2021)は, 上記の(2)におけるシミュレーションに反映されている.

過去20年間にわたり, この領域における藁焼きは、衛星観測によって捉えられてきた. 主なセンサーはEOS TerraやAquaに搭載されたMODerate resolution Imaging Spectroradiometer (MODIS)と, その後Suomi National Polar-orbiting Partnership (Suomi NPP)とNOAA-20に搭載されたVisible Infrared Imaging Radiometer Suite (VIIRS)である. しかし, 衛星で観測される火災情報は, 衛星の軌道によって時間的・空間的に制限されている. また, 農業残渣焼却によって発生する火災は, その空間スケールが衛星センサーの空間分解能よりも小さく, さらに雲や煙で覆われてしまうことも多く検出できないことが多い. その結果,衛星で観測された火災情報に基づく排出量の推定値は,かなり過小評価されていることが知られている.

我々は, 農業統計と,これまで文献に掲載されてきた各種パラメータに基づいて,複数の大気汚染物質のボトムアップ排出量インベントリを作成し,不確実性の範囲を評価した. 作成したボトムアップ・インベントリを県ごとに集計した結果, 衛星で観測された火災に基づいて作成された他のインベントリに比べて, 活動量データ(およびそれに続くすべての大気汚染物質の排出量)の値が明らかに大きいことが示された. 現在, 大気汚染物質の排出量推定値を向上させるために, 様々なアプローチがとられており, それらについては本セッションの発表で議論されるだろう.

本発表では, 過去2年間のAakashプロジェクトの活動を紹介するとともに, 藁の燃焼による大気汚染物質の排出量を推定する際の不確実性とその改善方法について議論する. また併せて本セッションにおけるプロジェクト関連発表の紹介を行う.

謝辞
本研究は人間文化研究機構、総合地球環境学研究所の研究プロジェクトAakash (No. 14200133) の支援を受けました.