日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS07] 地すべりおよび関連現象

2022年5月24日(火) 09:00 〜 10:30 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:千木良 雅弘(公益財団法人 深田地質研究所)、コンビーナ:王 功輝(京都大学防災研究所)、今泉 文寿(静岡大学農学部)、座長:平田 康人(一般財団法人電力中央研究所)

10:00 〜 10:15

[HDS07-05] 深層崩壊素因としての後生変形を受けた泥質片岩

*山崎 新太郎1 (1.京都大学防災研究所)

キーワード:深層崩壊、結晶片岩、重力斜面変形、軸面劈開、褶曲、三波川変成コンプレックス

筆者は急速な変動が懸念されている徳島県三好市西祖谷山村有瀬の一つの重力斜面変形の地質について述べるとともに,徳島県西部の三波川変成コンプレックスでは類似した地質素因を持つ比較的規模の大きな崩壊が発生しているものが複数あることを報告する.
 
同重力斜面変形は国土交通省四国山地砂防事務によって変形範囲が調査されているが,その幅は約150 m,長さは約230 mである.一方でその輪郭は計測密度1 mの航空レーザー地形図でも明瞭ではない.2018年ごろから急速に変動が発生したとされ,以後変位速度は概ね月に2 cm未満,降雨後は24時間で2 cm程度まで加速する(松下ほか,2021).2019年の8月には移動体の前縁部が幅約50 mにわたり崩壊した.地質は泥質片岩が主に分布するが,層理面傾斜は10度程度と緩い.特徴的な点として,移動体の内部には鉛直方向に発達した開口亀裂が複数観察できる.泥質片岩には波長数十cm以下の正立褶曲が発達し,開口亀裂の多くは正立褶曲の軸面に沿って発達した劈開に沿って形成されたものである.さらに,周辺の地質調査を実施したところ,斜面上に観察できる正立褶曲の発達した泥質片岩は剥離性に富んでいる.当地の重力変形斜面において,開口亀裂は岩盤深部への浸透水の流入を許し,剥離しやすい性質は不安定化に関与しているものと思われる.

 正立褶曲・軸面劈開が発達する泥質片岩は三波川変成コンプレックス南縁に分布し,主たる片理面の形成の後に生じたものと考えられている(青矢・横山,2009).このような地域的に分布する変形岩・変形域は地震・降雨による深層崩壊の危険性の高い構造・地質領域として,認識すべきであると思われる.

青矢睦月・横山俊治(2009)日比原地域の地質.地域地質研究報告(5万分の 1地質図幅).産総研地質調査総合センター,75 p.
松下一樹・髙川智・笹井康宏(2021)徳島県有瀬地区地すべり対策の現状と課題について.日本地すべり学会関西支部・現地討論会,結晶片岩地域の地すべりと深層崩壊,講演概要集,42-59.