16:00 〜 18:00
[HDS07-P11] 完新世火砕降下堆積物におけるハロイサイト高含有層の形成を伴った差別風化メカニズムの解明
キーワード:ハロイサイト、鉄、差別風化、酸化還元状態
テフラに覆われた地域では,風化生成物としてハロイサイトが生成しやすい.これが地震や豪雨などの誘因によって力学的弱面となり,地すべりや斜面崩壊の素因となることがしばしば報告されている.これまで,ハロイサイトは,粘土鉱物としての結晶学的研究や,実験室レベルでの合成実験は数多く行われてきたものの,風化断面を対象として,現場の土壌の水理特性を考慮したうえで,その生成過程を議論した研究は少ない.そこで本研究は,地震による地すべりを経験した地域において,特に鉄のふるまいに着目し,ハロイサイトの地中分布とその生成メカニズムを明らかにすることを目的とした.
まず,9000年前に堆積したテフラ(Ta-d2:樽前降下火砕物d2)を,3つの風化区分に分類した.白色軽石を含む土壌(WP:White weathered pumice)は,ハロイサイトを多く含み,3次元的に,鉛直上向きに凸の円錐状を呈することがわかった.その外側には,鉛直下向きに舌状に分布する赤色軽石土壌(RP:Reddish weathered pumice)が存在する,このRPには,ハロイサイトが全く見つからなかったが,ゲーサイトやフェリハイドライトなどの鉄酸化物や,アロフェンのように非晶質な二次鉱物に富むこと,さらに土壌有機炭素を多く含むことがわかった.円錐状のWPの内側に位置する灰色軽石土壌(GP:Greyish weathered pumice)は,3つの風化区分の中で,固相中のケイ素含有量が最も高く,ほとんど未風化な状態を残していたが,その一方で,少量ではあるが,ハロイサイトを含んでいた.
これら3つの風化区分から遠心分離によって取り出した土壌溶液の化学組成(Si, Al, Fe)は,わずかにGPが高く,RPが低いものの,ほとんどの溶液中にはSiが10ppm以上,Alが10ppb以上存在し,Si-Al系の相図上で,二次鉱物の安定度を評価すると,どの溶液も,ハロイサイトの安定領域を満たしていた.RPとWPでは,その溶液中にほとんど鉄を含まなかったが,GPの土壌溶液には,鉄が多く含まれていた.
固相の粉末試料に対してメスバウアー分光分析を行った結果,三価に対する二価鉄の割合がGP>RP>WPの順番に高いことがわかった.さらに,WPのハロイサイトを含む2μフラクションには,二価成分がほとんど見られなかった.しかしながら,同じ三価の鉄でも,RPとWPでは,鉄原子の結合状態が全く異なることが,QS(四極子分裂)の分析値からわかった.これは,軽石の風化過程,すなわちGPがRPもしくはWPに変質する過程が,同じ酸化的環境下で進むことを示しているが,その形態が全く異なることを反映している,この異なる風化のプロセスを,地中水の水文過程から検討することにした.
まず.水理試験の結果から,WPは透水性が低く,保水性が高いのに対して,RPでは,その逆の水理性を示した.一般的に,水田などの湛水条件では,鉄が二価の形態をとることが知られている.これは,土壌呼吸によって有機物が分解される際に,微生物が酸素を消費し嫌気的条件になるからであるが,本研究においては,地中水の滞留時間,すなわち浸透速度の逆数を考慮し,土壌呼吸速度に滞留時間をかけて,単位重さの土壌(乾土換算)あたりの総呼吸量を計算した.その結果,RPの土壌呼吸速度は,WPより5倍上回るものの,WPにおける水の滞留時間が102オーダーで長いため,総呼吸量はWPで大きくなる.これは,溶存炭素の濃度が,RPよりもWPで低く,RPの下層土壌よりも,WPの直下に位置するGPで低いという結果を反映している.
以上の結果をふまえると,差別風化過程を次のように記述することができる.透水性が高いところでは,地中水の滞留時間が短いため,微生物の呼吸による酸素の消費が少なくなる.これが母材の酸化を促進し,RPのように鉄酸化物を多く含む土壌が生成される.それに伴って非晶質な有機無機複合体が生成する.さらに,鉄酸化物に結合した炭素は,微生物によって利用されにくいため,炭素蓄積量あたりの呼吸が抑えられるとともに,呼吸速度に水の滞留時間をかけた総呼吸量は,WPに比べてはるかに小さくなり,酸素消費量も小さくなる.そのため,酸化的条件は持続する.一方,WPのように,透水性が低く,地中水の滞留時間が長くなるようなところでは,土壌呼吸による酸素消費量が多くなる.これによって還元状態となり,母材から溶出した鉄は,液相に二価の状態で存在できるようになり,この二価カチオンが,WPやGPにおけるハロイサイト生成を起こりやすくしていると考えられる.ハロイサイトがいったん生成すると,毛管現象による水の滞留が起こりやすくなり,土壌の総呼吸量は減少することなく,還元的条件が維持され,二価鉄を触媒としたハロイサイトの生成を促進する.このように,地中の水文過程が,土壌の総呼吸量を制御し,それによって実現した酸化あるいは還元状態が,それぞれに鉄酸化物やアルミノケイ酸塩の生成を促進するという,正のフィードバックシステムが成立していると考えられる.
まず,9000年前に堆積したテフラ(Ta-d2:樽前降下火砕物d2)を,3つの風化区分に分類した.白色軽石を含む土壌(WP:White weathered pumice)は,ハロイサイトを多く含み,3次元的に,鉛直上向きに凸の円錐状を呈することがわかった.その外側には,鉛直下向きに舌状に分布する赤色軽石土壌(RP:Reddish weathered pumice)が存在する,このRPには,ハロイサイトが全く見つからなかったが,ゲーサイトやフェリハイドライトなどの鉄酸化物や,アロフェンのように非晶質な二次鉱物に富むこと,さらに土壌有機炭素を多く含むことがわかった.円錐状のWPの内側に位置する灰色軽石土壌(GP:Greyish weathered pumice)は,3つの風化区分の中で,固相中のケイ素含有量が最も高く,ほとんど未風化な状態を残していたが,その一方で,少量ではあるが,ハロイサイトを含んでいた.
これら3つの風化区分から遠心分離によって取り出した土壌溶液の化学組成(Si, Al, Fe)は,わずかにGPが高く,RPが低いものの,ほとんどの溶液中にはSiが10ppm以上,Alが10ppb以上存在し,Si-Al系の相図上で,二次鉱物の安定度を評価すると,どの溶液も,ハロイサイトの安定領域を満たしていた.RPとWPでは,その溶液中にほとんど鉄を含まなかったが,GPの土壌溶液には,鉄が多く含まれていた.
固相の粉末試料に対してメスバウアー分光分析を行った結果,三価に対する二価鉄の割合がGP>RP>WPの順番に高いことがわかった.さらに,WPのハロイサイトを含む2μフラクションには,二価成分がほとんど見られなかった.しかしながら,同じ三価の鉄でも,RPとWPでは,鉄原子の結合状態が全く異なることが,QS(四極子分裂)の分析値からわかった.これは,軽石の風化過程,すなわちGPがRPもしくはWPに変質する過程が,同じ酸化的環境下で進むことを示しているが,その形態が全く異なることを反映している,この異なる風化のプロセスを,地中水の水文過程から検討することにした.
まず.水理試験の結果から,WPは透水性が低く,保水性が高いのに対して,RPでは,その逆の水理性を示した.一般的に,水田などの湛水条件では,鉄が二価の形態をとることが知られている.これは,土壌呼吸によって有機物が分解される際に,微生物が酸素を消費し嫌気的条件になるからであるが,本研究においては,地中水の滞留時間,すなわち浸透速度の逆数を考慮し,土壌呼吸速度に滞留時間をかけて,単位重さの土壌(乾土換算)あたりの総呼吸量を計算した.その結果,RPの土壌呼吸速度は,WPより5倍上回るものの,WPにおける水の滞留時間が102オーダーで長いため,総呼吸量はWPで大きくなる.これは,溶存炭素の濃度が,RPよりもWPで低く,RPの下層土壌よりも,WPの直下に位置するGPで低いという結果を反映している.
以上の結果をふまえると,差別風化過程を次のように記述することができる.透水性が高いところでは,地中水の滞留時間が短いため,微生物の呼吸による酸素の消費が少なくなる.これが母材の酸化を促進し,RPのように鉄酸化物を多く含む土壌が生成される.それに伴って非晶質な有機無機複合体が生成する.さらに,鉄酸化物に結合した炭素は,微生物によって利用されにくいため,炭素蓄積量あたりの呼吸が抑えられるとともに,呼吸速度に水の滞留時間をかけた総呼吸量は,WPに比べてはるかに小さくなり,酸素消費量も小さくなる.そのため,酸化的条件は持続する.一方,WPのように,透水性が低く,地中水の滞留時間が長くなるようなところでは,土壌呼吸による酸素消費量が多くなる.これによって還元状態となり,母材から溶出した鉄は,液相に二価の状態で存在できるようになり,この二価カチオンが,WPやGPにおけるハロイサイト生成を起こりやすくしていると考えられる.ハロイサイトがいったん生成すると,毛管現象による水の滞留が起こりやすくなり,土壌の総呼吸量は減少することなく,還元的条件が維持され,二価鉄を触媒としたハロイサイトの生成を促進する.このように,地中の水文過程が,土壌の総呼吸量を制御し,それによって実現した酸化あるいは還元状態が,それぞれに鉄酸化物やアルミノケイ酸塩の生成を促進するという,正のフィードバックシステムが成立していると考えられる.