日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS09] 人間環境と災害リスク

2022年5月22日(日) 10:45 〜 12:15 203 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:佐藤 浩(日本大学文理学部)、コンビーナ:中埜 貴元(国土交通省国土地理院)、座長:佐藤 浩(日本大学文理学部)

11:00 〜 11:15

[HDS09-08] 石垣島宮良川マングローブ林内およびその周辺における巨大津波の痕跡と防災利用

*柳澤 英明1後藤 和久2 (1.東北学院大学教養学部地域構想学科、2.東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)

キーワード:津波石、明和大津波、地すべり津波、石垣島、数値シミュレーション

1771年に八重山地方で発生した大津波(明和大津波)は石垣島南西部を中心に甚大な被害を及ぼすとともに、沿岸域に広がるサンゴ礁などを起源とする大小多数の礫群を陸上に打ち上げた。これらの礫群は津波石と呼ばれ明和大津波の波源や規模などを知る重要な歴史的資源となっており、現在一部の巨礫は天然記念物として指定されている。ただ一方で、これまで土地改良事業などにより陸上に打ち上げられた多数の津波石が撤去されてきた経緯もあり、津波石群が実際にどの程度の距離まで到達していたのかの明確な証拠が残っていないのが現状である。このような中で、宮良川に広がるマングローブ林内は人による土地改良などの影響が少なく、津波石などの分布特性を知る重要な手がかりが残されている可能性がある。そこで本研究では、石垣市宮良川に広がるマングローブ林内の礫群について調査を行い、その分布や形状特性について検討を行った。その結果、多数の礫群が林内に分布しており、その中でも河口右岸側の森に長さ約11m、高さ4m程度のサンゴ巨礫(宮良川大石)の存在を確認した。モバイル型3Dスキャナーを用いてその形状を測定した結果、体積113㎦、202t(比重1.79)と算定された。さらに河口より500m内陸河川沿いのマングローブ内に、長さ約2m、体積2.16㎥程度の小型のサンゴ礫(ノウサンゴ)を確認した。これらのサンゴ礫についてC14年代測定を行った結果、2つの礫ともにほぼ明和津波の時期と一致した。この結果より、これらのサンゴ礫は1771年の明和大津波によって運ばれてきた津波石であると判断できる。陸上においては、宮良川河川沿いの石のような小型の津波石はすでに撤去されて発見することが難しいことから、マングローブ内の津波石群は今後、波源規模等を推定する上での手がかりになる可能性があると考えられる。さらに本研究では、近隣の津波石の挙動とその不確実性を把握するため宮良川に近い大浜にある高こるせ石を対象とした移動シミュレーションを行った。古文書によると高こるせ石は、もともと大浜の黒石御嶽内に2つ寄り添って存在していたが、津波により一つは内陸の牧場に、もう一つは沖へ流されたとされる。この史実を確かめるため、複数のケースを想定して移動シミュレーションを行った結果、牧場側と沖合側に向かうケースを再現することができた。現在、明和大津波の波源については津波地震や地すべりなど様々な説が存在しているが、本研究による津波石の挙動や分布特性は今後、波源を推定する上で重要な手がかりになると考えられる。