日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS09] 人間環境と災害リスク

2022年5月22日(日) 10:45 〜 12:15 203 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:佐藤 浩(日本大学文理学部)、コンビーナ:中埜 貴元(国土交通省国土地理院)、座長:佐藤 浩(日本大学文理学部)

12:00 〜 12:15

[HDS09-12] 福島県大熊町における復興まちづくりの課題

★招待講演

*初澤 敏生1 (1.福島大学)

キーワード:復興まちづくり、大熊町、福島県

福島県大熊町は福島第一原子力発電所が立地する町であり、その事故に伴い、長期の避難を強いられてきた。2019年4月に西部の大川原・中屋敷地区の避難指示が解除され、帰還が開始された。大熊町の震災時の人口は11,505人、2022年1月現在での町の住民登録人口は10,155人、町内居住者は285人(住民登録されている者のみ)となっている。
 大熊町では比較的放射線量の低かった大川原地区に復興拠点を設け、役場などの公共施設を整備している。しかし、この地区は町の旧中心部から約3km離れた農業地域だった。一方、町の旧中心部は「特定復興拠点」として整備が進められており、2022年春に避難指示が解除される予定である。特定復興拠点には震災前には町の約半数の人口が集中していたため、開発のポテンシャルは大きいものと考えられる。
 しかし、住民アンケートによると住民の帰還希望は12%程度にとどまっている。約6割の住民は戻らないと回答しており、今後は大幅な人口減少が予想される。また、帰還住民の多くは、元自宅があった場所に戻りたいとの意識が強いものの、具体的な帰還地区については決めかねている方が多い。この背景としては、帰還のためには医療機関や商業施設、介護施設等が必要であるものの、大川原地区以外ではまだその整備が始まっていないことがあると考えられる。
 このような中で、大川原地区に公共機関を集め、先行しての整備が開始された。この対応は、今後のまちづくりに大きな影響を与えるものと考えられる。
 大河原地区には震災前は町の人口の4%程度しか居住していなかった。この地区を開発することは、「元の自宅があった場所に戻りたい」という住民の要望とは相反する。特定復興拠点の整備が進めば、そちらへの居住を希望する住民が増加することになるだろう。しかし、大きく人口が減少する中で、大川原地区と特定復興拠点の双方に必要な施設を配置することは難しいと考えられる。両者の距離は約3kmに過ぎないが、2027年度の目標人口が約4,000人となる町で、2つの中心地区を維持していくのは困難となろう。また、人口が少なくなると予想される大川原地区に学校が建設されることは、子どもを持つ年代層の住民の帰還に影響を与える可能性もある。