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[HDS10-01] 古文書記録と津波堆積物を活用した1611年慶長奥州津波の波源推定
キーワード:1611年慶長奥州津波、波源推定、津波痕跡データ
1611年慶長奥州地震津波(以下,「1611年慶長津波」という)は,北海道から東北地方太平洋沿岸の広範囲に被害をもたらしたことが古文書等に記録されているが,その波源については見解の統一に至っていない。その背景には,波源推定の根拠とする情報にばらつきがあることが挙げられる。歴史津波の主な情報源の一つは古文書等の記録であるが,波源推定に用いられる情報の質(信頼度)と量には既往研究ごとに相違が見られる。また,東北地方太平洋沿岸域では1611年慶長津波由来と考えられる堆積物が複数地点で確認されているものの,波源推定にはほとんど活用されていない。以上を踏まえ,本研究では1611年慶長津波の痕跡データを整理し,波源推定を実施した。
波源推定は,安中ほか(1999)の手法を参考に実施した。同手法は,いくつかのパラメータを推定した初期波源と痕跡データ(痕跡高)を設定し,痕跡データと数値解析により得られる計算津波高との残差2乗和が小さくなるよう波源のすべり量を推定するものである。
痕跡データには,「津波痕跡データベース」と津波堆積物の情報を用いた。「津波痕跡データベース」には現時点で確認されている歴史記録の痕跡情報が網羅的に収められており,各情報には岩渕ほか(2012)の判定方法に則り信頼度が付与されている。
信頼度はA~Dに分類されており,AからDに向け信頼度が低下する傾向にある。信頼度Aは古文書等に現在も確認可能な痕跡地点がピンポイントで明示され,さらに近年再測量がなされたもの,信頼度Bは古文書の記載内容はAと同等だが,再測量がなされていないものである。信頼度Cは津波の痕跡地点に関する記載が字や集落名となっており,津波高の代表地点の取り方により標高に多少のばらつきを有する可能性がある情報となる。高信頼度(A,B)の痕跡は岩手県の一部地域に限定されており,それだけでは波源域の制約が困難であることを踏まえ,今回は宮城県~岩手県に分布する信頼度A~Cの情報(計39点)を用いることとした(A:2点,B:3点,C:34点)。
痕跡データとして,津波堆積物も活用する。既往研究により,津波堆積物分布と浸水域との間には乖離があることが指摘されている。Goto et al.(2014)は,東北地方太平洋沖地震津波による津波堆積物が確認された仙台平野を対象に,約1300地点の津波堆積物の層厚と浸水深との関係を調べ,平均的に浸水深の約2%が堆積物層厚となる関係があることを示している。そこで,本研究では,年代測定結果に1611年が含まれており,かつ近接地点に1611年慶長奥州津波来襲が確認されている岩手・宮城沿岸での9地点での津波堆積物厚をGoto et al.(2014)の手法を用いて堆積物層厚を浸水深に換算し,痕跡データとした。
初期波源については,震度・津波高の分布から1611年慶長津波との類似性が指摘されている1896年明治三陸地震津波の再現モデルをベースとした。再現解析の結果,仙台平野の痕跡を再現することが困難と判断されたため,岩手県沖の再現モデル(L=210km)に南側断層(L=200km)を追加し,初期波源とした。
初期波源として設定した北南の2枚を,4,8分割し,分割した小断層のすべり量を線形インバージョンと非線形インバージョンを組み合わせ,残差2乗和が最小になるように推定した。
理論的には,分割数を増やすにつれ,再現性が向上するはずであるが,本検討に関しては,8分割のモデルで分割数を4分割(4つの小断層)とした場合の残差2乗和よりも小さくなるモデルが現状で得られていない。
4分割した場合の各小断層のすべり量は北側から21.7m,0m,1.8m,48.5m,残差2乗和は3.99(K=1.07,κ=1.94)となった。
今回の検討の結果では中央部の断層のすべり量が0mとなり,空間的に距離のある2つの津波地震が同時に発生するという結果となり,最南部の断層のすべり量が48.5mとなった。数値に制約を設けず実施した検討から得られる本結果については,地震学的にこのような地震が生じうるものか,津波地震においてこれほど大きなすべりが生じるかについては,今後,十分な検証が必要である。
また,本検討は,仮に1611年慶長津波波源が津波地震型だったとの仮定の下,すべり量について検討したものであるが,同津波については学際的に研究が進んでおり,3.11地震と同様に宮城県沖のプレート境界深部もすべったとする説やアウターライズ型地震とする既往研究もなされていることから,動向を注視することとしたい。
波源推定は,安中ほか(1999)の手法を参考に実施した。同手法は,いくつかのパラメータを推定した初期波源と痕跡データ(痕跡高)を設定し,痕跡データと数値解析により得られる計算津波高との残差2乗和が小さくなるよう波源のすべり量を推定するものである。
痕跡データには,「津波痕跡データベース」と津波堆積物の情報を用いた。「津波痕跡データベース」には現時点で確認されている歴史記録の痕跡情報が網羅的に収められており,各情報には岩渕ほか(2012)の判定方法に則り信頼度が付与されている。
信頼度はA~Dに分類されており,AからDに向け信頼度が低下する傾向にある。信頼度Aは古文書等に現在も確認可能な痕跡地点がピンポイントで明示され,さらに近年再測量がなされたもの,信頼度Bは古文書の記載内容はAと同等だが,再測量がなされていないものである。信頼度Cは津波の痕跡地点に関する記載が字や集落名となっており,津波高の代表地点の取り方により標高に多少のばらつきを有する可能性がある情報となる。高信頼度(A,B)の痕跡は岩手県の一部地域に限定されており,それだけでは波源域の制約が困難であることを踏まえ,今回は宮城県~岩手県に分布する信頼度A~Cの情報(計39点)を用いることとした(A:2点,B:3点,C:34点)。
痕跡データとして,津波堆積物も活用する。既往研究により,津波堆積物分布と浸水域との間には乖離があることが指摘されている。Goto et al.(2014)は,東北地方太平洋沖地震津波による津波堆積物が確認された仙台平野を対象に,約1300地点の津波堆積物の層厚と浸水深との関係を調べ,平均的に浸水深の約2%が堆積物層厚となる関係があることを示している。そこで,本研究では,年代測定結果に1611年が含まれており,かつ近接地点に1611年慶長奥州津波来襲が確認されている岩手・宮城沿岸での9地点での津波堆積物厚をGoto et al.(2014)の手法を用いて堆積物層厚を浸水深に換算し,痕跡データとした。
初期波源については,震度・津波高の分布から1611年慶長津波との類似性が指摘されている1896年明治三陸地震津波の再現モデルをベースとした。再現解析の結果,仙台平野の痕跡を再現することが困難と判断されたため,岩手県沖の再現モデル(L=210km)に南側断層(L=200km)を追加し,初期波源とした。
初期波源として設定した北南の2枚を,4,8分割し,分割した小断層のすべり量を線形インバージョンと非線形インバージョンを組み合わせ,残差2乗和が最小になるように推定した。
理論的には,分割数を増やすにつれ,再現性が向上するはずであるが,本検討に関しては,8分割のモデルで分割数を4分割(4つの小断層)とした場合の残差2乗和よりも小さくなるモデルが現状で得られていない。
4分割した場合の各小断層のすべり量は北側から21.7m,0m,1.8m,48.5m,残差2乗和は3.99(K=1.07,κ=1.94)となった。
今回の検討の結果では中央部の断層のすべり量が0mとなり,空間的に距離のある2つの津波地震が同時に発生するという結果となり,最南部の断層のすべり量が48.5mとなった。数値に制約を設けず実施した検討から得られる本結果については,地震学的にこのような地震が生じうるものか,津波地震においてこれほど大きなすべりが生じるかについては,今後,十分な検証が必要である。
また,本検討は,仮に1611年慶長津波波源が津波地震型だったとの仮定の下,すべり量について検討したものであるが,同津波については学際的に研究が進んでおり,3.11地震と同様に宮城県沖のプレート境界深部もすべったとする説やアウターライズ型地震とする既往研究もなされていることから,動向を注視することとしたい。