日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS10] 津波とその予測

2022年5月25日(水) 10:45 〜 12:15 202 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:室谷 智子(国立科学博物館)、コンビーナ:対馬 弘晃(気象庁気象研究所)、座長:近貞 直孝(防災科学技術研究所)、対馬 弘晃(気象庁気象研究所)

11:30 〜 11:45

[HDS10-04] 津波浸水計算におけるwet/dry境界の新しい計算法 その2 移流項のwet/dry境界での計算

*南 雅晃1 (1.気象庁気象研究所)

キーワード:津波、数値計算、浸水、境界条件

1 背景
津波浸水計算では、浸水現象を水が存在するメッシュ(以下wetと表記する)と水が存在しないメッシュ(以下dryと表記する)との境界条件として取り扱うことが一般的である。これまではこの境界条件について、岩崎・真野 (1979)の方法を改善した小谷ほか (1998)の方法(以下、小谷の方法という)が、計算精度に優れていることから津波数値計算では広く利用されている。小谷の方法の詳細については以下の通りである。(1)wet側の波高がdry側の地盤高がよりも高い場合にのみ遡上計算を行う。(2) wet/dry境界の計算を行う際の全水深Dについて、wet側の波高とdry側の地盤高の差とする。(3) wet/dry境界の計算の移流項の計算の際に、全水深Dがゼロまたはある下限値より小さくなった場合には、その全水深を分母として持つ項のみを省略し移流項の計算を行う。一方、広く用いられている小谷の方法であるが、小谷の方法を用いた時、遡上先端の計算が不安定になる場合があることも指摘されている(原子力土木委員会 津波評価部会 2007)。そこで南(2021, 地震学会秋季大会)において、上記(2)のwet/dry境界の計算を行う際の全水深Dを、wet側の全水深とdry側の全水深を単純に相加平均して計算する方法を提案した。その中で、小谷の方法では計算不安定(数値振動)が生じていた状況に提案した手法を用いた場合、数値振動は発生せず、計算安定性が向上することを示した。南(2021)の方法では(1)の条件は小谷の方法と同様の条件を用いた。そこで、本稿では残りの(3) の条件について議論する。
2 計算手法
小谷の方法の(3)の条件では、全水深Dがその項を計算するかのキーになるが、実際の計算ではスタガード格子を用いているため、wet/dry境界での移流項の計算は以下の3通りに場合分けが出来る。まず、風上側がwetの場合(風下側はwetでもdryでもよい)、通常通り移流項の計算が可能であり、ここでは問題にならない。次に、風上側、風下側が共にdryの場合、fluxは常にゼロであり、問題にならない。最後に、Fig.1のように風上がdryの場合にのみ、何らかの条件が必要になる。そこで、Fig.1での青矢印の地点での移流項を考えると、小谷の方法の条件(3)では赤丸部分の全水深がゼロであるので、風上側の項をゼロとして計算することになる。しかしながら、実際には地点(i+1)ですでに全水深はゼロであり、移流項は空間微分であるので、その差分式に用いるΔxを半分の値とすると物理的により確からしい計算と言える。次にFig.2の事例を考える。Fig.2の青矢印のfluxを計算する時、小谷の方法であると、黄色矢印のfluxを風上として移流項を計算することになる。しかしながら、地点(i+1)で全水深はゼロで、fluxもゼロである。つまり青矢印と黄色矢印は物理的に不連続であり、黄色矢印は青矢印に影響を及ぼすことは出来ず、風上の値とはなり得ない。そこで、ここでも同様に、風上側の項をゼロとして、Δxは半分にした式にすると、物理的に矛盾のない計算となる。つまりは、小谷の方法の条件(3)を「 wet/dry境界の計算の移流項の計算の際に、風上側の波高を計算する地点の全水深が0の場合、風上側の項をゼロとし、且つΔxを半分にして計算する」とした方法を本稿では提案する。
3 結果と考察
以上の方法で津波数値計算を行い、その結果を小谷の方法と比較したところ、多くの事例でほとんど結果に違いがなかった。これは、この条件の違いが表れるのは、引き波の際に、あるメッシュがdryになった直後の数計算ステップだけであることが理由であった。しかしながら、浸水したメッシュが引き波によってdryになる際にこの条件は当てはまり、その場合、やや波が引きやすくなる。