日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS10] 津波とその予測

2022年6月2日(木) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (15) (Ch.15)

コンビーナ:室谷 智子(国立科学博物館)、コンビーナ:対馬 弘晃(気象庁気象研究所)、座長:行谷 佑一(国立研究開発法人 産業技術総合研究所)、室谷 智子(国立科学博物館)

11:00 〜 13:00

[HDS10-P01] 陸上遡上津波の波力低減のための防波構造体配置に関する数値解析

*竿本 英貴1伊尾木 圭衣1 (1.産業技術総合研究所)

キーワード:津波、防波構造体、最適配置、フルード数、有限要素解析

陸上遡上津波が構造物に与える津波波力を評価するための研究は広く実施されており,波力を定量的に評価するために水深係数とフルード数の関係性等が精力的に調べられている(例えば,朝倉ほか, 2000; 池谷ほか, 2013; 木原ほか, 2015, 榊山, 2012).また,模型実験によって構造物に作用する津波波力を直接評価しようとする研究に加え,構造物前面に設置された防波構造体の有無がどの程度波力を低減するかについての研究も実験や数値解析を通じて実施されている(上野ほか, 2020; 神田ほか, 2016).後者のように周囲構造物との干渉を考慮した上での波力評価は,前者に比べて十分に解明されているとは言い難い状況にある.例えば,神田ら(2016)の研究では防波構造体として4本の角柱または円柱を一列に並べて設置し,防波構造体背後壁面での波圧を計測して波力低減効果を確認している.角柱(または円柱)を効率的に配置することでより高い効果が得られると考えられるが,そのような検討はまだなされていない.
 本研究では,防波構造体である角柱の配置形態の違いが津波波力低減にどの程度寄与するのかについて,浅水方程式に基づく有限要素解析(COMSOL Multiphysics上で実装)を通じて検討する.まずはダムブレーク実験(Gómez-Gesteira and Dalrymple, 2004)を数値シミュレーションで模擬し,波力実測結果とシミュレーション結果から得られた波力時系列データを比較した.次いで様々な形状(角柱,円柱,楕円柱)の防波構造体について水深係数とフルード数の関係を調べ,既往の研究(Asakura et al., 2002; 池谷ほか, 2013; 木原ほか, 2012, 2015; 榊山, 2010, 2012)と比較した.これらの検討を通じて作成した数値シミュレーターが一定レベル以上の精度を有していることを確認した.なお,今回得られた数値解析結果の範囲内では,池谷らによって理論的に導出された水深係数とフルード数の関係式との良い一致が見られた.
 シミュレーションが一定の精度を有していることを確認した後,防波構造体として設定した3本の角柱に陸上遡上津波を想定した水流を様々な速度(フルード数2.0から4.5の範囲)で衝突させた.各フルード数のケースについて最適化手法BOBYQA(Powell, 2009)を適用し,3本の角柱について効率的な配置形態を探索した.結果,フルード数が2や2.5の場合は,流下直交方向に10.0D程度(Dは角柱の代表長さ),流下方向に5.5D程度の間隔を有する二等辺三角形が最適であるとの結論を得た.フルード数が大きくなるにつれて三角形の寸法は小さくなり,フルード数が4.5のケースでは流下直交方向に6.5D,流下方向に5.0D程度の二等辺三角形が最適であるとの結論を得た.角柱を1列に並べた配置形態との効率比較より,フルード数が2.5以下の場合は効率が1.1倍であるのに対し,フルード数が3.0以上の場合は効率が1.2倍となることが示された.今回は3本のみの角柱に対しての検討であったが,角柱の本数を増加させたケースについての最適化問題の求解が今後の課題となる.

参考文献
Asakura et al., 2002. The tsunami wave force acting on land structures, Coastal Engineering 2002. WORLD SCIENTIFIC, pp. 1191–1202.
Gómez-Gesteira M., Dalrymple Robert A., 2004. Using a Three-Dimensional Smoothed Particle Hydrodynamics Method for Wave Impact on a Tall Structure. J. Waterway Port Coast. Ocean Eng. 130, 63–69.
Powell, M.J.D., 2009. The BOBYQA algorithm for bound constrained optimization without derivatives. Cambridge NA Report NA2009/06, University of Cambridge, Cambridge 26–46.
朝倉良介, 岩瀬浩二, 池谷毅, 高尾誠, 金戸俊道, 藤井直樹, 大森政則, 2000. 護岸を越流した津波による波力に関する実験的研究. 海岸工学論文集, 47, pp.911-915.
池谷毅, 秋山義信, 岩前伸幸, 2013. 陸上構造物に作用する津波持続波圧に関する水理学的考察. 土木学会論文集 B2 (海岸工学), 69, 2, pp. I_816-I_820.
上野卓也, 由比政年, 楳田真也, 上島巧, 古路裕子, 2020. 透過性防波柵による背後域の津波遮蔽効果に関する数値解析. 土木学会論文集 B2, 76, 2, pp. I_265-I_270.
神田直美, 鈴木高二朗, 鶴田修己, 2016. 陸上遡上波に対する波力低減のための陸上防波構造物に関する研究. 土木学会論文集 B2 (海岸工学), 72, 2, pp. I_1069-I_1074.
木原 直人, 高畠 大輔, 吉井 匠, 池野 正明, 太田 一行, 田中 伸和, 2012. 陸上構造物に対する津波流体力評価(その1)-有限幅構造物に対する非越流条件での数値的検討-. 電力中央研究所報告 N12010.
木原 直人, 甲斐田 秀樹, 宮川 義範, 高畠 大輔, 柴山 淳, 新井田 靖郎, 松山昌史, 2015. 大規模水理実験による津波フラジリティ評価手法の 高度化(その1) ―津波流体力評価手法の検証―. 電力中央研究所報告 O15002.
榊山勉, 2010. 陸上構造物に作用する津波に関する数値波動水槽 CADMAS-SURF/3D の検証. 海洋開発論文集 26, 285–290.
榊山勉, 2012. 陸上遡上津波の伝播と構造物に作用する津波波圧に関する研究. 土木学会論文集B2(海岸工学) 68, I_771–I_775.