日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS10] 津波とその予測

2022年6月2日(木) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (15) (Ch.15)

コンビーナ:室谷 智子(国立科学博物館)、コンビーナ:対馬 弘晃(気象庁気象研究所)、座長:行谷 佑一(国立研究開発法人 産業技術総合研究所)、室谷 智子(国立科学博物館)

11:00 〜 13:00

[HDS10-P08] 東北地方太平洋沖地震における津波の減衰過程の評価

*新本 直子1馬場 俊孝2 (1.徳島大学大学院創成科学研究科理工学専攻(工学)、2.徳島大学大学院社会産業理工学研究部)


キーワード:津波、減衰過程

明確な数値的根拠をもって津波警報・津波注意報を解除するために,津波の減衰を予測する技術の向上が求められる.特に遠地地震津波や巨大地震による津波は,後続波の影響が大きく継続時間が長いため,減衰の予測が難しい.本研究では巨大地震による津波の事例として,2011年東北地方太平洋沖地震の検潮所及びGPS波浪計で観測された津波の減衰過程を評価した.林(2010)で定義された移動自乗平均振幅(MRMS振幅)に倣い,地震発生48時間後までの潮位記録から潮汐成分及び湾内の固有周期を除いた津波波形を平方し,窓幅64分で移動平均して平方根をとった値に対し,地震発生前3時間分のMRMS振幅の平均値を引き,0未満の範囲を切り捨てる手順でMRMS振幅波形を算出した.このMRMS振幅の最大値発生32分後を基準として関数をフィッティングし,減衰パラメータを推定した.解析地点は花咲・布良・岡田・父島・阿波由岐・奄美の検潮所6地点と宮城北部沖・宮城中部沖のGPS波浪計2地点である.検潮所については,林・他(2010)との結果比較のため同じ解析地点を用いた.
 検潮所及びGPS波浪計のMRMS振幅に指数関数M(t)=ke^(-t/τ)をフィッティングした(τ:減衰パラメータ,t:経過時間,k:定数).結果として,検潮所のMRMS振幅の減衰は指数関数で近似することができたが,GPS波浪計はMRMS振幅の最大値直後の減衰が指数関数より大きく,うまく近似できなかった.検潮所において推定した減衰パラメータτは観測地点間で大きな違いが見られず,約20時間であった.これは林・他(2010)にある2006年及び2007年千島列島沖地震での解析結果とほぼ同じ値であった.このことから減衰パラメータτは観測地点及び波源に依存しないものであると考えられる.指数関数で近似できなかったGPS波浪計について,累乗関数M(t)=kt^(-α)をフィッティングした(α:減衰パラメータ)ところ,MRMS振幅の減衰課程を近似できた.推定した減衰パラメータαはτと同様に観測地点間で大きな違いはなかった.しかしGPS波浪計2点の距離が近いため,現段階で減衰パラメータαが観測地点に依存しないかどうかはわからない.
 次に MRMS振幅の減衰課程を津波の数値シミュレーションから評価した.数値計算にはSatake et al.(2013)の津波波源モデルを用い,地形データに1分角,20秒角,20/3秒角,20/9秒角の4層ネスティングを施した.解析地点は上記の検潮所6地点である.結果として,震源より北の花咲の計算振幅が観測と同程度になったが,他5地点は計算振幅が観測より小さかった.ただし,計算津波波形のMRMS振幅の減衰過程は指数関数で概ね近似できた.推定された減衰パラメータτは11.1~21.0時間で,観測値と比べて解析地点間でのばらつきがあった.また,2006年及び2007年千島列島沖地震(Fujii and Satake, 2008)に対して同様の計算を行ったところ,最大値発生時刻の再現性において東北津波の解析と共通した特徴を得た.今後は津波波源モデルや地形データをより詳細にし,計算精度を向上させる予定である.