11:00 〜 13:00
[HDS10-P10] 家屋の被害記録をもとにした1944年昭和東南海地震津波の三重県熊野市新鹿町における津波高さ
キーワード:1944年昭和東南海地震津波、新鹿、被害家屋
津波の高さと被害とを定量的に結びつけることは,津波の被害想定を行う上でも,被害記録から津波の高さを推定する上でも有益なことである.本研究では1944年昭和東南海地震津波による三重県熊野市新鹿町での被害記録をもとに津波の高さと被害の状況とを整理し,同町での津波の高さを検討したので報告する.
三重県熊野市新鹿町における昭和東南海地震津波の状況は,新鹿津波調査会により『三重県新鹿の津波』(昭和60年発行,平成16年再版発行,以下,『新鹿の津波』と記す)としてまとめられている.この『新鹿の津波』には新鹿町内の家屋について,流失,全壊,半壊,床上浸水,床下浸水のいずれの被害であったかが,居住者ごとに表形式でまとめられている.床上浸水の被害家屋については床上から何cm浸水したかが記されている例が多くある.また,居住者名が記された住宅地図も掲載されている.
本研究では,まず『新鹿の津波』の表と住宅地図とをもとにどこでどのような被害があったのかを整理した.住宅地図を現在の地図になるべく重ねあわせ,表にある居住者名からその居住者の住宅の位置を住宅地図により同定し,236軒の住宅についてどこでどのような被害であったのかを現在の地図上でおおむね明らかにした.この結果,海岸や河川に近い家屋はほとんどが流失しており,床上浸水した家屋は流失家屋分布のすぐ外側(山側)に集中していることがわかった.現地調査の結果,町内の家屋の床面の高さは地盤面から約60 cm上にあると観察されたので,『新鹿の津波』の表にある床上浸水の高さに60 cmを加えてそこでの浸水深とした.この結果,床上浸水した家屋は浸水深が1.5-2 m程度に集中することがわかった.
つぎに,床上浸水した家屋の浸水深に対し,推定された家屋の位置での地盤面の標高を加えることで津波の浸水高を推定した.標高値については現地調査により測量した結果を利用したが一部国土地理院による基盤地図情報数値標高モデル(5 mメッシュ)による値も利用した.この結果,床上浸水,すなわち流失を免れた家屋については,浸水高が標高6~8 m程度に集中し,それ以上の高さの家屋も存在することがわかった.
一般的に,家屋の流失が著しい領域における津波の高さの推定は難しい場合が多い.なぜならば,津波の高さを測る対象が流失し,そもそも測れないからである.本研究により床上浸水の家屋における浸水高が6~8 m程度あるいはそれ以上であると推定されたので,仮定の話ではあるが流失家屋の領域も同程度の浸水高であったと仮定して流失家屋の領域での浸水深を推定した.各流失家屋の位置での地盤面の標高値を基盤地図情報数値標高モデル(5 mメッシュ)により抽出し,浸水高6 mあるいは8 mからこの標高値を差し引くことでそこでの浸水深を推定した.この結果,浸水高6 mに対しては浸水深が1.5-3 m程度となる家屋の数が多く,浸水高8 mに対しては浸水深が3.5-5 m程度となる家屋の数が多いことがわかった.
本研究の一部は,文部科学省の「防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト」の一環として実施しました.記して感謝致します.
三重県熊野市新鹿町における昭和東南海地震津波の状況は,新鹿津波調査会により『三重県新鹿の津波』(昭和60年発行,平成16年再版発行,以下,『新鹿の津波』と記す)としてまとめられている.この『新鹿の津波』には新鹿町内の家屋について,流失,全壊,半壊,床上浸水,床下浸水のいずれの被害であったかが,居住者ごとに表形式でまとめられている.床上浸水の被害家屋については床上から何cm浸水したかが記されている例が多くある.また,居住者名が記された住宅地図も掲載されている.
本研究では,まず『新鹿の津波』の表と住宅地図とをもとにどこでどのような被害があったのかを整理した.住宅地図を現在の地図になるべく重ねあわせ,表にある居住者名からその居住者の住宅の位置を住宅地図により同定し,236軒の住宅についてどこでどのような被害であったのかを現在の地図上でおおむね明らかにした.この結果,海岸や河川に近い家屋はほとんどが流失しており,床上浸水した家屋は流失家屋分布のすぐ外側(山側)に集中していることがわかった.現地調査の結果,町内の家屋の床面の高さは地盤面から約60 cm上にあると観察されたので,『新鹿の津波』の表にある床上浸水の高さに60 cmを加えてそこでの浸水深とした.この結果,床上浸水した家屋は浸水深が1.5-2 m程度に集中することがわかった.
つぎに,床上浸水した家屋の浸水深に対し,推定された家屋の位置での地盤面の標高を加えることで津波の浸水高を推定した.標高値については現地調査により測量した結果を利用したが一部国土地理院による基盤地図情報数値標高モデル(5 mメッシュ)による値も利用した.この結果,床上浸水,すなわち流失を免れた家屋については,浸水高が標高6~8 m程度に集中し,それ以上の高さの家屋も存在することがわかった.
一般的に,家屋の流失が著しい領域における津波の高さの推定は難しい場合が多い.なぜならば,津波の高さを測る対象が流失し,そもそも測れないからである.本研究により床上浸水の家屋における浸水高が6~8 m程度あるいはそれ以上であると推定されたので,仮定の話ではあるが流失家屋の領域も同程度の浸水高であったと仮定して流失家屋の領域での浸水深を推定した.各流失家屋の位置での地盤面の標高値を基盤地図情報数値標高モデル(5 mメッシュ)により抽出し,浸水高6 mあるいは8 mからこの標高値を差し引くことでそこでの浸水深を推定した.この結果,浸水高6 mに対しては浸水深が1.5-3 m程度となる家屋の数が多く,浸水高8 mに対しては浸水深が3.5-5 m程度となる家屋の数が多いことがわかった.
本研究の一部は,文部科学省の「防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト」の一環として実施しました.記して感謝致します.