日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS11] 湿潤変動帯の地質災害とその前兆

2022年5月23日(月) 13:45 〜 15:15 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:小嶋 智(岐阜大学工学部社会基盤工学科)、コンビーナ:内田 太郎(筑波大学)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、座長:苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、内田 太郎(筑波大学)、小嶋 智(岐阜大学工学部社会基盤工学科)

13:45 〜 14:00

[HDS11-01] 福島県下郷町のスプレッド型地すべり:地形および地質の特徴

*加藤 靖郎1小嶋 智2永田 秀尚3 (1.川崎地質株式会社、2.岐阜大学工学部社会基盤工学科、3.有限会社風水土)

キーワード:地すべり、スプレッド型地すべり、カルデラ堆積物、シルト岩

福島県南会津郡下郷町の枝松地域にはスプレッド型地すべりの地形的特徴を備えた地すべりが認められる(大八木,2003).前期更新世に形成された塔のへつりカルデラの湖成堆積物および後カルデラ期の安山岩(山本,1999)からなる斜面において,比高約200mの直線的な崖(分離崖)から鶴沼川まで達する緩傾斜面が地すべり斜面である.地すべり移動体内には分離崖に平行に延びる線状凹地が数条確認でき,崖から河川までの距離に対して地すべり移動体の幅が概ね2倍となるなどの特徴がある.
地すべり移動体をなす地層は後期更新世の二股山火山噴出物の安山岩であり,地すべり背後斜面での層厚は約200mとなる.安山岩の下位には砕屑岩類からなる湖成堆積物が分布する.非地すべり斜面における安山岩の底面は標高600m~610mであるが,地すべり斜面では破砕された安山岩が標高470mの河岸まで分布している.
鶴沼川の河床において,破砕された安山岩からなる地すべり移動体の下底部に,塑性変形したシルト岩が分布する.変形シルト岩は湖成堆積物であり,互層する砂岩の岩塊を若干含み,さらに安山岩の岩塊や河床礫を取り込んでいる.変形シルト岩には一部にせん断変形が認められるものの,塑性流動的な変形が主体的となることから,河床で分布する破砕シルト岩は地すべり活動の潤滑剤としてはたらいたと推定できる.同様な変形シルト岩が,地すべり地形の北西側側部でも確認できる.そこでは直線的な地形によって地すべり領域が区切られるが,地すべり地形端部に沿って流れる沢で変形シルトが分布する.一方,分離崖の南東側延長部では,非変形の湖成堆積物内に変形シルト岩が分布する.これらの変形シルト岩の分布は,湖成堆積物中で発生した破砕物質が開口割れ目を充填していることを推定させ,地質体が流動物質の上で分離・拡散し,開口した割れ目を流動物質が充填するスプレッド型地すべりを示唆する.