日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS11] 湿潤変動帯の地質災害とその前兆

2022年5月23日(月) 15:30 〜 17:00 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:小嶋 智(岐阜大学工学部社会基盤工学科)、コンビーナ:内田 太郎(筑波大学)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、座長:内田 太郎(筑波大学)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、小嶋 智(岐阜大学工学部社会基盤工学科)

15:30 〜 15:45

[HDS11-07] 地震時土砂崩れの5次メッシュインベントリの作成と分析結果について

*岩橋 純子1遠藤 涼1中埜 貴元1 (1.国土地理院)

キーワード:斜面崩壊、地すべり、インベントリ、テフラ、北海道胆振東部地震、熊本地震

国土地理院では2019年から地震時地盤災害推計システム(SGDAS)を運用しており、震度5弱以上の地震発生から概ね15分以内に、地盤災害の発生地域と発生可能性を、気象庁の推計震度分布図と地形・地質等の地理的特性から自動的に推計して公的機関の災害対応関係者に配信している。現在、SGDASの推計精度向上に関する研究を行っており、様々な地震で起きた斜面崩壊・地すべりについて、正解データとなるインベントリが必要であった。このようなニーズは、SGDASに限らず、地震時土砂崩れの素因に関する検証を行う多くの研究者にあるものと推測している。
しかし土砂崩れの分布図には、様々な規格のデータが存在する。紙地図の代表的なものには、国土地理院の2万5千分の1の災害状況図(2004年新潟県中越地震、2008年岩手・宮城内陸地震など)があり、崩壊地は斜面崩壊(小)(滑落崖が数十m程度までのもの)と、斜面崩壊(大)に分けられ、(小)は線とケバ、(大)はポリゴンで表現されている。その他、ポリゴンで内容が未分類のもの、ポリゴンで地すべり型とその他が分類されているもの、そして点のデータなど、様々なデータが存在する。判読方法も、近年は、空中写真だけでなく航空レーザ測量によるDEMの画像処理図を用いるケースが増えており、対応する地図縮尺も様々である。
一方、地震時土砂崩れの代表的なトリガー情報である推計震度分布図の解像度は、現段階で、基準地域メッシュ(3次メッシュ;約1km四方の区画)であり、地震計の配置もさほど密ではないことから、一般的に検証作業に用いるデータとしては、インベントリの詳細さよりむしろ、データの規格の統一が重要と考えられる。さらに、地形の寄与が大きい小規模な斜面崩壊と、地質構造(受け盤・流れ盤等)を含めた地質の寄与が大きい大規模な深層崩壊・地すべりについては、分けてインベントリを作成した方が、検証作業が容易になると考えられる。
そこで筆者らは、まず、文献で「地すべり」や「深層崩壊」と明記されている箇所や、空中写真上でそれらとよく似た形態を示す崩壊、さらに崩壊部の面積1ha以上の崩壊は、地すべりカテゴリに分類した。ここでいう「地すべりカテゴリ」は、狭義の地すべりではなく、高速地すべりを含めた地質の寄与が大きい大型の土砂崩れを想定している。その他の表層崩壊や、小規模な崩壊は斜面崩壊カテゴリに整理することとした。集計にあたっては、ポリゴン、ケバ、点、それぞれを集計用のデータに変換する必要があるが、一番情報量が少ないデータ、つまり点に揃えるのが基本と考えられる。ポリゴンについては崩壊部を50m間隔のランダムポイントでサンプリングする等の作業で規格を統一し、図1のように地域メッシュの5次メッシュ(約250m)区画で集計したデータを作成した。データはshapefileとし、5次メッシュ内の集計用の点の数、集計用の点があるか無いか、1平方キロメートル当たりの点数等を属性として格納した。
作成したデータを用いて、2018年北海道胆振東部地震、2016年熊本地震等について素因情報との比較をテストした。一例を紹介すると、(DEMの自動地形分類による)同じ地形種の範囲でテフラIsopachマップの層厚と斜面崩壊カテゴリの土砂崩れの密度を比較したところ、2018年北海道胆振東部地震では、廣瀬(2020)で指摘されているように、Ta-dおよびEn-aの層厚と明瞭な関係が見られることがわかった(図2)。しかし、2016年熊本地震では、最近のテフラの層厚と斜面崩壊の崩壊密度にはあまり関係が無く、また、一般的に斜面崩壊が多い丘陵性山地の領域では北海道胆振東部地震のケースと異なりテフラの寄与自体が統計的に見られなかった。従って、豪雨による崩壊の多い西日本では、木村ほか(2019)で知られるように地形によりテフラの残存率に差があり、地形種によって、Isopachマップの層厚の解釈を変える必要があると考えられる。
その他、傾斜等の素因情報についても、ラスタ化されていれば、GISを用いてインベントリの情報とのクロス集計、PR曲線やROC曲線の作成等が可能であり、事例を紹介する。このような5次メッシュインベントリは今後も作成を続けていく予定である。

引用文献
廣瀬亘(2020)地形概要と表層地質・テフラ層序,in 地震による地すべり災害 ― 2018年北海道胆振東部地震,「地震による地すべり災害」刊行委員会編,北海道大学出版会,370p.
木村誇ほか(2019)テフラ層厚分布を考慮した斜面安定解析による崩壊危険地の抽出 :-阿蘇カルデラ北東部地域における検討事例-,日本地すべり学会誌,56,240-249.