日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS11] 湿潤変動帯の地質災害とその前兆

2022年5月23日(月) 15:30 〜 17:00 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:小嶋 智(岐阜大学工学部社会基盤工学科)、コンビーナ:内田 太郎(筑波大学)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、座長:内田 太郎(筑波大学)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、小嶋 智(岐阜大学工学部社会基盤工学科)

16:00 〜 16:15

[HDS11-09] 令和3年9月豪雨による長野県下馬沢川周辺における崩壊発生状況と地質特性

*山田 友1、坂井 佑介1山越 隆雄1 (1.国土交通省国土技術政策総合研究所)

キーワード:地質特性、降雨型斜面崩壊、土砂災害、断層破砕帯、フォッサマグナ

2021年9月5日に、長野県茅野市下馬沢川で集中豪雨による土砂災害が発生した。下馬沢川は、天竜川水系宮川の支川であり、赤石山脈北端部杖突峠の北東側斜面、長野県茅野市の北西端に位置し、流域面積約2.04km2、流路延長約3.0km、比高約480m(標高760~1,240m)の流域である。集中豪雨は2021年9月5日15:00~24:00に累積雨量159mm(雨量観測局杖突峠)が観測され、集中的に降雨が見られた範囲は下馬沢川上流域をほぼ中央東端とした東西約7km、南北約3kmに限られていた。本災害により、家屋被害(全壊4戸、一部損壊13戸、床上床下浸水36戸:2021年11月16日時点)と県道への土砂流出による交通障害が生じた。本稿では、集中的に降雨が見られた範囲の崩壊発生状況と地質特性について、現地調査や航空レーザ計測によって確認した結果を報告する。

下馬沢川上流域は、本川と左支川が流下しており、流域周辺の地形判読では、崩壊跡や連続性のやや弱いリニアメント構造が見られる。また、周辺の流域は、下馬沢川の南方にサイノ川が接しており、サイノ川の西方には沢川が接している。なお、サイノ川および沢川は、下馬沢川上流域と同程度以上の降雨が観測された流域である。
下馬沢川周辺の地質は、北西から南東に連続する糸魚川-静岡構造線と南西から北東に連続する中央構造線が交差する、フォッサマグナ西縁部の守屋層群と塩嶺火山岩類(En)が分布している。下馬沢川では主に守屋層高部礫岩層(Mc)が分布しており、下馬沢川本川の一部とサイノ川では塩嶺火山岩類、沢川では守屋層唐沢川酸性火山岩部層(Md)および守屋層熊久保安山岩部層(Mk)が分布している。

土砂災害が発生した下馬沢川では、表層崩壊や渓岸崩壊が数多く見られるが、サイノ川流域および沢川流域では、今回の調査では斜面の崩壊は見られなかった。また、下馬沢川流域は、サイノ川流域および沢川流域と比較して比高が大きく、全体的に急峻な地形になっている。
下馬沢川本川で発生した斜面崩壊のうち、現地で確認した比較的規模が大きい崩壊は、幅約10m、長さ約80m、深さ約1.6mの表層崩壊であり、塩嶺火山岩類や高部礫岩層の岩片を含む崖錐堆積物の崩壊である。崩積土砂は、最大礫径25cmであった。
一方、下馬沢川左支川で確認した、比較的規模が大きい崩壊は、幅約16m、長さ約60m、深さ約3mの崩壊であり、高部礫岩層の破砕帯をすべり面とする崩壊と推定される。崩積土砂は、最大礫径80cmで、本川に比べて大きな礫を含んでいる。なお、左支川の概ね全域で、深さ1m以上の渓床侵食が見られた。

つまり、下馬沢川左支川に分布する高部礫岩層は、周辺流域の地質と比較して、風化侵食を受けやすかった可能性があり、比較的急峻な地形の形成にも影響していた可能性がある。下馬沢川左支川は、高部礫岩層破砕帯部で崩壊規模が大きくなり、渓床侵食による土砂供給もあり、本川よりも多量の土砂が流出したと考える。