11:00 〜 13:00
[HDS11-P01] 焼岳中尾テフラ:北アルプス南部における完新世後期の年代指標としての有用性の検討
第四紀層の堆積年代を明らかにする手法のひとつにフロクロノジーがある.テフロクロノジーは,噴出年代が既知のテフラ用いて,地層の堆積年代を明らかにする方法である.町田・新井(2003)によるアトラスの出版に引き続き,現在では化学組成に着目したMcLean et al. (2018)による福井県の水月湖コアの解析などにより,東アジアにおける第四紀の広域火山灰を用いた年代測定法はほぼ確立している.しかし,日本のように火山の多い地域では,近傍の火山の噴出物の影響が強く,広域火山灰の産出ピークを検出できない場合が多い.そこで,近傍の火山による局地的に拡散した小規模噴火のテフラは分布域は狭いものの,その地域のテフロクロノジーに有用となる潜在力を持っている.本研究では,その有用性を検討することを目的とする.
研究対象地域は,焼岳火山の影響を強く受ける北アルプス南部の上高地周辺である.研究対象は,1)焼岳の北東約4.7 kmに位置する「きぬがさの池」湖畔で掘削されたハンドオーガーボーリングコアの深度141-143 cmに挟まれる厚さ2cmのガラス質火山灰(苅谷・高岡,2019)1試料と,2)焼岳の北北西約1.5 kmの地点に分布する,約2,300年前の最後のマグマ噴火の産物と考えられている中尾火砕流堆積物に挟まれるガラス質火山灰2試料である.これらの火山灰を画分し,極細粒砂の粒子組成,火山ガラスの化学組成・屈折率を測定し,その特徴を明らかにした.
検討した火山灰中の火山ガラスは,主としてMcLean et al. (2018)に従い,microlite, blocky, flute, vesicular, pumiceに,鉱物は石英,長石,角閃石,黒雲母,輝石に分類した.各試料につき200個以上の粒子を偏光顕微鏡を用いて同定した.その結果,これらの火山灰の構成粒子の約70%は火山ガラスから成り,その大半がmicroliteとblockyであることが明らかとなった.火山ガラスの化学組成は,日本原子力研究開発機構東濃地科学センターの電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)を用いて,主としてblockyタイプの火山ガラスについて測定した.その結果,3試料中の火山ガラスの化学組成は,SiO2, K2O, Na2Oが多く,Al2O3, FeO (total)が少ないという特徴を持ち,McLean et al. (2018)が示した東アジアにおける第四紀広域火山灰中の火山ガラスの化学組成とは明瞭に区別できた.火山ガラスの屈折率は中央大学の温度変化型屈折率測定装置(RIMS)を用いて測定した.3試料に含まれる,主に厚さの薄いmicroliteとblockyをそれぞれ30個(を屈折率を測定した.その結果,火山ガラスの屈折率はn=1.4958~1.5011の範囲の値を示し,1.4970~1.4990の範囲にピークを持つことが明らかとなった.
以上のように,「きぬがさの池」で見出された火山灰は,中尾火砕流堆積物に挟まれる火山灰と,粒子組成,火山ガラスの屈折率・化学組成の点で一致し,約2,300年前の焼岳の噴火活動による火山灰であることがわかった.従って,上記の特徴を持った火山灰は,今後,北アルプス南部における約2,300年前の有用な年代指標になると考えられる.
研究対象地域は,焼岳火山の影響を強く受ける北アルプス南部の上高地周辺である.研究対象は,1)焼岳の北東約4.7 kmに位置する「きぬがさの池」湖畔で掘削されたハンドオーガーボーリングコアの深度141-143 cmに挟まれる厚さ2cmのガラス質火山灰(苅谷・高岡,2019)1試料と,2)焼岳の北北西約1.5 kmの地点に分布する,約2,300年前の最後のマグマ噴火の産物と考えられている中尾火砕流堆積物に挟まれるガラス質火山灰2試料である.これらの火山灰を画分し,極細粒砂の粒子組成,火山ガラスの化学組成・屈折率を測定し,その特徴を明らかにした.
検討した火山灰中の火山ガラスは,主としてMcLean et al. (2018)に従い,microlite, blocky, flute, vesicular, pumiceに,鉱物は石英,長石,角閃石,黒雲母,輝石に分類した.各試料につき200個以上の粒子を偏光顕微鏡を用いて同定した.その結果,これらの火山灰の構成粒子の約70%は火山ガラスから成り,その大半がmicroliteとblockyであることが明らかとなった.火山ガラスの化学組成は,日本原子力研究開発機構東濃地科学センターの電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)を用いて,主としてblockyタイプの火山ガラスについて測定した.その結果,3試料中の火山ガラスの化学組成は,SiO2, K2O, Na2Oが多く,Al2O3, FeO (total)が少ないという特徴を持ち,McLean et al. (2018)が示した東アジアにおける第四紀広域火山灰中の火山ガラスの化学組成とは明瞭に区別できた.火山ガラスの屈折率は中央大学の温度変化型屈折率測定装置(RIMS)を用いて測定した.3試料に含まれる,主に厚さの薄いmicroliteとblockyをそれぞれ30個(を屈折率を測定した.その結果,火山ガラスの屈折率はn=1.4958~1.5011の範囲の値を示し,1.4970~1.4990の範囲にピークを持つことが明らかとなった.
以上のように,「きぬがさの池」で見出された火山灰は,中尾火砕流堆積物に挟まれる火山灰と,粒子組成,火山ガラスの屈折率・化学組成の点で一致し,約2,300年前の焼岳の噴火活動による火山灰であることがわかった.従って,上記の特徴を持った火山灰は,今後,北アルプス南部における約2,300年前の有用な年代指標になると考えられる.