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[HDS11-P03] 1973年北海道小谷石で発生した豪雨災害後の流域土砂動態
キーワード:土砂移動、貯留土砂、降雨履歴、植生侵入、1973年小谷石災害、北海道
豪雨によって流域内で崩壊が発生すると流域内に大量の不安定土砂が供給される。供給土砂の一部は崩壊発生直後に流域外に流出するが,大部分は貯留土砂として流域内にとどまり,その後の降雨出水時に流域内を移動すると考えられる。大規模な出水イベントがあればこうした貯留土砂が再移動して大規模な土砂流出により下流域での災害を助長する危険性があるものの,崩壊発生後に流域内に貯留された崩壊土砂の再移動について数十年程度の中長期的時間スケールを対象とした研究事例は少なく,その実態は十分に明らかにされていない。そこで、本研究では,土砂生産イベント発生後を対象として,数十年という時間スケールにおいて,降雨履歴との比較や河道内への植生侵入状況から貯留土砂の移動実態を明らかにした。調査地は北海道知内町小谷石地区の中ノ沢流域である。小谷石地区では1973年に観測史上最大の時間雨量を記録した豪雨により流域内で複数の崩壊や土石流が発生し,大きな被害がでた。この災害後,北海道により複数の堰堤が設置された。時系列の航空写真判読から災害直後に最下流に設置された砂防堰堤は2008年までほとんど堆砂しておらず,1973年イベント後,流域出口まで到達するような土砂移動は2008年まではなかったと推定された。一方,中ノ沢で2020年に実施した現地調査から流域最下流に設置された砂防堰堤が満砂していたことから,比較的大規模な土砂移動が2009年以降に生じていたことが分かった。また,河道内の植生の侵入時期から,流域上流部から中流部にかけては小規模な土砂移動が継続していること,下流部では近年まで長期間にわたって土砂移動がほとんど生じていなかったことが確かめられた。降雨履歴から,2013年に1973年の降雨強度を上回る降雨イベントが発生しており,この流域では2009年以降,新規崩壊の発生は確認されないことから,2013年の降雨イベント時に河道内の貯留土砂が流域出口まで大量に移動したと考えられた。以上より,本流域では,上流から中流部にかけては河道内で小規模な土砂移動が恒常的に生じたことに加え,崩壊発生から約40年後に高強度の降雨イベントが直接的な誘因となって貯留土砂の大規模な移動,土砂流出が引き起こされていた。土砂生産から数十年経過していたにもかかわらずこの土砂に起因する大規模な土砂移動が発生していたことから,災害直後の施設整備の重要性が改めて示唆された。