日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS12] 中部日本におけるサブダクションと活断層ハザード

2022年6月1日(水) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (17) (Ch.17)

コンビーナ:吾妻 崇(国立研究開発法人産業技術総合研究所)、コンビーナ:鈴木 康弘(名古屋大学)、座長:吾妻 崇(国立研究開発法人産業技術総合研究所)

11:00 〜 13:00

[HDS12-P05] 屏風山・恵那山断層帯及び猿投山断層帯周辺における強震動評価のための浅部・深部統合地盤構造モデルの構築

*先名 重樹1、谷田貝 淳2、小鹿 浩太2、稲垣 賢亮2松山 尚典2藤原 広行1 (1.防災科学技術研究所、2.応用地質)

キーワード:地盤モデル、強震動、常時微動、S波速度構造、重力

1.はじめに
 屏風山・恵那山断層帯及び猿投山断層帯は恵那山から知多半島に至る総延長 100km を超える長大な活断層帯である.令和2年度から4年度にかけて,屏風山・恵那山断層帯及び猿投山断層帯(恵那山-猿投山北断層帯)の長期評価1の精度向上を目的として,科学技術基礎調査等委託事業「屏風山・恵那山断層帯及び猿投山断層帯(恵那山-猿投山北断層帯)における重点的な調査観測」(以後,本重点調査)が実施されている.防災科研では,本重点調査のうちサブテーマ 4「断層近傍および都市域における強震動予測向上のための調査」の一環として,強震動による被害が予測される震源断層の極近傍や,周辺の大都市域を対象として,強震動予測のための浅部・深部統合地盤構造モデルを構築する作業を実施している.  
本報告では,戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)などで構築された東海地方の浅部・深部統合地盤モデルを基に,令和3年度までに新たに実施した,重力データ解析,地震観測,微動アレイ観測データ等を用い,後述する図1の桃色線の範囲内において,浅部・深部統合地盤構造モデルの高度化を実施した.

2.収集したデータ
 本検討では,重力探査データの収集(26,595点),ボーリングデータの収集(掘進長数 100 m~1000 m の大深度ボーリングを約 20 孔,掘進長が数 10 m~200 m 程度の浅深度ボーリングを約 1000 地点),および,地震観測,微動アレイ観測を新たに実施している.重力探査データは,東濃地震科学研究所から提供されたデータおよび産業技術総合研究所地質調査総合センターにより編集された重力データを使用した.地震観測記録は,K-NET,KiK-net,自治体,気象庁,名古屋大学の地震観測点のデータを収集する他,主に愛知県・岐阜県の小・中学校20箇所に地震計を設置した(図1).また,微動アレイ観測は,最大半径400mの大アレイ観測は40箇所,アレイ半径が5~10m程度の小アレイを843箇所でそれぞれ実施した(図2).

3.重力解析結果およびボーリングデータに基づく基盤構造解析
 解析範囲における各測点の絶対重力値からブーゲー異常値を算出した.ブーゲー異常分布には,本解析の対象深度よりも深部の構造に起因する長波長成分から,地表付近の不均質な構造や測定ノイズなどに起因する短波長成分まで,地下の様々な深度からの情報が含まれているため,ブーゲー異常分布に対して最適な特性を持つフィルター処理を施し,目的とする地下構造(重力基盤)に対応した波長の重力成分を抽出した.フィルター処理方法については上方接続法4を用いた.まず,大深度ボーリングから得られた不整合面の深度および周辺地域で基盤が地表付近に出現する地点の標高をコントロールポイントとして解析を行い,密度境界面の標高分布を求めた.次に,ボーリングデータから読み取った不整合面を用いて密度境界面を修正した.大深度ボーリングの検層結果から密度境界面の速度値を推定すると,密度境界面以深(基盤岩)は Vp5,000 m/s(Vs 2,700 m/s)程度の地震基盤相当層と推定でき,ボーリングの不整合面と調和的な地震基盤相当の構造を作成した(図 3).

4.浅部・深部統合地盤構造モデルの構築とまとめ
 既往の東海地方の地盤モデルと,前節で設定した基盤構造と,微動アレイの位相速度と地震観測記録のR/Vスペクトル比等による,ジョイントインバージョン解析を行うことで,地盤モデルの修正を実施した.作成したモデルは,既往の反射法地震探査等の結果と調和的であり,信頼性が高い結果と言える.今回の手法では,特に重力解析を実施することによって,地表地質の分布からは得られない堆積盆の分布形状についての情報を得ることができ,精度の高いモデル化が可能となった.本手法は,地震動予測のための広域地盤構造モデルを構築するにあたって極めて有効な方法であると考える.

(参考文献)
地震調査研究推進本部(2004):屏風山・恵那山断層帯及び猿投山断層帯の長期評価について,https://www.jishin.go.jp/main/ chousa/katsudansou_pdf/53_54_byobu_ena_sanage.pdf.
Atsushi Wakai, Shigeki Senna, Kaoru Jin, Atsushi Yatagai, Haruhiko Suzuki, Yoshiaki Inagaki, Hisanori Matsuyama, and Hiroyuki Fujiwara, “Modeling of Subsurface Velocity Structures from Seismic Bedrock to Ground Surface in the Tokai Region, Japan, for Broadband Strong Ground Motion Prediction,” J. Disaster Res., Vol.14, No.9, pp. 1140-1153, 2019.
産業技術総合研究所地質調査総合センター[著] (2013):日本重力データベースDVD版
野崎京三 (1981):球面地形補正の計算プログラム,測地学会誌,27(1),23-32.