日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-GG 地理学

[H-GG01] 自然資源・環境に関する地球科学と社会科学の対話

2022年5月23日(月) 09:00 〜 10:30 105 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:古市 剛久(森林総合研究所)、コンビーナ:上田 元(一橋大学・大学院社会学研究科)、大月 義徳(東北大学大学院理学研究科地学専攻環境地理学講座)、コンビーナ:佐々木 達(宮城教育大学)、座長:古市 剛久(森林総合研究所)、上田 元(一橋大学・大学院社会学研究科)

09:00 〜 09:15

[HGG01-01] 白神山地における植生多様性に関わる地形プロセスとしての地すべり

★招待講演

*檜垣 大助1、熊谷 直矢2、鄒 青穎3 (1.日本工営株式会社、2.JR東日本㈱、3.弘前大学)

キーワード:地すべり、微地形、森林、多様性、白神山地

世界自然遺産にも指定されている青森県・秋田県にまたがる白神山地は, 冷温帯落葉広葉樹林に広く覆われている. この山地には, 過去の地すべりで形成された地形が密に分布している. そこでは, 緩やか動きを示す地すべりは, 主に脆弱な新第三紀の地質, 急峻な地形と多雪気候に関連して, しばしば災害をもたらす地形プロセスとなっており, 道路交通に支障をきたしたり, また下流に多量の土砂を供給したりする.
 地すべりのすべり面の深さは一般に木の根の深さより大きく, 森林被害をもたらす斜面上のエリアは大きく広がらないことが多い.裸地斜面は、元はすべり面の一部であることが多い滑落崖と, 移動体末端の急斜面で崩壊や河岸侵食が起こった所にできる.一般に滑落崖より傾斜の緩い移動体では, 地すべりによる引張・圧縮応力でキレツ, 凹地, 盛り上がり小丘などができ, 倒木や樹本の幹傾きが発生する。
 白神山地で, 複雑な地すべり微地形では, 土壌水分や地表の侵食や堆積状況の異なる複雑な環境ができ, 地すべり斜面での植生多様性を生み出すことが指摘されている(三島ほか, 2009).高さの大きい滑落崖では, 毎年の雪崩で低木・ササや草本しか生育していない.
 1999年に発生した地すべり地での植生遷移調査では, 先駆的な種の, 移動体上に残ったパッチ状のブナ林植生とその稚樹及び中間的な種に対する割合は, 2007年の41.3%からに比べ2014年の31.0%に減っていた(檜垣, 2022).白神山地での多数の地すべり地形の存在は, 場所を変え時期を変え斜面変動が多発してきたことを示し, 地すべり発生後のさまざまな遷移段階の植生が存在する可能性を示している。
 白神山地において, 地すべりは, 複雑な斜面地形と植生遷移が起こる場を提供し, 冷温帯落葉広葉樹林の植物種を多様にしている可能性がある.地球規模課題として地すべり災害リスク管理は極めて重要な課題であるが, 一方で, 地すべりに対する地生態学的アプローチもまた必要といえる.