11:00 〜 11:15
[HGG01-07] ミャンマー国インレー湖における水質形成機構
キーワード:水質形成機構、原単位法、水質シミュレーション、炭酸-りん結合・沈降機構、富栄養化、汚濁負荷量
1. はじめに
インレー湖はミャンマー国東部シャン州に位置する、ミャンマーで二番目の大きさの自然湖沼である。同湖は、インダー族の湖上住宅や伝統的な漁法で知られる風光明媚な湖で、ユネスコ・エコパークにも指定される、ミャンマーでも有数の観光地の一つである。しかし近年、流域の森林荒廃による土壌流出、過剰な浮畑栽培等による水環境の悪化が指摘されている。加えて、湖周辺の村落の家庭や、観光客に起因して排出される排水による負荷も水環境悪化の要因であると考えられている。
インレー湖ではこれまで、流域の土壌流出と湖への土壌流入、湖水深の減少等に焦点をあてた調査や研究が多く実施されてきた。しかしながら、生活排水等の汚濁負荷増大による有機汚濁、富栄養化等の水環境関連の課題に対しては、いくつかの水質調査が実施されてきたものの、それらは調査の実施に限られており、水質形成機構の解明にまで言及した研究は見当たらない。
そこで本稿では、「インレー湖における水質形成機構、特に『高い有機物濃度にも関わらず湖水の清澄性が保たれている』機構を解明すること」を目的とした研究の成果を紹介する。
2. 汚濁負荷要因の特定
流域からの汚濁負荷量の算定は、水質形成機構解明のために重要な検討の一つである。本章では、インレー湖流域で発生し湖に流入する汚濁負荷量を原単位法により推定し、インレー湖の水質汚濁要因をマクロ的に評価した。
インレー湖流域の排出汚濁負荷量を原単位法により推定した結果、インレー湖に流入する汚濁負荷量はCOD 29,000 kg/日、T-N 20,100 kg/日、T-P1,820 kg/日であり、面源系負荷がその大部分を占めることが明らかとなった。インレー湖に対する汚濁負荷量を日本で水質汚濁が進む湖沼である琵琶湖、霞ヶ浦、印旛沼、手賀沼の負荷量と比較したところ、CODでは琵琶湖、インレー湖、霞ヶ浦の順に大きく、T-NやT-Pはインレー湖の負荷量が最も大きい。インレー湖に流入する汚濁負荷量は水質悪化が著しい印旛沼・手賀沼と比較しても同等程度か多く、水質悪化要因となりうることがわかった。
3. 水質悪化の顕在箇所と悪化要因
インレー湖の水質形成機構の解明に資する種々の現地調査を、インレー湖および流域において実施した。これらの調査のうち、湖内の水質調査の結果からは、以下の点が明らかになった。
湖に流入する主要な河川の河口付近では、水質の悪化が見られる。これは、流入河川を経由して湖に流入する汚濁負荷、特に排出汚濁負荷量の大部分を占める面源系負荷の影響が強いことが要因であると推察される。Nant Latt川河口部では、ほぼすべての水質項目が高濃度であるが、ニャウンシェ街区から排出される生活排水や観光業(ホテル・レストラン)からの排出による汚濁負荷の影響を強く受けることが要因であると推察される。一方、湖内、特に湖北部では、有機物質や全窒素の濃度は主要河川河口部と同様に高いものの、全りんの濃度は低いことがわかった。
湖上村内の水路等では、SS、大腸菌群数、全窒素、アンモニア態窒素、全りん等の項目で非常に高い値をとり、生活排水の直接未処理放流による水質汚濁が顕在化していた。汚濁は観光資源の毀損となることが懸念されるのみならず、大腸菌群数が高いことから住民の水系伝染病への感染リスクの懸念があり、適切な汚水処理対策を講じる必要性が確認された。
4. インレー湖における水質形成機構(炭酸-りん結合・沈降機構による富栄養化の抑制)
以上の検討成果に基づき、インレー湖の水質形成機構を検討するとともに、水質シミュレーション解析モデルを用いて機構を検証した。
湖北部では、有機物濃度が高い一方で、藻類の増殖による富栄養化が抑制されていることが水質調査から確認された。既往研究では、地下水や湖水の炭酸塩濃度とりん濃度が負の相関を持つことから、地下水を通じて供給される炭酸が湖内の無機態りんと結合して沈殿する炭酸-りん結合・沈降機構の存在を推察している。本研究で実施した水質調査等から、本機構によりりん濃度が低下し植物プランクトンの増殖が制限され、湖の清澄性も維持されていることが推察された。
さらに、上記機構の類推を水質シミュレーションモデルを用いて解析することにより検証を行った。具体的には、炭酸-りん結合・沈降機構を表す、無機態りんの沈降速度を適切に設定しなければ湖内水質は再現できないことが明らかとなった。このことから、炭酸-りん結合・沈降機構により無機態りんが湖内で沈降・除去され、それにより富栄養化が抑制されている機構の存在を、水質モデル解析において明らかにすることができた。
インレー湖はミャンマー国東部シャン州に位置する、ミャンマーで二番目の大きさの自然湖沼である。同湖は、インダー族の湖上住宅や伝統的な漁法で知られる風光明媚な湖で、ユネスコ・エコパークにも指定される、ミャンマーでも有数の観光地の一つである。しかし近年、流域の森林荒廃による土壌流出、過剰な浮畑栽培等による水環境の悪化が指摘されている。加えて、湖周辺の村落の家庭や、観光客に起因して排出される排水による負荷も水環境悪化の要因であると考えられている。
インレー湖ではこれまで、流域の土壌流出と湖への土壌流入、湖水深の減少等に焦点をあてた調査や研究が多く実施されてきた。しかしながら、生活排水等の汚濁負荷増大による有機汚濁、富栄養化等の水環境関連の課題に対しては、いくつかの水質調査が実施されてきたものの、それらは調査の実施に限られており、水質形成機構の解明にまで言及した研究は見当たらない。
そこで本稿では、「インレー湖における水質形成機構、特に『高い有機物濃度にも関わらず湖水の清澄性が保たれている』機構を解明すること」を目的とした研究の成果を紹介する。
2. 汚濁負荷要因の特定
流域からの汚濁負荷量の算定は、水質形成機構解明のために重要な検討の一つである。本章では、インレー湖流域で発生し湖に流入する汚濁負荷量を原単位法により推定し、インレー湖の水質汚濁要因をマクロ的に評価した。
インレー湖流域の排出汚濁負荷量を原単位法により推定した結果、インレー湖に流入する汚濁負荷量はCOD 29,000 kg/日、T-N 20,100 kg/日、T-P1,820 kg/日であり、面源系負荷がその大部分を占めることが明らかとなった。インレー湖に対する汚濁負荷量を日本で水質汚濁が進む湖沼である琵琶湖、霞ヶ浦、印旛沼、手賀沼の負荷量と比較したところ、CODでは琵琶湖、インレー湖、霞ヶ浦の順に大きく、T-NやT-Pはインレー湖の負荷量が最も大きい。インレー湖に流入する汚濁負荷量は水質悪化が著しい印旛沼・手賀沼と比較しても同等程度か多く、水質悪化要因となりうることがわかった。
3. 水質悪化の顕在箇所と悪化要因
インレー湖の水質形成機構の解明に資する種々の現地調査を、インレー湖および流域において実施した。これらの調査のうち、湖内の水質調査の結果からは、以下の点が明らかになった。
湖に流入する主要な河川の河口付近では、水質の悪化が見られる。これは、流入河川を経由して湖に流入する汚濁負荷、特に排出汚濁負荷量の大部分を占める面源系負荷の影響が強いことが要因であると推察される。Nant Latt川河口部では、ほぼすべての水質項目が高濃度であるが、ニャウンシェ街区から排出される生活排水や観光業(ホテル・レストラン)からの排出による汚濁負荷の影響を強く受けることが要因であると推察される。一方、湖内、特に湖北部では、有機物質や全窒素の濃度は主要河川河口部と同様に高いものの、全りんの濃度は低いことがわかった。
湖上村内の水路等では、SS、大腸菌群数、全窒素、アンモニア態窒素、全りん等の項目で非常に高い値をとり、生活排水の直接未処理放流による水質汚濁が顕在化していた。汚濁は観光資源の毀損となることが懸念されるのみならず、大腸菌群数が高いことから住民の水系伝染病への感染リスクの懸念があり、適切な汚水処理対策を講じる必要性が確認された。
4. インレー湖における水質形成機構(炭酸-りん結合・沈降機構による富栄養化の抑制)
以上の検討成果に基づき、インレー湖の水質形成機構を検討するとともに、水質シミュレーション解析モデルを用いて機構を検証した。
湖北部では、有機物濃度が高い一方で、藻類の増殖による富栄養化が抑制されていることが水質調査から確認された。既往研究では、地下水や湖水の炭酸塩濃度とりん濃度が負の相関を持つことから、地下水を通じて供給される炭酸が湖内の無機態りんと結合して沈殿する炭酸-りん結合・沈降機構の存在を推察している。本研究で実施した水質調査等から、本機構によりりん濃度が低下し植物プランクトンの増殖が制限され、湖の清澄性も維持されていることが推察された。
さらに、上記機構の類推を水質シミュレーションモデルを用いて解析することにより検証を行った。具体的には、炭酸-りん結合・沈降機構を表す、無機態りんの沈降速度を適切に設定しなければ湖内水質は再現できないことが明らかとなった。このことから、炭酸-りん結合・沈降機構により無機態りんが湖内で沈降・除去され、それにより富栄養化が抑制されている機構の存在を、水質モデル解析において明らかにすることができた。