日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-GM 地形学

[H-GM03] 地形

2022年5月23日(月) 09:00 〜 10:30 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:齋藤 仁(関東学院大学 経済学部)、コンビーナ:八反地 剛(筑波大学生命環境系)、Parkner Thomas(University of Tsukuba, Graduate School of Life and Environmental Sciences)、コンビーナ:南雲 直子(土木研究所 水災害・リスクマネジメント国際センター)、座長:齋藤 仁(関東学院大学 経済学部)、南雲 直子(土木研究所 水災害・リスクマネジメント国際センター)


09:00 〜 09:15

[HGM03-03] 白馬連山における周氷河性平滑斜面での礫の移動

*深田 愛理1、奈良間 千之2 (1.新潟大学・院、2.新潟大学)


キーワード:周氷河性平滑斜面、RTK-UAV、点群データ、変動ベクトル解析、凍結融解作用

1.はじめに
 白馬連山では,西側が緩傾斜面,東側が急傾斜面からなる非対称山稜が連続してみられる.非対称山稜の西側の緩傾斜面は,周氷河性平滑斜面と呼ばれる(Klaer,1962).これまで周氷河性平滑斜面の砂礫地では,斜面の形態,表層岩屑の礫径と移動量,移動を引き起こす周氷河作用について研究がおこなわれてきた(高山地形研究グループ, 1978など). しかしながら,先行研究で計測された礫の移動量の測定は,周氷河性平滑斜面の一部と限定的であり,斜面全体での礫の移動量やその分布,礫の移動様式,移動によって生じる地形変化から,斜面全体の形成プロセスは論じられていない.
そこで本研究では,RTK-GNSSを搭載したUAV(Phantom4-RTK)を用いて2020年と2021年の9月に取得した空中連続画像からオルソ画像と点群データを作成し,ベクトル解析,DSMの差分,イメージマッチング解析より,礫の移動量と空間分布,礫の移動様式を調べた.
2.地域概要
本研究では,飛彈山脈北部の白馬岳と杓子岳の2つの周氷河性平滑斜面を対象とした.この稜線の東側斜面は,急崖や岩壁の急傾斜面であるが,西側斜面は周氷河作用をうけた平滑斜面が広がる.白馬岳山頂周辺は,古生代の砂岩・頁岩域と珪長質凝灰岩域がみられ,稜線近くまでハイマツや風衝草原がおおい,砂礫地と植生地が入り組んだ条線土が広がっている(小泉,1979). 一方,杓子岳山頂周辺は,大部分が新第三紀の前期中新世に貫入した珪長岩であり,植生のない砂礫斜面が広がり,基盤が露出している箇所もある.また,部分的に珪長質凝灰岩域や層状細粒形質凝灰岩域がある.
3.研究方法
  2020年9月15日と2021年9月10日(白馬岳),12日(杓子岳)に取得したUAV(Phantom4-RTK)の2時期の空撮画像とSfM-MVS技術ソフト(Pix4D,ContextCapture)を用いて,解像度1.7㎝のオルソ補正画像,DSM,3次元点群データを作成した.作成したオルソ補正画像,DSM,3次元点群データにおいて精度検証をおこない,±2.7㎝以下を水平誤差,±4.3㎝以下を鉛直誤差,3.7㎝以下を変動量の誤差とした.作成したオルソ補正画像のイメージマッチング解析から水平方向の移動距離,DSMの差分から鉛直方向の地形変化,点群データと中日本航空(株)製のMierreを用いた変動ベクトル解析により変動量を調べた(菊池ほか,2018). 
また,礫の移動における素因を調べるために現地調査とArcGISを用いた解析をおこない,傾斜,礫径,地中の斜面物質,表面形態を調査した.
4.結果
 作成したオルソ補正画像,DSM,3次元点群データにおいて大部分が誤差以下であり,誤差以上の場所がモザイク状に点在していた.
2時期のオルソ補正画像を用いてイメージマッチング解析をおこなったところ,白馬岳では最大13㎝程度,杓子岳では最大50cm程度の礫の水平移動が確認された.作成した2時期のDSMを用いた差分結果から,白馬岳では10㎝以下,杓子岳では20cm程度の鉛直方向の低下を確認した.
また,礫の移動様式を知るため,水平方向の変化が大きい場所で変動ベクトル解析を実施した結果,白馬岳では25cm以下,杓子岳では1m以下の移動を確認した.断面図を作成したところ,どちらの斜面においても斜面方向に沿った下方への移動を確認した.
 ArcGISを用いて各斜面の傾斜は,どちらも平均28°程度であった.表面から50㎝程度の柱状図を作成したところ,白馬岳の北側斜面では主に土壌で構成されていたが,南側斜面では主に礫で構成されていた.杓子岳では,土壌がむき出しになった場所や礫と土壌が混在した場所が確認された.どちらの斜面においても礫は淘汰されており,深度が深くなるにつれ小さい礫が分布する傾向がみられた.白馬岳の砂礫斜面では,礫の長径の平均は10cm以下と小さく,杓子岳では平均10cm以上と大きかった.オルソ補正画像で砂礫斜面を確認すると,礫を明瞭に確認できないほど小さい礫から構成されている場所は白色で,長径が10㎝以上で礫の形を判別できる場所は灰色で識別可能であった.
5.考察
 イメージマッチング解析,変動ベクトル解析の結果から,礫の移動量が大きい場所は,礫がオルソ補正画像で確認できないほど小さい礫で構成されていた場所であった.長径の平均10㎝以上の礫が集まる斜面の礫はほとんど移動していなかった.この結果から,移動量の違いは,礫径の違いが大きく影響していると考えられる.地表面が土壌で構成された場所や礫と土壌が混在した場所は礫が持ち上がりやすいため,凍上が起こった際の凍上量が大きくことで移動量も大きくなると考えられる.さらに,年周期性の凍結融解作用の効果もあり,礫の移動が大きくなる可能性がある. 礫の移動量は1m以下と大きい場所があったことから,移動量が大きかった場所ではフロストクリープといった年間数~十数㎝程度の移動だけの効果ではない.フロストクリープに加え,年間数10㎝~1m程度移動するジェリフラクションやウォッシュによる効果が大きいと考えられる.しかしながら,移動量が大きかったのは斜面の一部分に限定されており,大部分は凍上とフロストクリープのみはたらいているため,礫の移動はほとんど起こっていないと考えられる.