10:15 〜 10:30
[HGM03-08] ブータン首都・ティンプー盆地の地形災害の脆弱性
キーワード:ブータン、微地形、地形災害
ブータンの首都ティンプー (Thimphu)はブータンの政治・経済の中心地であり、近年の人口増加に伴って都市化が急速に進み市街地も周辺に拡大しつつある。しかしながら、中心市域は地形的に安全とは言えない土石流扇状地上に広がっている。また、王宮や政府建物および国会議事堂など国家にとって重要な施設も安全とは言いがたい地形条件を持つ地域に立地している。このようなティンプー周辺の微地形について検討し、地形災害の脆弱性を指摘する。
ティンプー盆地は、ウォン川(Wong Chhu)の支流であるティンプー川(Thimphu Chhu)の中流に位置する山間盆地で、標高2300-2600mに広がっている。ティンプー川は、チベットとの国境の6000m峰を削る氷河から発源し、チベット高原の南縁部の小起伏面を深く浸食してV字谷を形成した後に中流部の盆地に流下する。ティンプーの中心市街地の西にもチベット高原から連なる高度4000m以上の最終氷期とみられる氷河地形が卓越する小起伏面が発達する。その東端(Thujidra Top)には東に向かって開く南北約3km、比高700mを超える大規模崩壊地が発達しており、Phanjong Monasteryはその中に位置する。東に流下する川(Chubachu)はこの崩壊地を源流としており、ティンプーの中心市街地がある土石流扇状地を発達させる。また、ティンプー盆地の南にも標高約4700mに達する小起伏面が残存し、Relang Tshoなどの氷河の圏谷に残された湖が特徴的である。ティンプー周辺には、風化が進む約5億年前の層厚最大5kmの変成堆積岩(metasediment:Gansser,1983)が広がっており、これが差別的に浸食された結果、山間盆地の原型が形成されたと考えられる。
ティンプー盆地の地形災害環境を探るために、ALOS 30 DSMから作成したアナグリフ画像や2004年撮影約5000分の1の大縮尺空中写真判読と短期間の野外調査の結果にもとづいて、山地斜面、土石流扇状地、扇状地、湖成段丘、河岸段丘、氾濫原、現河道に区分される微地形分類図を作成した。
ティンプー盆地を取り囲む山地も氷河作用や周氷河作用を受けた形跡が認められ、緩斜面が卓越する。このような斜面を開析して急傾斜の深い谷が形成されており、流下部に土石流扇状地を発達させる。ティンプー市街地を構成する土石流は、上流部の古い土石流とそれを開析した谷を通って流下した下流部の新しい土石流の2つに分けられる。このほか、ティンプー川左岸(東岸)の斜面を流下する谷に沿っても傾斜の大きい土石流が発達している。一方、ティンプー北部のIndian House周辺では、氷河地域に源流を持つサムテリン川(Samtelinghcu)とティンプー川との合流点に近い場所に扇状地が発達している。また、ティンプー川に沿っては、小規模ではあるが、河岸段丘が発達する。さらに、市街地の北のゾン(Dzon=郡役所)の周辺の水田の広がる緩傾斜面は、砂やシルトからなる湖成層が広く認められ、土石流などによる下流部の堰き止めによって生じた湖成堆積物と考えられる。その湖の旧汀線高度は約2350mであり、周辺の現河床(2320m)より30m程度高位にある。ティンプー川のファーマーズ・マーケットの対岸の小さな谷の出口の露頭では、河床より30m以上高い2350m付近にティンプー川の堆積物と思われる円礫層が土石流堆積物に覆われる様子が認められる。このため、支谷からの土石流堆積物が一時的にティンプー川を堰き止めた可能性が指摘される。現河路に沿って、旧流路を伴う氾濫原が王宮周辺や市街地の東縁で認められ、限られた範囲での河道の移動が起こったことがわかる。
ティンプー周辺の自然災害については、洪水の危険性についての評価に関するレポートがある (Merzet al., 2007)。このレポートでは、王宮が浸水する可能性を指摘しているが、王宮が周りよりも低い旧流路に位置している事実を見逃し、浸水深を小さく見積もっている。このレポートでは、ティンプー市街地を流れる川(Chubachu)についても、大臣の集団居住地で被害が大きいことは指摘しているが、土石流ではなく洪水(flood)の危険性について検討しており、被害想定について根本的に間違っている。ティンプー市街地では、至る所に土石流によってもたらされた巨礫が認められ、掘削工事の露頭では、複数のユニットからなる土石流堆積物が認められることから、土石流が繰り返し発生したことは明らかである。このほか、国会議事堂は土石流渓流の出口に位置しており、危険性が極めて高いことが指摘される。ティンプー盆地では比較的厚い未固結の堆積物が分布している。ゾン周辺では大規模な開発が進んでおり、湖成層の分布範囲では増幅された地震動と表層地すべりによる家屋被害も懸念される。
ティンプー盆地は、ウォン川(Wong Chhu)の支流であるティンプー川(Thimphu Chhu)の中流に位置する山間盆地で、標高2300-2600mに広がっている。ティンプー川は、チベットとの国境の6000m峰を削る氷河から発源し、チベット高原の南縁部の小起伏面を深く浸食してV字谷を形成した後に中流部の盆地に流下する。ティンプーの中心市街地の西にもチベット高原から連なる高度4000m以上の最終氷期とみられる氷河地形が卓越する小起伏面が発達する。その東端(Thujidra Top)には東に向かって開く南北約3km、比高700mを超える大規模崩壊地が発達しており、Phanjong Monasteryはその中に位置する。東に流下する川(Chubachu)はこの崩壊地を源流としており、ティンプーの中心市街地がある土石流扇状地を発達させる。また、ティンプー盆地の南にも標高約4700mに達する小起伏面が残存し、Relang Tshoなどの氷河の圏谷に残された湖が特徴的である。ティンプー周辺には、風化が進む約5億年前の層厚最大5kmの変成堆積岩(metasediment:Gansser,1983)が広がっており、これが差別的に浸食された結果、山間盆地の原型が形成されたと考えられる。
ティンプー盆地の地形災害環境を探るために、ALOS 30 DSMから作成したアナグリフ画像や2004年撮影約5000分の1の大縮尺空中写真判読と短期間の野外調査の結果にもとづいて、山地斜面、土石流扇状地、扇状地、湖成段丘、河岸段丘、氾濫原、現河道に区分される微地形分類図を作成した。
ティンプー盆地を取り囲む山地も氷河作用や周氷河作用を受けた形跡が認められ、緩斜面が卓越する。このような斜面を開析して急傾斜の深い谷が形成されており、流下部に土石流扇状地を発達させる。ティンプー市街地を構成する土石流は、上流部の古い土石流とそれを開析した谷を通って流下した下流部の新しい土石流の2つに分けられる。このほか、ティンプー川左岸(東岸)の斜面を流下する谷に沿っても傾斜の大きい土石流が発達している。一方、ティンプー北部のIndian House周辺では、氷河地域に源流を持つサムテリン川(Samtelinghcu)とティンプー川との合流点に近い場所に扇状地が発達している。また、ティンプー川に沿っては、小規模ではあるが、河岸段丘が発達する。さらに、市街地の北のゾン(Dzon=郡役所)の周辺の水田の広がる緩傾斜面は、砂やシルトからなる湖成層が広く認められ、土石流などによる下流部の堰き止めによって生じた湖成堆積物と考えられる。その湖の旧汀線高度は約2350mであり、周辺の現河床(2320m)より30m程度高位にある。ティンプー川のファーマーズ・マーケットの対岸の小さな谷の出口の露頭では、河床より30m以上高い2350m付近にティンプー川の堆積物と思われる円礫層が土石流堆積物に覆われる様子が認められる。このため、支谷からの土石流堆積物が一時的にティンプー川を堰き止めた可能性が指摘される。現河路に沿って、旧流路を伴う氾濫原が王宮周辺や市街地の東縁で認められ、限られた範囲での河道の移動が起こったことがわかる。
ティンプー周辺の自然災害については、洪水の危険性についての評価に関するレポートがある (Merzet al., 2007)。このレポートでは、王宮が浸水する可能性を指摘しているが、王宮が周りよりも低い旧流路に位置している事実を見逃し、浸水深を小さく見積もっている。このレポートでは、ティンプー市街地を流れる川(Chubachu)についても、大臣の集団居住地で被害が大きいことは指摘しているが、土石流ではなく洪水(flood)の危険性について検討しており、被害想定について根本的に間違っている。ティンプー市街地では、至る所に土石流によってもたらされた巨礫が認められ、掘削工事の露頭では、複数のユニットからなる土石流堆積物が認められることから、土石流が繰り返し発生したことは明らかである。このほか、国会議事堂は土石流渓流の出口に位置しており、危険性が極めて高いことが指摘される。ティンプー盆地では比較的厚い未固結の堆積物が分布している。ゾン周辺では大規模な開発が進んでおり、湖成層の分布範囲では増幅された地震動と表層地すべりによる家屋被害も懸念される。