日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-GM 地形学

[H-GM03] 地形

2022年5月30日(月) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (11) (Ch.11)

コンビーナ:齋藤 仁(関東学院大学 経済学部)、コンビーナ:八反地 剛(筑波大学生命環境系)、Parkner Thomas(University of Tsukuba, Graduate School of Life and Environmental Sciences)、コンビーナ:南雲 直子(土木研究所 水災害・リスクマネジメント国際センター)、座長:南雲 直子(土木研究所 水災害・リスクマネジメント国際センター)


11:00 〜 13:00

[HGM03-P01] 過去の広域豪雨に伴う斜面崩壊の分布とその特徴
―広島県における1945年9月枕崎台風を事例に―

*岩佐 佳哉1 (1.広島大・学振DC)


キーワード:枕崎台風、斜面崩壊、広島県、GIS

1.はじめに
広島県では,平成26年8月豪雨,平成30年7月豪雨(以下,西日本豪雨と呼ぶ)をはじめ,豪雨に伴う斜面崩壊の被害が何度も発生してきた.中でも,1945年9月に広島県を直撃した枕崎台風は,明治以降に広島県で発生した土砂災害の中で最多となる2,169人の死者を出した(岩佐ほか,印刷中).しかし,枕崎台風に伴う斜面崩壊の分布は一部の地域でのみ明らかにされているにすぎず(河田ほか,1992;岩佐・熊原,2020;岩佐,印刷中),全体像は不明のままである.
枕崎台風の襲来時期は,米軍により空中写真が多数撮影された時期と重なるため,写真判読によって斜面崩壊の分布を詳細に把握できる利点がある.斜面崩壊の分布を明らかにした上で,その要因を検討することは,斜面崩壊の発生メカニズムや今後の土砂災害に対する防災を考える上でも重要であると考える.
そこで本発表では,広島県中・南部を対象に枕崎台風に伴う斜面崩壊の分布を明らかにし,その特徴を検討する.

2.研究方法
枕崎台風に伴う斜面崩壊の分布を明らかにするため,1947年から1948年にかけて米軍が撮影した空中写真の実体視判読を行った.判読に使用した空中写真の縮尺は約3,000~40,000分の1であり,判読した範囲は9,624 km2である.判読の際には,谷の中に認められる白い筋を斜面崩壊が流下した跡であるとみなし,その最上部を崩壊源として地理院地図の作図機能を用いてマッピングした.また,斜面崩壊の特徴を検討するために,標高や傾斜といった地形条件や地質条件,降水量分布との比較を行った.標高や傾斜との関係を検討する際には,10 m間隔の数値標高モデルとQGISを用いて生成した傾斜量データを使用した.それらのデータを用いて,崩壊源における標高や傾斜を計測した.また,降水量との関係を検討するにあたり,広島地方気象台編(1984),中央気象台編(1985),広島県土木建築部砂防課編(1997),気象庁webサイトに基づいて,各観測点における1945年9月17日から18日までの期間の最大24時間降水量を復元した.

3.斜面崩壊の分布とその特徴
対象地域において,枕崎台風に伴う斜面崩壊が少なくとも6,769箇所で認められた.斜面崩壊は対象地域の広範囲に分布する.広島湾沿岸部では斜面崩壊の発生密度が30個/km2を超える範囲が広がり,特に,江田島市北部では発生密度が70個/km2を超える.また,世羅町東部や廿日市市北部でも斜面崩壊の発生密度がやや高い.斜面崩壊は,東北東–西南西の方向にのびる,幅30 kmの帯状の範囲で発生密度が高い.この範囲は枕崎台風の推定進路にやや斜交するように分布する.
斜面崩壊と最大24時間降水量の分布を比較すると,最大24時間降水量が170 mmを超える範囲で斜面崩壊の発生密度が高い.降水量ごとに発生密度を集計すると,降水量が多いほど斜面崩壊の発生密度は高くなっており,220-230 mmで発生密度が3.2個/km2と最も高い.降水量の多寡が斜面崩壊の発生密度に関連している可能性がある.
地形条件と斜面崩壊との関係について,標高ごとに斜面崩壊の発生密度を集計すると,250-300 mで1.6個/km2,1,100-1,150 mで3.2個/km2と二つのピークが現れる.また,傾斜ごとに斜面崩壊の発生密度を集計すると,25-30 ºの傾斜で1.9個/km2と最も発生密度が高い.
地質条件ごとに斜面崩壊の発生密度を集計すると,花崗岩類で発生密度が最も高く,斜面崩壊のうち77 %が花崗岩類の分布する地域で発生している.次いで流紋岩類と付加体で発生密度が高い.地質ごとに最大24時間降水量と斜面崩壊の発生密度を比較すると,流紋岩類では最大24時間降水量が180-190 mmで発生密度が1.1個/km2であり,220-230 mmで発生密度が3.6個/km2と最大になる.一方で,花崗岩類では140-150 mm程度の降水量であっても発生密度が1個/km2であり,220-230 mmで発生密度が6.8個/km2と最大になる.同じ降水量であっても,地質ごとに斜面崩壊の発生しやすさが異なるといえる.
なお,予稿投稿時点において,より詳細な地形データを用いた分析を継続中であり,その結果は当日に発表を行う予定である.

謝辞:本研究の一部は科学研究費特別研究員奨励費「湿潤変動帯における災害の発生履歴の解明に基づく実効性のある防災教育」(課題番号:JP20J22288)による助成を受けた.
文献:岩佐(印刷中)地理学評論 95-2.岩佐・熊原(2020)地理科学 75, 109-116.岩佐ほか(印刷中)広島大学総合博物館研究報告 13.河田ほか(1992)京都大学防災研究所年報 35, 403-432.中央気象台編(1985)『雨量報告7』.広島県土木建築部砂防課編(1997)『広島県砂防災害史』.広島地方気象台編(1984)『広島の気象百年誌』.