10:45 〜 11:00
[HQR04-01] 北海道赤井川カルデラにおける後カルデラ期の地形発達
キーワード:赤井川カルデラ、赤井川断層、河成段丘、湖成段丘、テフラ
1.緒言
赤井川カルデラは北海道南西部に位置し,約1.6 Maに形成された[1].当カルデラの西部~北部にかけて,後期更新世の地形面を変位させる赤井川断層の存在が指摘されている[2][3].しかし地形面の年代の根拠や赤井川断層の成因など不明な点は多い.そこで本研究ではこの2点を中心として,当カルデラにおける後カルデラ期の地形発達を議論する.
2.手法
本研究では空中写真を用いた地形判読による地形面と断層の認定,現地での地形面構成層および被覆層の観察と試料採取を行った.また試料中の火山ガラスをSEM-EDSによって分析し,主成分化学組成から既知のテフラと対比した.
3.結果と考察
3.1 地形面の分類と編年
赤井川カルデラ内および余市川沿いの地形面は次のように分類される.地形分類図と露頭位置はFig. 1に示す.
i)湖成段丘面
湖成段丘面は現カルデラ床(赤井川河床)からの比高によって,上位より順にLacustrine terrace IとII(以下LTI,LTIIと記載)に分けられる.Loc. 1ではLTIIが層厚9 m以上の凝灰質砂・シルト互層および砂礫層から成り,全体的に著しく風化している様子が確認できた.
ii)河成段丘面
カルデラ内の各支流河川沿いに河成段丘面が分布しており,上流ではLTIIを埋積し下流ではこれを下刻している.露頭から年代試料が得られず,正確な形成年代は不明である.しかし余市川・赤井川合流点付近で,カルデラ内から連続する本面と後述する余市川沿いのFluvial terrace II(以下FTII)を比較すると,地形面の勾配と開析の程度,比高が概ね等しい.よってカルデラ内の河成面を余市川沿いのFTIIと対比した.
余市川沿いと同支流の支谷出口に分布する段丘は上位から順に,Fluvial terrace I(以下FTI)とFTII,Lower terracesに分けられる.FTIを被覆しているとみられる火砕流堆積物(Loc. 2)の火山ガラスは主成分化学組成がToya[4]と概ね一致する.したがって本面はToyaが堆積した106 ka以前の地形面と考えられる.FTIIの段丘礫層(Loc. 3)に含まれる火山ガラスは主成分化学組成からSpfa-1[4]に対比されるため,これが降下した46 ka以降に段丘化したものと思われる.
iii)土石流扇状地面
カルデラ外輪山麓に沿って分布する地形面(Fig.1: Debris flow fan)で,LTI,IIおよび後述のFTIIと比較して急勾配(>20%)である.LTIIおよびFTIIとの境界は断続的な遷緩線あるいは小崖であり,既往研究[2][3]および本研究ではこれを赤井川断層としている.
3.2 赤井川断層の変動地形学的特徴と活動性
赤井川断層はカルデラ西部~北部にかけて円弧状に延びる断層で,内側と外側の2条が概ね平行に配列している.内側の断層はLTIIを変位させ,外側の断層はFTIIを変位させている,あるいはDebris flow fanとFTIIを限る遷緩線をなしている.この2条の断層はいずれもカルデラの内側が低下するセンスである.
ここで示した赤井川断層の形態はカルデラ陥没時に発達するカルデラ境界断層に類似しており,およそ1.6 Maのカルデラ形成時にその原型がつくられたものと推定される.一方で当断層はFTIIを変位させていることから46 ka以降にも活動している.すなわち赤井川断層は1.6 Ma以降の後カルデラ期において再活動してきたと考えられる.
赤井川断層再活動の原因として,後カルデラ火山活動あるいは広域応力の影響が挙げられる.赤井川カルデラの後カルデラ期には北円山の火山活動が生じており,この活動により再度のカルデラ陥没と断層運動が引き起こされた可能性がある.また北海道南西部は6 Ma以降NW-SE方向の圧縮応力場であり[5],これが赤井川断層の再活動につながった可能性も考えられる.
4.まとめ
赤井川カルデラ内部に存在する赤井川断層は,その形状から1.6 Maのカルデラ陥没時に形成されたカルデラ境界断層と推定される.しかし同断層は46 ka以降の地形面を変位させていることから,その最新の活動時期は46 kaよりも新しい.これは赤井川断層が後カルデラ期に再活動したことを示唆している.
文献
[1] 横山ほか(2003)岩石鉱物科学,32, 80-95.
[2] 活断層研究会編(1991)新編 日本の活断層,東京大学出版会.
[3] 北海道電力株式会社(2015)泊発電所 地盤(敷地周辺の地質・地質構造)について
[4] 仲村ほか(2013)石油技術協会誌,78, 79-91.
[5] 渡辺(1993)地質学雑誌,99, 105-116.
赤井川カルデラは北海道南西部に位置し,約1.6 Maに形成された[1].当カルデラの西部~北部にかけて,後期更新世の地形面を変位させる赤井川断層の存在が指摘されている[2][3].しかし地形面の年代の根拠や赤井川断層の成因など不明な点は多い.そこで本研究ではこの2点を中心として,当カルデラにおける後カルデラ期の地形発達を議論する.
2.手法
本研究では空中写真を用いた地形判読による地形面と断層の認定,現地での地形面構成層および被覆層の観察と試料採取を行った.また試料中の火山ガラスをSEM-EDSによって分析し,主成分化学組成から既知のテフラと対比した.
3.結果と考察
3.1 地形面の分類と編年
赤井川カルデラ内および余市川沿いの地形面は次のように分類される.地形分類図と露頭位置はFig. 1に示す.
i)湖成段丘面
湖成段丘面は現カルデラ床(赤井川河床)からの比高によって,上位より順にLacustrine terrace IとII(以下LTI,LTIIと記載)に分けられる.Loc. 1ではLTIIが層厚9 m以上の凝灰質砂・シルト互層および砂礫層から成り,全体的に著しく風化している様子が確認できた.
ii)河成段丘面
カルデラ内の各支流河川沿いに河成段丘面が分布しており,上流ではLTIIを埋積し下流ではこれを下刻している.露頭から年代試料が得られず,正確な形成年代は不明である.しかし余市川・赤井川合流点付近で,カルデラ内から連続する本面と後述する余市川沿いのFluvial terrace II(以下FTII)を比較すると,地形面の勾配と開析の程度,比高が概ね等しい.よってカルデラ内の河成面を余市川沿いのFTIIと対比した.
余市川沿いと同支流の支谷出口に分布する段丘は上位から順に,Fluvial terrace I(以下FTI)とFTII,Lower terracesに分けられる.FTIを被覆しているとみられる火砕流堆積物(Loc. 2)の火山ガラスは主成分化学組成がToya[4]と概ね一致する.したがって本面はToyaが堆積した106 ka以前の地形面と考えられる.FTIIの段丘礫層(Loc. 3)に含まれる火山ガラスは主成分化学組成からSpfa-1[4]に対比されるため,これが降下した46 ka以降に段丘化したものと思われる.
iii)土石流扇状地面
カルデラ外輪山麓に沿って分布する地形面(Fig.1: Debris flow fan)で,LTI,IIおよび後述のFTIIと比較して急勾配(>20%)である.LTIIおよびFTIIとの境界は断続的な遷緩線あるいは小崖であり,既往研究[2][3]および本研究ではこれを赤井川断層としている.
3.2 赤井川断層の変動地形学的特徴と活動性
赤井川断層はカルデラ西部~北部にかけて円弧状に延びる断層で,内側と外側の2条が概ね平行に配列している.内側の断層はLTIIを変位させ,外側の断層はFTIIを変位させている,あるいはDebris flow fanとFTIIを限る遷緩線をなしている.この2条の断層はいずれもカルデラの内側が低下するセンスである.
ここで示した赤井川断層の形態はカルデラ陥没時に発達するカルデラ境界断層に類似しており,およそ1.6 Maのカルデラ形成時にその原型がつくられたものと推定される.一方で当断層はFTIIを変位させていることから46 ka以降にも活動している.すなわち赤井川断層は1.6 Ma以降の後カルデラ期において再活動してきたと考えられる.
赤井川断層再活動の原因として,後カルデラ火山活動あるいは広域応力の影響が挙げられる.赤井川カルデラの後カルデラ期には北円山の火山活動が生じており,この活動により再度のカルデラ陥没と断層運動が引き起こされた可能性がある.また北海道南西部は6 Ma以降NW-SE方向の圧縮応力場であり[5],これが赤井川断層の再活動につながった可能性も考えられる.
4.まとめ
赤井川カルデラ内部に存在する赤井川断層は,その形状から1.6 Maのカルデラ陥没時に形成されたカルデラ境界断層と推定される.しかし同断層は46 ka以降の地形面を変位させていることから,その最新の活動時期は46 kaよりも新しい.これは赤井川断層が後カルデラ期に再活動したことを示唆している.
文献
[1] 横山ほか(2003)岩石鉱物科学,32, 80-95.
[2] 活断層研究会編(1991)新編 日本の活断層,東京大学出版会.
[3] 北海道電力株式会社(2015)泊発電所 地盤(敷地周辺の地質・地質構造)について
[4] 仲村ほか(2013)石油技術協会誌,78, 79-91.
[5] 渡辺(1993)地質学雑誌,99, 105-116.