日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-QR 第四紀学

[H-QR04] 第四紀:ヒトと環境系の時系列ダイナミクス

2022年5月22日(日) 13:45 〜 15:15 202 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:山田 和芳(早稲田大学)、コンビーナ:田村 亨(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、堀 和明(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、コンビーナ:卜部 厚志(新潟大学災害・復興科学研究所)、座長:山田 和芳(早稲田大学人間科学学術院)、堀 和明(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、田村 亨(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、卜部 厚志(新潟大学災害・復興科学研究所)

14:00 〜 14:15

[HQR04-07] 北海道東部,春採湖湖底堆積物の花粉分析による縄文海進期の植生変遷についての予察的研究

*酒井 恵祐1、中西 利典2、藤木 利之3七山 太4大串 健一1 (1.神戸大学大学院人間発達環境学研究科、2.ふじのくに地球環境史ミュージアム、3.岡山理科大学理学部基礎理学科、4.産業技術総合研究所)


キーワード:縄文海進、花粉、古環境

最終氷期以降の日本列島において,約7,500〜5,000年前の完新世中期は,現在よりも気温は約2℃, 海水準は2〜3 m高い温暖な気候であったと推定されている(松島,2006).この完新世中期頃に見られる海水準上昇は,縄文海進と呼ばれる.縄文海進のピーク時は現在よりも温暖であった可能性があるため,将来の地球温暖化に伴う環境研究の上で,海流系や気候さらに生態系の遷移を予測するためのアナログとして古環境学的に注目されている.先行研究では,貝塚から産出する貝化石の群集解析に基づき,縄文海進の最盛期(約6,500〜5,500年前)に,より南に生息する種が生息地をより北に広げていたことが示唆されている(松島,2006).これは,対馬暖流が現在より北上し, 北海道東部にまで到達していた可能性を貝の群集組成に基づき,定性的に推測している.一方で,北海道における縄文海進時の対馬暖流北上に関する高時間分解能での古環境データは乏しく,さらに他の環境指標での整合的な結果がいまだに得られていない.高い堆積速度を有しつつ連続的に堆積する堆積物コアの高時間解像度での定量的な古環境データは,地球温暖化に伴う環境変化のより正確な予測につながるだけでなく,気候とヒト(縄文人)との関係も明らかにすることが期待できる.
そこで,本研究では,北海道の北海道釧路市に位置する春採湖から得られた湖底堆積物の化石花粉・有孔虫分析を行い,縄文海進期の陸・海の定量的な復元に取り組んでいる.今回は特に化石花粉分析の予察的な結果を報告する.
本試料は放射性炭素年代測定によって過去約8,500年間の復元が可能であることが既に分かっている.これまでの化石花粉分析の結果,縄文海進の最盛期に相当する試料において,ブナ属が多く産出する傾向がある.ブナ属は,温帯に広く分布する落葉広葉樹であり,現在は北海道黒松内低地帯を北限としている.このことは,縄文海進の温暖期にブナ属の分布が現在より東に広がり,釧路市においても温暖化していたことが示唆される.今回の分析は,予察的な結果であるため,今後は,さらにデータを追加して,縄文海進期の古環境をより詳細かつ定量的な復元を行っていく.