日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-QR 第四紀学

[H-QR04] 第四紀:ヒトと環境系の時系列ダイナミクス

2022年5月30日(月) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (12) (Ch.12)

コンビーナ:山田 和芳(早稲田大学)、コンビーナ:田村 亨(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、堀 和明(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、コンビーナ:卜部 厚志(新潟大学災害・復興科学研究所)、座長:山田 和芳(早稲田大学人間科学学術院)、堀 和明(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、田村 亨(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、卜部 厚志(新潟大学災害・復興科学研究所)

11:00 〜 13:00

[HQR04-P06] 137Cs法および210Pb法に基づく湿原堆積物表層の高時間分解能年代測定

*常岡 廉1横山 祐典1太田 耕輔1宮入 陽介1近藤 玲介1、横地 穣2、金子 和広3、井上 京4、紀藤 典夫5植村 杏太6隅田 まり7、百原 新8、冨士田 裕子9 (1.東京大学 大気海洋研究所、2.北海道大学 大学院国際食資源学院、3.北海道大学 大学院農学院、4.北海道大学 大学院農学研究院、5.北海道教育大学 函館校 国際地域学科、6.日本大学 文理学部、7.GEOMARヘルムホルツ海洋科学センター、8.千葉大学 園芸学部、9.北海道大学 北方生物圏フィールド科学センター)


キーワード:湿原、泥炭、Cs-137法、Pb-210法、ガンマ線検出装置、炭素吸収源

湿原は陸域で最も重要な炭素貯蔵効果を持つ環境として知られる(例えば,Yu et al., 2010; Loisel et al., 2014).湿原堆積物の分解速度は気候に左右され,特に寒冷気候が有機物分解を抑制する亜寒帯の湿原の炭素貯蔵効果は大きく,温暖化によってこれらの効果の低下が懸念されている(例えば,Wilson et al., 2021).こうした湿原の炭素貯蔵量は泥炭の面積と深さおよび炭素含有量から推定されているが,気候による影響を評価するには高時間分解能な編年情報が必要である.
湿原堆積物の年代推定にはテフロクロノロジーや放射性炭素(14C)年代測定がしばしば用いられてきた.しかし,指標テフラは堆積物中から必ずしも発見されるとは限らない.また,特に最表層堆積物は核実験起源の14Cを含む可能性が高く,14C年代測定法による年代決定が困難である.また,人為的な要因の気候変動も直接または間接的に湿原の堆積環境に影響を及ぼしていると考えられるが,その影響を検討するためには数年から数十年スケールの高分解能な編年情報が必要である.過去70年ほどの存在量の経年変化が知られるセシウム-137(137Cs)および半減期が比較的短い鉛-210(210Pb)を利用した年代測定は,過去数十年から百数十年までの堆積物の年代の推定に有用であり,比較的堆積速度が大きく放射性炭素年代測定の難しい堆積物に対しても適用することができる.そこで,本研究では最表層の湿原堆積物試料に対して137Csおよび210Pbを利用した高精度年代測定を行った.本研究では,極低バックグラウンドガンマ線検出装置を新たに導入し、最表層の湿原堆積物試料の137Csおよび210Pb放射能濃度の測定を行い,これらの結果から過去数十年の湿原堆積物の堆積・発達過程の解明を試みた.
137Csはその濃度のピークからグローバルフォールアウトの時期に相当する深度を割り出し,堆積速度を推定することができる.さらに,その堆積速度と210Pbの減衰傾向からより詳細な堆積速度を算出できる.測定の結果, 10-11 cmbs (cm below surface)に137Csが明瞭なピークを示した.これを核実験起源137Csのグローバルフォールアウトに相当する深度として最表層における堆積速度を計算すると,およそ0.18 cm/yrであった.210Pb濃度は,表層から5 cmbsの範囲を除いて深度とともに減衰する傾向が見られた.また0-5 cmbsにおいて極端に210Pb濃度が低い層が認められた.これは,該当する層準が主にミズゴケで構成されており210Pbが吸着する土壌粒子が殆ど無かったためと考えられる.そこで,この表層を除いた210Pb濃度と137Csによって推定した堆積速度からこの範囲の堆積年数を求めると,表層12cmの堆積物が過去約65年のものであることが分かった.また,ミズゴケ遺体から分解質泥炭への層相の切り替わりから,調査対象地における植物遺体の土壌化には約30年の期間を要することが明らかになった.