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[HSC06-P05] 暖流と寒流が混合する海域における溶存CO2のベースライン調査の留意点
キーワード:海域CO2貯留、沿岸ベースライン調査、pCO2
海底下CO2地中貯留における海域監視調査においては、海水中CO2成分が通常の自然変動の範囲にあるか、確認することが求められている。このため、自然変動の範囲を設定するベースライン調査が適切に行われることが重要となる。日本周辺には黒潮などの暖流と親潮などの寒流が存在する。両者が出会う海域は混合海域と称され、卓越する海流は季節により変化することが多い。日本沿岸にはこのような混合する海域が複数みられる。例えば、苫小牧実証試験が実施された日高湾は、そのような海域の一つで、夏季には津軽暖流の、冬季には沿岸親潮の影響を強く受ける。苫小牧実証試験では、CO2の指標としてCO2分圧(pCO2)と溶存酸素飽和度(DO%)の相関関係が利用され、pCO2が予測区間より高くなった場合に異常と判定する基準が採用されている。監視項目となる海水中のpCO2は、海水の性状により変化することが知られており、混合域では季節により卓越する水系が異なるため、季節によりpCO2への影響が変わる可能性がある。そこで、我々は、環境省ホームページで公開された苫小牧実証試験のベースライン調査と監視調査結果をもとに、混合域の特性が与えるpCO2への影響について検討した。日高湾の水系の特性を知るために、北海道立総合研究機構が実施している定期観測データ(マリンネット北海道)から、日高湾沿岸の水温・塩分データ(2010-2019)を調べた。日高湾では冬季に親潮や沿岸親潮系の水塊が卓越し、低水温・低塩分となり、その後、春季から夏季にかけて塩分は変化せずに水温が上昇する。夏季になり津軽暖流系へ移行することにより塩分が上昇する。苫小牧実証試験のベースライン調査では4回の四季調査が実施されたが、冬季と春季は親潮や沿岸親潮水系の、夏季と秋季は津軽暖流水系の典型的な水温・塩分のみで、寒流系の海水が水温上昇する時期(春季から夏季)のデータが得られていなかった。この結果、pCO2が上昇しやすい春季から夏季の水温上昇期のデータが得られず、初期の判定基準が低めに設定された可能性を示唆している。監視調査では、このような水温上昇期に実施されたデータもあり、このような条件下では判定基準を超えて異常値が出やすくなる可能性がある。暖流と寒流が混合する海域でベースライン調査によりpCO2の自然変動を把握する場合には、水温・塩分を指標として水系の状況を把握した上で適切な時期にベースライン調査を実施して判定基準を設定することが重要となる。