日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT18] 環境トレーサビリティ手法の開発と適用

2022年5月27日(金) 13:45 〜 15:15 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:陀安 一郎(総合地球環境学研究所)、コンビーナ:Ki-Cheol SHIN(総合地球環境学研究所)、山下 勝行(岡山大学大学院自然科学研究科)、座長:山下 勝行(岡山大学大学院自然科学研究科)、SHIN Ki-Cheol(総合地球環境学研究所)

15:00 〜 15:15

[HTT18-06] Sr同位体比を用いた植物の塩基カチオン吸収深度の推定

*越川 昌美1、渡邊 未来1、玉置 雅紀1山川 茜1、高木 麻衣1SHIN Ki-Cheol2、林 誠二1 (1.国立環境研究所、2.総合地球環境学研究所)

キーワード:Sr同位体比、塩基カチオン、植物、土壌

 87Sr/86Sr比は、地質に依存して大きく変化する特性を活かして、農産物などの産地判別に利用することが期待されている。しかし、たとえば母岩の風化産物と降下火山灰が層状に積もった土壌のように、土壌の87Sr/86Sr比が深度により変化する場合、植物の87Sr/86Sr比は根のSr吸収深度に依存して変化すると予想される。この現象を逆に利用すると、植物地上部の87Sr/86Sr比と、土壌の深度別の87Sr/86Sr比を比較することで、植物がSrや他の塩基カチオン(Ca, Mg, Na, Kなど)を土壌のどの深度から経根吸収しているかを推定できる可能性がある。このことを検証するため本研究では、母岩である花崗岩の風化産物と降下火山灰で土壌が構成された森林において、植物葉と土壌の87Sr/86Sr比を分析し、植物の塩基カチオン吸収深度の推定を試みた。
 試料は、福島県飯舘村の森林において、樹木性山菜であるコシアブラの葉、およびコシアブラ株元の土壌を深さ別に腐植層、鉱質土壌の0-5 cm、5-10 cm、10-20 cm、20-30 cm、30-50 cmまで採取した。葉は、水洗い後、乾燥・粉砕し、硝酸で分解した。土壌は2 mm篩を通過させながら、植物根を目視で取り分けた。篩を通過した土壌は、風乾後、1M 酢酸アンモニウムで抽出した。葉の分解液および土壌の抽出液は、ICP-AESおよびICP-MSで塩基カチオンを定量し、さらにSr spec樹脂を用いてSrを分離したのち、表面電離型質量分析計(Triton、総合地球環境学研究所)で87Sr/86Sr比を測定した。植物根は、水洗い後、すりつぶしてDNAを抽出し、植物種を識別するマーカー遺伝子としてmatKrbcLの遺伝子領域をPCRで増幅し、ハイスループットシーケンサーで解析した。全リード数に対するコシアブラの割合を求め、これに根の重量を乗じてコシアブラ根量の深さ分布を推定した。  
 土壌抽出液の87Sr/86Sr比は、30-50 cm深で最も低く、表層に向かって上昇した。これは、30-50 cmに安達太良山の降下火山灰が最も多いためと推察された。コシアブラ葉の87Sr/86Sr比は、腐植層と鉱質土壌の0-5 cm の87Sr/86Sr比に近い値を示し、コシアブラは浅い土壌層からSr等の塩基カチオンを吸収していることが示唆された。土壌から分離した根のDNA解析の結果、コシアブラ根は鉱質土壌の0-5 cmに最も多く分布していると推定され、上述した87Sr/86Sr比を用いた経根吸収深度の推定結果が妥当であることが確認できた。