16:00 〜 16:15
[HTT18-09] 安定同位体分析による姉川せき止め湖堆積物のヒ素の起源推定
キーワード:ヒ素、安定同位体
地殻中のヒ素(As)は地下水中に溶解し、土壌や地表水の汚染を引き起こし、生物循環に入るため、環境中ヒ素の動態を解明することは重要な課題である。本研究で対象とする滋賀県東部姉川上流域の湖成層は、地殻の約30倍の濃度でAsを含んでいる。この湖成層は、伊吹山の山体崩壊によるせき止め湖で形成されたものであり、姉川の河岸段丘崖に露出している。本研究は、湖成層に濃集するヒ素の起源推定を目的とし、安定炭素・窒素・硫黄同位体比分析と化学組成分析を行い、集水域から湖に至るヒ素の起源と堆積環境の検討を行った。
堆積物試料はL型アングルを用いて連続採取し、分取した後、凍結乾燥させた。Asを含む主要元素のバルク濃度は混酸(HNO3, H2O2, HF)を用いた全分解法、Asの化学状態分析は8分画ヒ素逐次抽出法(Keon et al., 2001)でそれぞれ溶液試料を作成し、ICP–AESを用いて定量した。全有機炭素(TOC)・全窒素(TN)・全硫黄(TS)含有量は、元素分析計を用いて定量した。TOCとTNの分析では塩酸処理を施した試料が用いられた。TOCの炭素同位体比(δ13CTOC)・TNの窒素同位体比(δ15NTN)はCN-IRMS分析、TSの硫黄同位体比(δ34STS)はS-IRMS分析により求められた。また、姉川流域の水のイオン分析用試料は、0.2 μmフィルタで濾過し、陽イオン濃度はICP-AES、陰イオン濃度はイオンクロマトグラフィーを用いて求めた。陽イオン分析用試料は、HNO3を用いて酸性固定した。硫酸イオンの同位体分析用試料については、0.2 μmフィルタで濾過した後、HClで酸性化し、BaCl2溶液でBaSO4固定した。硫酸イオンのδ34S(δ34SSO4)はS-IRMS、δ18O(δ18OSO4)は有機物OH-IRMSを用いて決定した。
堆積物中の植物遺体の放射性炭素年代測定から、姉川せき止め湖は4791 ± 126 (cal. yr BP, n = 2)に形成されたと推定される。堆積物のδ13CTOCは–28.9 ‰から–26.8‰の範囲で変動した。TOC/TNモル比は15から55(平均31.2 ± 0.01, n = 83)の範囲で変動することから、C3植物の湖への寄与が主体であった推定される。また、δ15NTNは–0.4‰から2.4‰の範囲で変動した。先行研究(Yamada et al., 1996)で示される現生の姉川河床堆積物δ15NTNは–1.75‰(δ13CTOCは–26.8 ‰)であったことから、せき止め湖への有機物の寄与は、現在の姉川と類似していたと考えられる。
一方、δ34STSは–6.12‰と–1.40‰の間で変動し、これは現在の姉川の年間平均δ34SSO4値(–3.8 ± 0.8‰;夏季が–3.0‰、冬季が–4.6‰)とおおよそ一致する。現在の姉川のSO42-濃度が約70 mMであった。堆積物のTS/TOC重量比は0から0.03(平均0.01 ± 0.01, n = 83)であり、湖底堆積物の平均値(0.05)に比べて十分に低く、典型的な淡水環境で形成したものであった。これらの結果から、堆積物と河川水のδ34S値の一致は、硫酸還元バクテリアの硫酸還元によって堆積後の間隙水中の硫酸イオンが完全に枯渇したことによると考えられる。
姉川のδ18OSO4値は平均1.5 ± 0.2‰(夏季が1.3‰、冬季が1.7‰)であり、δ34SSO4値との関係から、姉川のSO42-は岩石中の黄鉄鉱酸化に起因すると見なすことができる(Krouse and Mayer, 2000)。また、当該地域周辺は石炭紀~ジュラ紀前期の美濃帯堆積岩類からなり(山本, 1985)、ペルム紀・三畳紀境界の遠洋性堆積物の硫化物δ34Sは–20‰から–2‰の範囲を示すこと(Kajiwara et al., 1994)から、姉川SO42-は流域の地質の影響を強く受けていることが示唆される。せき止め湖堆積物の逐次抽出実験結果は、Asはケイ酸塩態と硫化物態に主に含まれることを示す。従って、δ13CTOC・δ15NTN・δ34STSの結果から、姉川せき止め湖は集水域からの寄与を強く受けた堆積場であり、湖底堆積物中のAs濃集は、伊吹山の山体崩壊に伴う美濃帯堆積岩類からの流出によって生じたと推察される。
堆積物試料はL型アングルを用いて連続採取し、分取した後、凍結乾燥させた。Asを含む主要元素のバルク濃度は混酸(HNO3, H2O2, HF)を用いた全分解法、Asの化学状態分析は8分画ヒ素逐次抽出法(Keon et al., 2001)でそれぞれ溶液試料を作成し、ICP–AESを用いて定量した。全有機炭素(TOC)・全窒素(TN)・全硫黄(TS)含有量は、元素分析計を用いて定量した。TOCとTNの分析では塩酸処理を施した試料が用いられた。TOCの炭素同位体比(δ13CTOC)・TNの窒素同位体比(δ15NTN)はCN-IRMS分析、TSの硫黄同位体比(δ34STS)はS-IRMS分析により求められた。また、姉川流域の水のイオン分析用試料は、0.2 μmフィルタで濾過し、陽イオン濃度はICP-AES、陰イオン濃度はイオンクロマトグラフィーを用いて求めた。陽イオン分析用試料は、HNO3を用いて酸性固定した。硫酸イオンの同位体分析用試料については、0.2 μmフィルタで濾過した後、HClで酸性化し、BaCl2溶液でBaSO4固定した。硫酸イオンのδ34S(δ34SSO4)はS-IRMS、δ18O(δ18OSO4)は有機物OH-IRMSを用いて決定した。
堆積物中の植物遺体の放射性炭素年代測定から、姉川せき止め湖は4791 ± 126 (cal. yr BP, n = 2)に形成されたと推定される。堆積物のδ13CTOCは–28.9 ‰から–26.8‰の範囲で変動した。TOC/TNモル比は15から55(平均31.2 ± 0.01, n = 83)の範囲で変動することから、C3植物の湖への寄与が主体であった推定される。また、δ15NTNは–0.4‰から2.4‰の範囲で変動した。先行研究(Yamada et al., 1996)で示される現生の姉川河床堆積物δ15NTNは–1.75‰(δ13CTOCは–26.8 ‰)であったことから、せき止め湖への有機物の寄与は、現在の姉川と類似していたと考えられる。
一方、δ34STSは–6.12‰と–1.40‰の間で変動し、これは現在の姉川の年間平均δ34SSO4値(–3.8 ± 0.8‰;夏季が–3.0‰、冬季が–4.6‰)とおおよそ一致する。現在の姉川のSO42-濃度が約70 mMであった。堆積物のTS/TOC重量比は0から0.03(平均0.01 ± 0.01, n = 83)であり、湖底堆積物の平均値(0.05)に比べて十分に低く、典型的な淡水環境で形成したものであった。これらの結果から、堆積物と河川水のδ34S値の一致は、硫酸還元バクテリアの硫酸還元によって堆積後の間隙水中の硫酸イオンが完全に枯渇したことによると考えられる。
姉川のδ18OSO4値は平均1.5 ± 0.2‰(夏季が1.3‰、冬季が1.7‰)であり、δ34SSO4値との関係から、姉川のSO42-は岩石中の黄鉄鉱酸化に起因すると見なすことができる(Krouse and Mayer, 2000)。また、当該地域周辺は石炭紀~ジュラ紀前期の美濃帯堆積岩類からなり(山本, 1985)、ペルム紀・三畳紀境界の遠洋性堆積物の硫化物δ34Sは–20‰から–2‰の範囲を示すこと(Kajiwara et al., 1994)から、姉川SO42-は流域の地質の影響を強く受けていることが示唆される。せき止め湖堆積物の逐次抽出実験結果は、Asはケイ酸塩態と硫化物態に主に含まれることを示す。従って、δ13CTOC・δ15NTN・δ34STSの結果から、姉川せき止め湖は集水域からの寄与を強く受けた堆積場であり、湖底堆積物中のAs濃集は、伊吹山の山体崩壊に伴う美濃帯堆積岩類からの流出によって生じたと推察される。