09:30 〜 09:45
[HTT19-03] 植栽基盤上のクロマツ海岸防災林における生育不均一性の把握に適した植生指標の検討
キーワード:衛星画像、植生指数、植林、盛土材料
1.はじめに
2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震の津波によって,仙台平野のクロマツ海岸林は深刻な被害を受けた.これを受けて,林野庁は仙台平野の丘陵地から持ち込んだ土壌材料をもとに植栽基盤を造成した.だが,造成された植栽基盤上に植栽されたクロマツにはモザイク状の生育差がみられた(林野庁 2015).生育差の原因として小野ほか(2016)や篠宮ほか(2016)などは植栽基盤の固結や通気通水不良を指摘しているが,実際にクロマツの生育状況と結びつけた研究はない.これを行うには,生育不良地点を高精度に把握する方法を検討することが必須となる.そして,現地の環境が盛土植栽基盤上のクロマツ単層林であることを考慮すると,生育状況の把握には広域の情報を迅速かつ同時に捉えることが可能なリモートセンシング技術を用いるのが適切だと考える.本研究では,海岸林再生・復旧事業の対象地域のなかでも大規模に盛土造成が行われた地域である宮城県名取市海岸林の植栽年度が異なる16工区を調査地とし,解像度の異なる2つのマルチスペクト画像を用いてNDVI(Normalized Difference Vegetation Index; Rouse 1974),NDVIre(red-edge Normalized Difference Vegetation Index; Gitelson and Merzlyak 1994),EVI(Enhanced Vegetation Index; Boegh et al. 2002, Justice et al. 1998)を算出することにより,調査地におけるクロマツの広域及び植栽木毎の生育状況の把握に適した植生指標を検討した.
2.衛星画像による解析
宮城県名取市海岸林における全工区を対象に,2021年6月28日に撮影されたSentinel-2の衛星画像をもとにQGIS3.16.7を用いて各植生指標を算出・地図化した.さらに,算出された値をもとにカーネル密度推定を行い,各植生指標における分布特性を把握した.NDVI,EVIは類似した分布を示したが,EVIはNDVIよりも分散が大きく,値の違いが強調された.また,樹冠被覆率の高い地点においてNDVIは値の飽和が見られたのに対し,EVIは飽和がみられなかった.これは,植生被覆のある地点を他の植生指標よりも強調するというHuete et al. (2002)などが述べたEVIの特徴と一致した.NDVIreはNDVIおよびEVIとは異なる面的分布を示したほか,その分散は両指標値と比べて極めて小さかった.衛星画像はエアロゾルの影響を受けることを考慮すると,散乱による僅かな反射率の変化がNDVIreの結果に影響を及ぼすため,調査地において衛星画像でNDVIreを用いることは不適切であると考えられた.
3.高分解能マルチスペクトルカメラによる解析
宮城県名取市海岸林の2,11,14工区内に適当な調査区を計5箇所設け,2021年6月24日~6月25日に「MicaSense マルチスペクトラルカメラRedEdge-M(株式会社サイバネテック)」で撮影した高分解能のマルチスペクトル画像を用いて各植生指標の算出・比較を行った.NDVIreはNDVIよりも分散が小さく,NDVIでみられた値の飽和はみられなかった.また,他指標値よりも林床植生をよく表現していた.これは,植物の検出能力が高く,成長中期・後期段階における植物の活性度を推定することに秀でているというGitelson et al. (1996)などが述べたNDVIreの特徴と一致した.EVIは衛星画像からの算出値とは大きく異なり,他の2つの指標よりも分散が小さかった.これは従来から認められているEVIの特徴と一致しないが,EVIが衛星画像解析およびエアロゾルなどによる散乱の補正を前提とした指標である点を考慮すると,低い高度で撮影したマルチスペクトル画像では不必要な補正が過小評価を招いた可能性があると考えられた.
4.おわりに
クロマツの生育概況を捉えるために異なる解像度のマルチスペクトル画像におけるNDVI,NDVIre,EVIの特性を比較した結果,衛星画像ではEVI,マルチスペクトルカメラの画像ではNDVIreの使用が適当であるという仮説が成立した.今後は現地調査を行い,実データとの照合を行うほか,現地の土壌硬度および土壌水分データとの比較を行う予定である.
2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震の津波によって,仙台平野のクロマツ海岸林は深刻な被害を受けた.これを受けて,林野庁は仙台平野の丘陵地から持ち込んだ土壌材料をもとに植栽基盤を造成した.だが,造成された植栽基盤上に植栽されたクロマツにはモザイク状の生育差がみられた(林野庁 2015).生育差の原因として小野ほか(2016)や篠宮ほか(2016)などは植栽基盤の固結や通気通水不良を指摘しているが,実際にクロマツの生育状況と結びつけた研究はない.これを行うには,生育不良地点を高精度に把握する方法を検討することが必須となる.そして,現地の環境が盛土植栽基盤上のクロマツ単層林であることを考慮すると,生育状況の把握には広域の情報を迅速かつ同時に捉えることが可能なリモートセンシング技術を用いるのが適切だと考える.本研究では,海岸林再生・復旧事業の対象地域のなかでも大規模に盛土造成が行われた地域である宮城県名取市海岸林の植栽年度が異なる16工区を調査地とし,解像度の異なる2つのマルチスペクト画像を用いてNDVI(Normalized Difference Vegetation Index; Rouse 1974),NDVIre(red-edge Normalized Difference Vegetation Index; Gitelson and Merzlyak 1994),EVI(Enhanced Vegetation Index; Boegh et al. 2002, Justice et al. 1998)を算出することにより,調査地におけるクロマツの広域及び植栽木毎の生育状況の把握に適した植生指標を検討した.
2.衛星画像による解析
宮城県名取市海岸林における全工区を対象に,2021年6月28日に撮影されたSentinel-2の衛星画像をもとにQGIS3.16.7を用いて各植生指標を算出・地図化した.さらに,算出された値をもとにカーネル密度推定を行い,各植生指標における分布特性を把握した.NDVI,EVIは類似した分布を示したが,EVIはNDVIよりも分散が大きく,値の違いが強調された.また,樹冠被覆率の高い地点においてNDVIは値の飽和が見られたのに対し,EVIは飽和がみられなかった.これは,植生被覆のある地点を他の植生指標よりも強調するというHuete et al. (2002)などが述べたEVIの特徴と一致した.NDVIreはNDVIおよびEVIとは異なる面的分布を示したほか,その分散は両指標値と比べて極めて小さかった.衛星画像はエアロゾルの影響を受けることを考慮すると,散乱による僅かな反射率の変化がNDVIreの結果に影響を及ぼすため,調査地において衛星画像でNDVIreを用いることは不適切であると考えられた.
3.高分解能マルチスペクトルカメラによる解析
宮城県名取市海岸林の2,11,14工区内に適当な調査区を計5箇所設け,2021年6月24日~6月25日に「MicaSense マルチスペクトラルカメラRedEdge-M(株式会社サイバネテック)」で撮影した高分解能のマルチスペクトル画像を用いて各植生指標の算出・比較を行った.NDVIreはNDVIよりも分散が小さく,NDVIでみられた値の飽和はみられなかった.また,他指標値よりも林床植生をよく表現していた.これは,植物の検出能力が高く,成長中期・後期段階における植物の活性度を推定することに秀でているというGitelson et al. (1996)などが述べたNDVIreの特徴と一致した.EVIは衛星画像からの算出値とは大きく異なり,他の2つの指標よりも分散が小さかった.これは従来から認められているEVIの特徴と一致しないが,EVIが衛星画像解析およびエアロゾルなどによる散乱の補正を前提とした指標である点を考慮すると,低い高度で撮影したマルチスペクトル画像では不必要な補正が過小評価を招いた可能性があると考えられた.
4.おわりに
クロマツの生育概況を捉えるために異なる解像度のマルチスペクトル画像におけるNDVI,NDVIre,EVIの特性を比較した結果,衛星画像ではEVI,マルチスペクトルカメラの画像ではNDVIreの使用が適当であるという仮説が成立した.今後は現地調査を行い,実データとの照合を行うほか,現地の土壌硬度および土壌水分データとの比較を行う予定である.