11:00 〜 13:00
[HTT20-P02] 山間部の崩積土地すべりにおける微動アレイ探査の事例紹介
キーワード:地滑り、崩積土、すべり面、微動アレイ探査、S波速度構造
本稿は山間部の崩積土地すべりにおいて実施した,微動アレイ探査の調査事例についての報告である。
地すべり災害を未然に防止する地すべり対策には,移動土塊の規模を把握するための地下構造調査が必要である。一般に,地下構造を調査する手法として,ボーリング調査と物理探査がある。従来,山間部では調査精度は高いがコストや時間を要するボーリング調査を主体として行われてきた。一方で平野部では,非破壊かつ短時間の測定で地下のS波速度構造を推定できる微動アレイ探査も取り入れられている。微動アレイ探査は,複数の地震計を群列(アレイ)配置して,微動(自然に揺れている微かな地面の振動)を1測定あたり数十分程度観測する探査手法である。
探査深度はアレイのサイズに依存するため,浅部から深部までの地盤構造を探査したい場合は,アレイのサイズを複数回変更して計測することによって対応が可能である。従来,山間部における微動アレイ探査の適用事例は珍しく(美馬ほか, 2019),事例が少なかった理由の第一には微動の波動場の問題(堀家, 1993)が未だ整理されていないことが挙げられるが,実際的な課題としては,SN比の悪さや,平野部と比較してアレイを展開できる用地に制約があることが挙げられる。本事例では展開用地の制約という課題を解決するために,解析精度が高い三角アレイと解析精度は高くないが探査深度を確保できる直線アレイの2種類のアレイを観測地点ごとに実施し,探査精度と深度を確保した。山間部におけるSN比の悪さに対しては,位相速度の解析にゼロクロス法を適用することで対処した(Cho et al., 2021)。
本事例の調査地として,探査結果と比較を行えるように,山間部の崩積土地すべりで既往のボーリング調査が豊富なサイトを選定した。微動アレイ探査は全3箇所で実施した。Point1では半径5m, 10mの三角アレイおよび長さ35mの直線アレイ,Point2では半径4m, 8mの三角アレイ,Point3では半径5m, 10mの三角アレイおよび長さ30mの直線アレイを展開し,各測定は10~30分程度とした。観測は計約6時間行い,4名体制で微動計7台を用いて実施した。
図(a)に微動アレイ探査から推定したS波速度構造を示す。Point1では浅い深度からS波速度Vs=600m/sを超えており,岩盤までの深度が浅いことが想定される一方で,Point2およびPoint3はやや深い深度までVs=300m/sで推移するため,Point1と比較して浅部に堆積層が厚く存在することが想定される。図(b)は既往のボーリング調査に基づく推定地質断面である。Point1付近では岩盤線が地表に到達しており,一方でPoint2およびPoint3付近では図(c)のコア写真に示すような崩積土が厚く堆積する傾向があり,これは微動アレイ探査から推定したS波速度構造と調和的である。
本事例により,山間部の崩積土地すべりにおける微動アレイ探査は,地すべり対策事業における概査やボーリング地点の補間を低コストで実施可能な技術である可能性が示された。
謝辞:微動アレイ探査の現地測定にあたり,土木研究所の泉水友裕氏にご協力いただいた。ここに感謝の意を表す。
参考文献:美馬健二ほか,「斜面問題にも有効な地盤調査法「表面波探査」および「微動アレイ探査」の紹介」,日本地すべり学会関西支部会誌らんどすらいど,2019
Cho, I., S. Senna A. Wakai, K. Jin and H. Fujiwara, Basic performance of a spatial autocorrelation method for determining phase velocities of Rayleigh waves from microtremors, with special reference to the zero-crossing method for quick surveys with mobile seismic arrays, Geophys. J. Int., 226, 1676-1694, 2021.
堀家正則,微動の工学的利用,地震2, 46, 343-250, 1993
地すべり災害を未然に防止する地すべり対策には,移動土塊の規模を把握するための地下構造調査が必要である。一般に,地下構造を調査する手法として,ボーリング調査と物理探査がある。従来,山間部では調査精度は高いがコストや時間を要するボーリング調査を主体として行われてきた。一方で平野部では,非破壊かつ短時間の測定で地下のS波速度構造を推定できる微動アレイ探査も取り入れられている。微動アレイ探査は,複数の地震計を群列(アレイ)配置して,微動(自然に揺れている微かな地面の振動)を1測定あたり数十分程度観測する探査手法である。
探査深度はアレイのサイズに依存するため,浅部から深部までの地盤構造を探査したい場合は,アレイのサイズを複数回変更して計測することによって対応が可能である。従来,山間部における微動アレイ探査の適用事例は珍しく(美馬ほか, 2019),事例が少なかった理由の第一には微動の波動場の問題(堀家, 1993)が未だ整理されていないことが挙げられるが,実際的な課題としては,SN比の悪さや,平野部と比較してアレイを展開できる用地に制約があることが挙げられる。本事例では展開用地の制約という課題を解決するために,解析精度が高い三角アレイと解析精度は高くないが探査深度を確保できる直線アレイの2種類のアレイを観測地点ごとに実施し,探査精度と深度を確保した。山間部におけるSN比の悪さに対しては,位相速度の解析にゼロクロス法を適用することで対処した(Cho et al., 2021)。
本事例の調査地として,探査結果と比較を行えるように,山間部の崩積土地すべりで既往のボーリング調査が豊富なサイトを選定した。微動アレイ探査は全3箇所で実施した。Point1では半径5m, 10mの三角アレイおよび長さ35mの直線アレイ,Point2では半径4m, 8mの三角アレイ,Point3では半径5m, 10mの三角アレイおよび長さ30mの直線アレイを展開し,各測定は10~30分程度とした。観測は計約6時間行い,4名体制で微動計7台を用いて実施した。
図(a)に微動アレイ探査から推定したS波速度構造を示す。Point1では浅い深度からS波速度Vs=600m/sを超えており,岩盤までの深度が浅いことが想定される一方で,Point2およびPoint3はやや深い深度までVs=300m/sで推移するため,Point1と比較して浅部に堆積層が厚く存在することが想定される。図(b)は既往のボーリング調査に基づく推定地質断面である。Point1付近では岩盤線が地表に到達しており,一方でPoint2およびPoint3付近では図(c)のコア写真に示すような崩積土が厚く堆積する傾向があり,これは微動アレイ探査から推定したS波速度構造と調和的である。
本事例により,山間部の崩積土地すべりにおける微動アレイ探査は,地すべり対策事業における概査やボーリング地点の補間を低コストで実施可能な技術である可能性が示された。
謝辞:微動アレイ探査の現地測定にあたり,土木研究所の泉水友裕氏にご協力いただいた。ここに感謝の意を表す。
参考文献:美馬健二ほか,「斜面問題にも有効な地盤調査法「表面波探査」および「微動アレイ探査」の紹介」,日本地すべり学会関西支部会誌らんどすらいど,2019
Cho, I., S. Senna A. Wakai, K. Jin and H. Fujiwara, Basic performance of a spatial autocorrelation method for determining phase velocities of Rayleigh waves from microtremors, with special reference to the zero-crossing method for quick surveys with mobile seismic arrays, Geophys. J. Int., 226, 1676-1694, 2021.
堀家正則,微動の工学的利用,地震2, 46, 343-250, 1993