14:15 〜 14:30
[HTT21-03] 市街地における路空間の評価
キーワード:路、愛着、地方過疎化、地方移住
1.はじめに
近年地方都市の過疎化が深刻となっている。過疎地域では、経済・社会の持続性の低下や移住・交流の停滞、観光客・住民の移動困難等の問題が起こっている。しかし2020年から見舞われている新型コロナウイルス感染症の影響により地方移住の関心が高まっている。このような状況下において、地方移住をした人が地方に定着するような空間づくりを提案していく必要があると考える。
2.研究の目的と方法
人々が定着したいと考える街を創出するためには、「愛着」が必要ではないかと考えた。「愛着」とは人が慣れ親しんだものに深く惹かれることであり、愛着を抱きやすい場所が多い街ほど定着しやすいのではないかと考えたからである。本研究では街の中の「路」に着目し、道に対して抱く愛着の一部を定量化することを目的とした。
研究方法として、人が道に対してどのような心理を抱いているのかを知るためにSD法による因子分析をおこなった。そしてその因子の中で特に定義された愛着と関連すると考えられる因子を定めた。さらにその因子を具体的にするために、因子を構成すると考えられる項目を定めそれらの項目について一対比較法による経路選択実験での調査をおこなった。調査により明らかとなった項目について分析し、定量化を試みた。
3.因子分析による調査
9枚の実際に存在する道の写真と11種類の評価尺度を用いて、大阪工業大学に通う大学生97名を対象にSD法による因子分析の調査をおこなった。取り出したそれぞれの因子の評価尺度の構成から、因子名を「機能性」、「情緒性」、「象徴性」とした。今回の研究では、「象徴性」に着目し、人の愛着の中で機能や美観には関係しない部分の感情の定量化をおこなった。
象徴性の数値が高い方を「独立的象徴性」、低い方を「関係的象徴性」と名付けた。これは象徴性の数値が高い道では街の要素が個々にシンボリックで象徴的であるのに対して、数値が低い道では要素が互いに関係しあって成り立っていると考えたからである。今回はこのうち関係的象徴性に着目し象徴性の定量化をおこなった。関係的象徴性が高い写真の共通点として、「人の数が少ない」「植栽がある」「日陰がある」「壁に凹凸がある」という4点が挙げられたため、これらの項目について調査した。
4.経路選択による調査
前章の考察から分かった4つの項目について、各項目6種類の写真を用意し一対比較法での経路選択実験をおこなった。結果として、「人の数」は少ないほど好まれることと、「壁の凹凸の有無」は凹凸がある道の方が好まれることがわかった。
「人」の項目について、「写真に占める人の割合」が関係的象徴性と関係すると仮定し分析したが、尺度値による選択率と相関がなかったため、「近い空間」として捉えられる場所との相関を調べた。今回その場所を俯角により捉えた。樋口によると「俯角10°近傍の視線が水面にとどいているか否かによって、港や湖に対する視覚的な一体感が左右され」ることがわかった。この研究から俯角10°以下の領域を「近い空間」として定義し、「近い空間」に存在する人の割合と選択率との関係を調べた。結果として「近い空間に占める人が存在しない割合」と「尺度値による選択率」には相関が見られたため、近い空間に占める人の割合は関係的象徴性に関連するとわかった。ここから、「近い空間」における地面の単純さが関係的象徴性と関係するのではないかと考えた。
次に「壁の凹凸」について、「俯角10°以下の単純さ」よりそれ以外は相対的に複雑である方がよいのではないかと考えた。つまり地面に対し壁が複雑であれば、関係的象徴性が高くなると考えられた。
今後の研究として地面の単純さと壁の複雑さの2点に対する検証をおこなっていきたい。
5.おわりに
本研究では、SD法を用いて分析をおこない、道への感情を3種類の因子により表した。「象徴性」に着目し、その中の「関係的象徴性」を項目に分け有用性を確かめた。「人の数」と「壁の凹凸の有無」は有用な項目とわかり、人が少ない道や壁の凹凸が存在する道に対して人々は愛着を抱きやすいことがわかった。そして道における俯角10°以下の人の割合が関係し、さらに壁の凹凸の関連付けた場合、地面に対する壁の複雑さが関係的象徴性と関係すると考えられた。
また課題として、一対比較法での調査写真や問いの言葉などの吟味や、壁の複雑さの定量化が挙げられ、それらを元により正確な関係的象徴性の定量化をおこないたい。
近年地方都市の過疎化が深刻となっている。過疎地域では、経済・社会の持続性の低下や移住・交流の停滞、観光客・住民の移動困難等の問題が起こっている。しかし2020年から見舞われている新型コロナウイルス感染症の影響により地方移住の関心が高まっている。このような状況下において、地方移住をした人が地方に定着するような空間づくりを提案していく必要があると考える。
2.研究の目的と方法
人々が定着したいと考える街を創出するためには、「愛着」が必要ではないかと考えた。「愛着」とは人が慣れ親しんだものに深く惹かれることであり、愛着を抱きやすい場所が多い街ほど定着しやすいのではないかと考えたからである。本研究では街の中の「路」に着目し、道に対して抱く愛着の一部を定量化することを目的とした。
研究方法として、人が道に対してどのような心理を抱いているのかを知るためにSD法による因子分析をおこなった。そしてその因子の中で特に定義された愛着と関連すると考えられる因子を定めた。さらにその因子を具体的にするために、因子を構成すると考えられる項目を定めそれらの項目について一対比較法による経路選択実験での調査をおこなった。調査により明らかとなった項目について分析し、定量化を試みた。
3.因子分析による調査
9枚の実際に存在する道の写真と11種類の評価尺度を用いて、大阪工業大学に通う大学生97名を対象にSD法による因子分析の調査をおこなった。取り出したそれぞれの因子の評価尺度の構成から、因子名を「機能性」、「情緒性」、「象徴性」とした。今回の研究では、「象徴性」に着目し、人の愛着の中で機能や美観には関係しない部分の感情の定量化をおこなった。
象徴性の数値が高い方を「独立的象徴性」、低い方を「関係的象徴性」と名付けた。これは象徴性の数値が高い道では街の要素が個々にシンボリックで象徴的であるのに対して、数値が低い道では要素が互いに関係しあって成り立っていると考えたからである。今回はこのうち関係的象徴性に着目し象徴性の定量化をおこなった。関係的象徴性が高い写真の共通点として、「人の数が少ない」「植栽がある」「日陰がある」「壁に凹凸がある」という4点が挙げられたため、これらの項目について調査した。
4.経路選択による調査
前章の考察から分かった4つの項目について、各項目6種類の写真を用意し一対比較法での経路選択実験をおこなった。結果として、「人の数」は少ないほど好まれることと、「壁の凹凸の有無」は凹凸がある道の方が好まれることがわかった。
「人」の項目について、「写真に占める人の割合」が関係的象徴性と関係すると仮定し分析したが、尺度値による選択率と相関がなかったため、「近い空間」として捉えられる場所との相関を調べた。今回その場所を俯角により捉えた。樋口によると「俯角10°近傍の視線が水面にとどいているか否かによって、港や湖に対する視覚的な一体感が左右され」ることがわかった。この研究から俯角10°以下の領域を「近い空間」として定義し、「近い空間」に存在する人の割合と選択率との関係を調べた。結果として「近い空間に占める人が存在しない割合」と「尺度値による選択率」には相関が見られたため、近い空間に占める人の割合は関係的象徴性に関連するとわかった。ここから、「近い空間」における地面の単純さが関係的象徴性と関係するのではないかと考えた。
次に「壁の凹凸」について、「俯角10°以下の単純さ」よりそれ以外は相対的に複雑である方がよいのではないかと考えた。つまり地面に対し壁が複雑であれば、関係的象徴性が高くなると考えられた。
今後の研究として地面の単純さと壁の複雑さの2点に対する検証をおこなっていきたい。
5.おわりに
本研究では、SD法を用いて分析をおこない、道への感情を3種類の因子により表した。「象徴性」に着目し、その中の「関係的象徴性」を項目に分け有用性を確かめた。「人の数」と「壁の凹凸の有無」は有用な項目とわかり、人が少ない道や壁の凹凸が存在する道に対して人々は愛着を抱きやすいことがわかった。そして道における俯角10°以下の人の割合が関係し、さらに壁の凹凸の関連付けた場合、地面に対する壁の複雑さが関係的象徴性と関係すると考えられた。
また課題として、一対比較法での調査写真や問いの言葉などの吟味や、壁の複雑さの定量化が挙げられ、それらを元により正確な関係的象徴性の定量化をおこないたい。