日本地球惑星科学連合2022年大会

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[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT21] 地理情報システムと地図・空間表現

2022年6月3日(金) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (18) (Ch.18)

コンビーナ:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、コンビーナ:田中 一成(大阪工業大学工学部都市デザイン工学科)、中村 和彦(東京大学)、座長:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、田中 一成(大阪工業大学工学部都市デザイン工学科)、中村 和彦(東京大学)

11:00 〜 13:00

[HTT21-P01] 単一映像の立体視用ビュアーの開発と教育訓練への展開 -地質地理情報裸眼立体視アプリケーションStereoscopic Viewerの応用-

*領木 邦浩1 (1.職業能力開発総合大学校 能力開発院能力開発基礎系技術基礎ユニット)

キーワード:立体視、交差法、地質図、HTML、VR、DX

1. はじめに
地理院地図Globe (国土地理院, 2017)で利用できる地理情報は年々充実しており,これらを利用して表示するStereoscopic Viewer (以後,SVw)(図1)は,地形図や空中写真に現れる地質情報の理解を容易にした(領木, 2019a).このビュアーでは回転する対象を撮影した単一の映像を立体視でき(領木, 2019b),DXの到来と共に高等教育や職業能力開発の場で活用されている(領木, 2019c).ここでは,回転体映像以外でも視点位置が移動する映像であれば立体視ができることを示し,You Tube (2022)で提供されるVR (Virtual Reality)用コンテンツや,移動するドローンなどから撮影されてWWWに公開されたりローカルマシンに保存されたmp4などの映像を立体視するためのアプリケーションについて紹介する.

2. 立体視の概要
双方の瞳孔位置から立体を見るとき,左右の目はそれぞれ個別の映像を知覚する.脳は双方の映像に対して高次の画像処理を行い,画像は立体として認識される(田辺・藤田(2004),広内(2013).視差のある2つの画像を見て立体視するための方法は国土地理院(2021)に詳しく述べられている.回転体の映像を一つの装置で撮影した映像を二つの動画として時間的にずらして左右に並べて再生し,左右個々の目で見れば立体視できることを領木(2019a)は指摘し,HTMLおよびJSによって記述されたビューアーSVwがWWW上に公開された(領木, 2021).これはYou Tube (2022)で提供される回転体の映像やVR用の映像も立体視できる(図2).

3. 任意方向に移動して撮影された映像の立体視
領木(2019b)は,単一の映像が水平方向に移動または回転するものであれば,SVwでそのまま利用できるとし,移動が垂直方向の映像でも,映像処理アプリケーションによって水平方向に変換すれば,立体視して閲覧可能であるとした.しかし,移動が垂直方向の映像を水平方向に変換することは煩わしく,教育等の現場においては現実的でない.そこで,これらの場で必要となる機能が付加され,SVwの映像表示を回転させて水平移動する映像として再生する図3のようなアプリケーションStereoscopic Video(以後,SVd)が作成された(領木, 2022).再生映像の回転角を調整すれば任意の方位に進行して撮影撮影された映像でも水平移動するものとして再生でき,再生の途中で回転角を変更することも可能である.SVwではHTMLの制約上ローカルマシンのファイルが閲覧できなったが,SVdではWebおよびローカル双方のファイルが利用できる.

4. 単一の映像を用いた立体視の問題点
VESTA (Momma and Izumi, 2019)など化学構造の立体映像を作成するソフトウェアは個々の原子の大きさが同一に描かれることがあり,視覚表現における遠近法の1つである透視図法の技法に従っていないことがある.このようなアプリケーションで作成された回転体の映像を一般のビューワーで再生してみた場合,例えば本来は右回りである映像を見続けていると,あるとき急に逆回転しているように見えることがある.この現象は,本来,手前にあるものは後にある同一のものより見掛上大きく見えるにもかかわらず,同じ大きさで映像が作成されているため,見ている人が前後を誤認してしまうからである.透視図法に従えば,ここで言う原子の大きさは立体内の位置によって大きさを違えて書き表さなければならない.SVwやSVdでこのような画像を立体視してもしばしば同様のことが認識される.この誤認は,近年話題になっている「錯視」の認知過程と同様に,脳の「思い込み」に由来するものであると考えられる.伊藤(2021)が紹介するホロウマスク錯視もその一つであるが,これはSVwやSVdで閲覧すると錯視となりにくい.このように,SVwやSVdは自然科学分野での教育訓練の場で利用できるのみならず,心理学等の人文科学分野でも応用が期待できる.

5. 今後の展開
SVwで基図とする地理院地図は地図タイルをオンラインで取得して描画させる仕様である.DXの社会浸透によりオフライン地域が減少しつつあるものの,これらの地域は地質調査などでは重要な場所であることも多く,そこではオフラインでのSVwの使用が望ませる.このため,あらかじめ必要な地図タイルをローカルマシンに取得し,SVwで使用できるようにする必要がある.

参考文献
広内哲夫(2013):立体視の原理と3D技術への応用,情報システム学会誌,8, 2, 5-16.
伊藤博晃(2021):「ホロウマスク錯視」の動画,心理学の教材,https://itohhiroaki.com/hollow-mask/, 2021.9.23.公開 (2022.2.11.閲覧).
国土地理院(2017):地理院地図Globeの正式公開,http://www.gsi.go.jp/common/000185126.pdf (2022.2.11.閲覧).
国土地理院(2021):実体視の解説や方法, https://www.gsi.go.jp/common/000231367.pdf (2022.2.11.閲覧)
Momma K, and Izumi F. (2019):VESTA, Visualization for Electronic and STructural Analysis, https://jp-minerals.org/vesta/jp/ (2022.2.11.閲覧).
領木邦浩(2019a):地理院地図Globeを利用したシームレス地理情報ステレオビュワー,日本情報地質学会講演会講演要旨集,30, 31-32.
領木邦浩(2019b):地理情報ステレオビュアーによる地理院地図Globeの立体視,地理院地図パートナーネットワーク会議資料,11, 15, https://maps.gsi.go.jp/pn/meeting_partners/data/20191128/15.pdf (2022.2.11.閲覧).
領木邦浩(2019c):回転映像を用いた立体視ビュアーの構築 -教育訓練の展開と実務への応用-,職業能力開発研究発表講演会講演論文集, 27, 30-J-5.
領木邦浩(2021):Stereoscopic Viewer Ver. 2.0, http://moon2.gmobb.jp/higgs_ryoki/StereoscopicViewer/html/index4gmobb_withGoogleMaps.html (2022.2.11.閲覧)
領木邦浩(2022):Stereoscopic Video, http://moon2.gmobb.jp/higgs_ryoki/StereoscopicViewer/html/stereoscopic_video.html (2022.2.11.閲覧)
産業技術総合研究所地質調査総合センター(2020):20万分の1日本シームレス地質図 V2, https://gbank.gsj.jp/seamless/ (2022.2.11.閲覧)
日本テレビ放送網株式会社(2021):静岡・熱海市 土石流現場ヘリ映像, 2021/07/05ライブ配信,https://www.youtube.com/watch?v=dktGQQaZrW0 (2022.2.11.閲覧).
田辺誠司・藤田一郎(2004):両眼立体視の脳内表現,日本神経回路学会誌,11, 2, 64-73.
YouTube(2022):YouTubeの取り組み,YouTubeのしくみとは?,https://www.youtube.com/intl/ALL_jp/howyoutubeworks/ (2022.2.11.閲覧).