日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-AG 応用地球科学

[M-AG39] ラジオアイソトープ移行:福島原発事故環境動態研究の新展開

2022年5月23日(月) 13:45 〜 15:15 202 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:津旨 大輔(一般財団法人 電力中央研究所)、コンビーナ:恩田 裕一(筑波大学アイソトープ環境動態研究センター)、高橋 嘉夫(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、コンビーナ:桐島 陽(東北大学)、座長:津旨 大輔(一般財団法人 電力中央研究所)、桐島 陽(東北大学)

14:00 〜 14:15

[MAG39-02] 土壌汚染マップと大気拡散計算から逆推定した福島事故初期の129mTeソースターム及びヨウ素、Csソースタームへの提言

*日髙 昭秀1,2、川島 茂人3梶野 瑞王4、高橋 千太郎5、高橋 知之3 (1.日本原子力研究開発機構、2.カリファ大学、3.京都大学、4.気象研、5.元京都大学)

キーワード:福島第一原発事故、129mTeソースターム、文科省土壌汚染マップ、メソスケール気象モデル

福島事故時のソースタームを精度良く評価することは、事故進展の分析や環境影響評価を行う上で重要である。従来のモニタリングポストや海水表面濃度データと大気拡散計算を用いたソースタームの逆算は、測定箇所の点情報を用いた流跡線解析に基づく予測であった。このため、陸から海に向かう陸風の場合の予測は困難であり、最新の評価Terada et al.(2020)でも、3/12早朝前の1号機からの放出を予測していないなかった。
 一方、本手法Kawashima et al.(1999)では、広範囲な土壌沈着分布に着目し、単位放出を仮定したメソスケール気象モデル(WRF)計算から得られる毎時の面的な沈着分布の結果を重みづけし、それらの合算と、事故後に測定した累積土壌沈着分布との差を最小にするように重み=放出率を決定することにより、ソースタームを精度良く評価できる。特徴として、陸風の場合でも微粒子の大部分は海側に運ばれるが、一部はその後、海風になった時に陸に戻って沈着するため、ソースタームの予測が可能になる。
 演者らは、第1報Takahashi et al. (2019)において、文科省の129mTe土壌汚染マップSaito et al. (2015)とWRFを用いて3/14~3/16の129mTeの放出時間帯を逆推定し、その起源について格納容器の圧力変化や漏洩経路の水の有無等から検討した。第2報Hidaka et al. (2021)では、過酷事故時に燃料から放出された129mTeの大部分は未酸化のZr被覆管内面に一旦取り込まれ、炉心再注水時にZr被覆管が完全酸化する直前にSnTeとして放出される現象を考慮し、3/12~3/16の再注水時の放出に焦点を当てて検討を行なった。しかし、Zrの完全酸化は、被覆管温度が最初に上昇する際にも被覆管の中上部で部分的に起こることから、本報では、1号機及び3号機からの最初の129mTe放出をも捉えるため、3/11~3/15について同様の逆推定を行った。
 今回の解析により、各号機の最初の放出として、1号機(3/11 19時頃)、3号機(3/13 4時~6時)、2号機(3/14 19時頃)を予測した。1号機は、直流電源喪失により非常用復水器(IC)弁の開操作できなくなった直後であり、3号機は、消防自動車からの注水(消防注水)を行うために高圧注水系(HPCI)を手動停止させたが消防注水ができなかった直後に符合する。2号機は、消防注水を開始するため、原子炉圧力容器の圧力を手動低下させ、炉心水位も低下した直後に相当する。いずれも、格納容器上部フランジからの漏洩前であるが、炉内核計装または主蒸気配管フランジからの漏洩等により環境放出は説明可能である。
 以上のように、本解析で得られた129mTe のソースタームは、原子炉側の事象から十分に説明でき、予測精度はかなり高いと考えられる。今回の結果及びヨウ素やCsの揮発性はTeより高いことを考慮すると、これまで評価されなかった3/11夕方遅く、3/12早朝及び3/13早朝にもヨウ素とCsの放出は増加したと考えられる。なお、本手法は、129mTeの放出が事故初期の数日間に限られていたので適用できたのであり、1か月を超えて放出が継続したCsに適用する際には計算の収束性など様々な課題を解決する必要がある。