日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-AG 応用地球科学

[M-AG39] ラジオアイソトープ移行:福島原発事故環境動態研究の新展開

2022年5月23日(月) 13:45 〜 15:15 202 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:津旨 大輔(一般財団法人 電力中央研究所)、コンビーナ:恩田 裕一(筑波大学アイソトープ環境動態研究センター)、高橋 嘉夫(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、コンビーナ:桐島 陽(東北大学)、座長:津旨 大輔(一般財団法人 電力中央研究所)、桐島 陽(東北大学)

14:30 〜 14:45

[MAG39-04] 都市域ため池における除染による137Csの除去効果と経時的変化

*黒澤 萌香1、難波 謙二2,3、和田 敏裕2脇山 義史2 (1.福島大学大学院共生システム理工学研究科環境放射能学専攻、2.福島大学環境放射能研究所、3.福島大学共生システム理工学類)

キーワード:福島第一原子力発電所事故、137Cs、ため池、除染、δ15N

福島県には4,000ヶ所以上のため池が存在しており,福島第一原子力発電所 (FDNPP) 事故により,多くのため池が放射性セシウム (134Cs+137Cs) によって汚染された。高濃度の放射性セシウムを含む底質が蓄積したため池では,放射性物質汚染対処特措法に基づく指定基準8 kBq/kgを指標として,除染等の対策が検討される。これらの対策のうち,底質除去は,底質および水体における放射性セシウムの含有量を減少させるために効果的な方法であり,広く実施されている。一方で,既往研究より,ため池・ダムは二次的に137Csが流入し,蓄積する傾向が示されていることから,底質除去後の137Csの蓄積状況を把握・予測することが必要である。しかし,ため池における除染の効果およびその後の経時的変化を調査した研究は少ない。そこで,本研究では,底質除去による137Csの低減効果と水質への影響,除染後の137Cs蓄積プロセスを明らかにすることを目的として,都市域にあるため池を対象とした長期観測を行った。
郡山市内のため池にて調査を行った。安積疎水,南川の水が取水され,明渠,暗渠を通過し,ため池に流入している。調査地周辺の137Cs沈着量は,0.170 MBq/m2であった。調査地は,2017年度に底質浚渫による除染が行われた。2015年,2018-2021年に底質,池水,流入水,流出水の採集を行い,137Cs濃度,粒度分布,窒素・炭素安定同位体比,水質を分析した。
除染により,底質7地点における137Csインベントリは平均78 %減少,表層の137Cs濃度は平均72 %低下していた。137Csインベントリ,表層の137Cs濃度が大幅に減少,低下したことから,除染による効果はあったと言える。除染後は7地点における平均137Csインベントリの顕著な変化は見られなかったが,水流が滞っているような地点では細粒成分の堆積により増加していた。また,除染後の底質0-1 cmのδ15Nと137Cs濃度間に有意な正の相関があった。δ15Nは,人間活動が活発になると上昇することが報告されていることから,都市域由来の粒子の寄与が大きい地点において,137Cs濃度が高くなる傾向にあることが示唆された。除染により,池水の全137Cs濃度 (溶存態137Cs濃度+懸濁態137Cs濃度) が33 %低下していた。池水のSSの137Cs濃度は,除染により有意に低下していたが, 除染後も8 kBq/kgDWを維持していた。流入水におけるSSの137Cs濃度は,増水時,すべての流入水において8 kBq/kgDWを超えていた。調査地における流入水のSSの137Cs濃度は,耕作農地,水田由来の土砂よりも高く,都市域から高い137Cs濃度をもつSSが流入することが,池水のSS,底質の137Cs濃度が高く維持されている要因だと考えられる。流出水は,流入水,池水よりも全137Cs濃度が高いことが多かったことから,137Csが排出傾向にあることが示唆された。流出水のδ15Nが底質と池水の間にあることから,底質と池水が混合し,流出していくことが示唆されていた。調査地においては,集水域が都市域であることが反映されていることによって,除染後においても,ため池の137Cs濃度が,森林,農地にあるため池と比較して,高いことが考えられる。