日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-AG 応用地球科学

[M-AG39] ラジオアイソトープ移行:福島原発事故環境動態研究の新展開

2022年5月23日(月) 15:30 〜 17:00 202 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:津旨 大輔(一般財団法人 電力中央研究所)、コンビーナ:恩田 裕一(筑波大学アイソトープ環境動態研究センター)、コンビーナ:高橋 嘉夫(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、コンビーナ:桐島 陽(東北大学)、座長:高橋 嘉夫(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、恩田 裕一(筑波大学アイソトープ環境動態研究センター)

15:45 〜 16:00

[MAG39-08] 放射性廃棄物の地層処分場の閉鎖後安全評価における放射性核種の移行挙動理解の重要性

★招待講演

*浜本 貴史1、石田 圭輔1、藤﨑 淳1 (1.原子力発電環境整備機構)

キーワード:地層処分、安全評価、核種移行

わが国では、原子力発電の使用済燃料を再処理した際に生じる放射能レベルが高い放射性廃棄物を、300mより深い安定した地層に処分(以下、地層処分)することが決められている。地層処分では、放射性廃棄物を地下深部に埋設することで人間の生活環境から物理的に「隔離」するとともに、地下深部の地質環境が本来的に有する廃棄物から地下水中への放射性核種の溶出とその移行を抑制する機能に工学的な対策を組み合わせ、放射性物質を長期にわたって処分場周辺に「閉じ込め」る多重バリアシステムを構築する。この地層処分事業の実施主体である原子力発電環境整備機構(以下、NUMO)は、処分施設建設地の選定や事業の許認可、施設の閉鎖などの各段階においてNUMOが設計した施設を対象に処分場の閉鎖後の安全性の評価を実施する。具体的には、処分場を閉鎖した後に廃棄体の処分容器が破損して放射性核種が環境中に放出されることを想定し、閉鎖後の処分場のふるまいと、そこにおける放射性核種の移行挙動をシナリオとして記述し、これに応じた廃棄体から地表までの核種移行解析を実施したうえで、人間に与える放射線学的影響(線量やリスクなど)を算出し基準値との比較を行う(NUMO、2021)。
地下深部は、地下水の流れが遅く、酸素が少ないなどの特徴を有しており、現実的な評価を行うためには、地下深部に特有の環境における複雑な処分場のふるまいと核種移行プロセスを理解することが重要である。処分場のふるまいとして、例えば、廃棄体の発熱による坑道周囲の温度上昇、処分場への地下水の再冠水、処分場材料として用いられるセメント系材料・金属材料・ベントナイトが地下水との反応や相互に反応することにより化学的な変質が生じると考えられる。このようなプロセスの結果として形成された場における核種移行プロセスについては、様々なイオンを含む地下水中における放射性核種の酸化還元反応や溶解・沈殿反応、コロイド・有機物・微生物と放射性核種との反応などが考えられる。核種移行挙動の評価においては、このような複雑な場の理解が必要であり、それぞれの現象の素過程の理解を積み重ねていくことが重要である。
NUMOはどのようにサイトの調査を進め、安全な処分場の設計・建設・操業・閉鎖を行い、閉鎖後の長期間にわたる安全性を確保しようとしているのかについて、これまでに蓄積された科学的知見や技術を統合して包括的に説明する報告書を公表した(NUMO、2021)。この報告書において、安全性の評価の信頼性向上のための課題を明らかにしている。核種移行プロセスに関する課題の一例として、日本に特有の還元環境下における高濃度の炭酸イオンを含む地下水中での収着挙動の評価がある。報告書取りまとめ当時の知見では、上記のような地下水中でのウランの収着挙動に関する知見の不足から、核種移行解析に用いるパラメータの一つである収着分配係数について、岩盤の移行遅延効果を過大評価しないよう、極めて小さい値を設定せざるを得なかった。このためNUMOは、ウランの収着現象に関して大学と共同研究を実施し、収着現象の理解を進めた結果、得られたデータを活用することにより上記環境条件における収着分配係数の設定が可能となった。

参考文献
NUMO (2021), 包括的技術報告:わが国における安全な地層処分の実現-適切なサイトの選定に向けたセーフティケースの構築-, NUMO-TR-20-03.