日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-AG 応用地球科学

[M-AG39] ラジオアイソトープ移行:福島原発事故環境動態研究の新展開

2022年5月23日(月) 15:30 〜 17:00 202 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:津旨 大輔(一般財団法人 電力中央研究所)、コンビーナ:恩田 裕一(筑波大学アイソトープ環境動態研究センター)、コンビーナ:高橋 嘉夫(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、コンビーナ:桐島 陽(東北大学)、座長:高橋 嘉夫(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、恩田 裕一(筑波大学アイソトープ環境動態研究センター)

16:15 〜 16:30

[MAG39-10] 蛍光分光測定と多変量解析を用いた深部地下水中の天然有機物の分類と錯生成能の解明

*斉藤 拓巳1、西 柊作1戸田 賀奈子1宮川 和也2、天野 由記2 (1.東京大学、2.日本原子力研究開発機構)

キーワード:天然有機物、錯生成、励起発光マトリクス、多変量解析

高レベル放射性廃棄物(HLW)の地層処分において,地下水中に存在する天然有機物(NOM)は,核種と錯生成することで,その移行挙動を大きく変えることが指摘されている.NOMは腐植物質や生体高分子,微生物由来の有機物の総称であり,不定形の高分子の集合体として様々な構造を持つ.表層環境のNOMに対しては、金属イオンとの相互作用が広く調べられ,結合量を多様な環境条件下で表すことのできるモデルが提案されている.表層環境のNOMと金属イオンの結合モデルを処分の安全評価で使用するためには,深部地下環境と表層環境のNOMを比較し,両者の類似点や相違点を理解することが必要である.実際,堆積岩系地下水中のNOMの物理的,化学的性質は表層環境のNOMと大きく異なり,また,従来法で分類できない有機物があることがわかっている.しかし,そのような深部地下環境中の有機物と金属イオンとの結合性については,その結合量の評価がなされていない.このような深部地下NOMと金属イオンの相互作用に関する情報の少なさが,結合モデルの適用性の評価や新しいモデルの構築の妨げになっている.
本研究では,励起発光マトリクス (EEM) と多変量解析を用いて,三次元的に広がる深部地下環境において,異なるNOM成分の寄与やそれらと金属イオンとの結合性が,より広範な地球化学パラメータとどの様に関係するか調べることを目的とした.EEMは励起波長を変化させながら試料の発光スペクトルを測定する蛍光分光測定の一種であり,多重線形な分光データ適した多変量解析手法であるPARAFAC(parallel factor analysis)を組み合わせることで,複数のデータセットに含まれる蛍光成分の数やそのEEM,寄与(濃度)を得ることができる.また,NOMの蛍光は金属イオンとの錯生成によって消光を受けることが知られており,その程度から錯生成能を評価することができる.本研究では,日本原子力研究開発機構の幌延深地層研究センターの異なる深度で採水した複数の堆積岩系地下水に,放射性廃棄物処分の安全評価において重要となる3価アクチニド元素のアナログ元素であり,それ自体も235Uの核分裂生成物であるEu3+を添加した試料のEEMを行い,得られた一連のEEMからなる多次元データにPARAFACを適用することで,異なるNOM蛍光成分の寄与とEu3+との錯生成能を評価した.また,得られた結果と地下水の様々なパラメータの関係から,NOM蛍光成分の起源やEu3+との錯生成能の違いを議論するために,多変量解析の一種であるPLS (Partial Least Squares)を適用した.