日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-AG 応用地球科学

[M-AG39] ラジオアイソトープ移行:福島原発事故環境動態研究の新展開

2022年5月31日(火) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (33) (Ch.33)

コンビーナ:津旨 大輔(一般財団法人 電力中央研究所)、コンビーナ:恩田 裕一(筑波大学アイソトープ環境動態研究センター)、コンビーナ:高橋 嘉夫(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、コンビーナ:桐島 陽(東北大学)、座長:津旨 大輔(一般財団法人 電力中央研究所)、恩田 裕一(筑波大学アイソトープ環境動態研究センター)

11:00 〜 13:00

[MAG39-P01] 新田川流域における出水イベント時の137Cs動態

*脇山 義史1、新井田 拓也2高田 兵衛1谷口 圭輔3藤田 一輝4、Konoplev Alexei1恩田 裕一5 (1.福島大学環境放射能研究所、2.KANSOテクノス、3.津山工業高等専門学校、4.福島県環境創造センター、5.筑波大学アイソトープ環境動態研究センター)

キーワード:137Cs、流域、溶脱、台風

陸域の137Csの大部分は、台風などにともなう出水時に河川流域から海洋へ輸送される。近年、台風時の海洋における137Csの挙動に河川流出が大きく影響することが明らかになり、河川における137Csの動態をよりよく理解することの重要性で示された。福島沿岸集水域の河川における137Cs動態の比較により、137Cs動態が降雨特性や137Csインベントリーの空間パターンや土地利用構成などの流域特性に依存することが示唆されている。さらに流域間比較やイベント間比較事例を蓄積することで、河川における137Cs動態に関する理解の深化が期待される。本研究では、2016年と2017年に発生した出水イベント時の新田川流域内の4地点での河川水137Cs濃度の時間変化および1地点の137Csフラックスを提示する。
調査地点は、新田川流域の鮭川橋(SK)、原町(HR)、野手上北(NT)、蕨平(WR)である。SK, HR, NT, WRの各流域面積は29, 103, 206, 259 km2であり、平均137Csインベントリは1420, 790, 850, 740 kBq m-2であった。2016年8月16-17日および2017年10月22-23日の台風イベント時に5-6回、河川水試料を採取し、溶存137Cs濃度(Csdis:Bq L-1)および懸濁物質(SS)の137Cs濃度(CsSS:Bq kg-1)を測定した。HRでは濃度情報と水文データに基づいて、137Csフラックスを算出した。HRで流出ピーク時に採取されたSS試料を用いて海水抽出実験を行い、SSから海水に溶脱する137Cs量の推定を行った。
平均CsSSは5900~21000Bq kg-1、平均Csdisは11~34Bq L-1であり、各集水域の平均137Csインベントリーに応じて高くなった。CsSSの時間的変動は上流と下流で異なっており、SKとHRでは流量ピーク時に最大値を示し、NTとWRではイベントを通じて低下傾向が見られた。これらの傾向は、各集水域の137Csインベントリーの空間分布を反映していると考えられた。一方で、Csdisの変動については流域間およびイベント間の比較でも特筆すべき傾向を見いだすことができなかったが、すべてのイベントにおいて単調な傾向を示さず、低下と上昇を繰り返していた。2016年と2017年のイベントにおけるHRでの137Csフラックスは、それぞれ60GBqと55GBqであった。これらは各集水域に沈着した全137Csの0.034%及び0.031%に相当した。海水抽出実験(1日間振とう)で得られた、SSからの137Csの溶脱率は、2016年は3.6%、2017年は5.3%であった。これらの溶脱率に対応する懸濁態137Csフラックスを乗じて、SSから海洋に溶脱する137Csを推定すると、2016年と2017年のイベントにおいてそれぞれ0.21と0.28GBqであり、それぞれ対応する溶存態137Csフラックスの15倍と3.6倍高い値となった。今後、除染の影響評価や137Csフラックスの流域内比較など、更なる解析を行う予定である。