日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-GI 地球科学一般・情報地球科学

[M-GI32] 地球掘削科学

2022年6月3日(金) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (34) (Ch.34)

コンビーナ:針金 由美子(産業技術総合研究所)、コンビーナ:藤原 治(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター)、濱田 洋平(独立行政法人海洋研究開発機構 高知コア研究所)、コンビーナ:黒田 潤一郎(東京大学大気海洋研究所 海洋底科学部門)、座長:廣瀬 丈洋(国立研究開発法人海洋研究開発機構 高知コア研究所)、山中 寿朗(東京海洋大学)、Tejada Maria Luisa(Department of Solid Earth Geochemistry, Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology)

11:00 〜 13:00

[MGI32-P06] オーストラリア周辺海域の白亜紀-古第三紀境界層の特徴

*黒田 潤一郎1 (1.東京大学大気海洋研究所 海洋底科学部門)

キーワード:白亜紀/古第三紀境界、オスミウム同位体

本研究では,オーストラリア周辺海域の,特にロードハウライズとメンテレー海盆の白亜紀-古第三紀境界層(K-Pg)のオスミウム(Os)濃度とOs同位体比(187Os/188Os)の特徴について,最近の私達のグループの研究成果を解説する.Osは白金族の一つで,上部大陸地殻で枯渇し隕石などの地球外物質に高い濃度で含まれるため,天体衝突イベントなどの指標として有用である.K-Pg境界では明瞭な濃度の増加(白金族異常)と同位体比の低下が認められ,メキシコ・ユカタン半島のチクシュルブ天体衝突の強力な証拠とされている.オーストラリア周辺海域は,ユカタン半島の対蹠点に近く,天体衝突の影響が比較的少ない環境下で堆積した堆積物が堆積していると期待できる.

1. Lord Howe Rise Site 208 (Kuroda et al., 2021)
1971年に実施された深海掘削計画DSDP Leg 13航海では,オーストラリア南東沖のロードハウライズLord Howe Rise 上の Site 207で海底下590 mまでの掘削が行われ,新生代と白亜紀末の石灰質軟泥を主体とする堆積物が回収された.この掘削孔の最深部付近でK-Pg境界層が回収され,石灰質ナノ化石の生層序で境界層準が検討された.Kuroda et al. (2021) では,Site 208レガシーコアの石灰質ナノ化石の再検討とOs同位体比,炭酸塩炭素同位体比,古地磁気測定によってK-Pg境界の層序を検討した.石灰質ナノ化石の再検討の結果,K-Pg 境界は576.8 m に位置することが判明した.この層準は,生痕化石が発達するMaastrichtianのチョークから珪質泥岩にシフトする層準にあたり,その上位は,約80 cmの珪質泥岩と泥灰岩からなるインターバル(珪質インターバル)で,Danianの石灰質ナノ化石を産する. K-Pg境界と思われる珪質泥岩は珪質インターバルの基底部に位置し,187Os/188Os値が0.12と非常に低い値を示す.しかし,Os濃度の異常は認められないため,この層準はK-Pg境界の天体衝突時の堆積物ではない.おそらく,短期的なハイエイタスで不連続な堆積となっていたと考えられる.それでも,非常に低い187Os/188Os値は,衝突直後の海水のOs同位体比がまだ低かった時期の堆積物であることが示唆され,K-Pg境界のハイエイタスは短期的なものであったと推測される.この層準で炭酸塩炭素同位体比も低下し,K-Pg境界であることが支持される.しかし一方,古地磁気に関してはC29R逆磁極期にこの層準が一致せず,二次鉱物による変質の可能性も疑われる.

2. Mentelle Basin Site U1514 (Ota et al. 2020)
2017年に実施された国際深海掘削計画IODP Exp. 369では,オーストラリア南西沖のMentelle Basin 上のSite U1514で掘削が行われ,新生代と白亜紀の堆積物が回収された.船上での石灰質ナノ化石および浮遊性有孔虫の層序学的検討から,海底下393.6 mにK-Pg境界層準が認められた.その層準は,MaastrichtianのチョークからDanianの粘土岩にシフトする境界にあたり,生物擾乱を受けている.その層準では,187Os/188Os値が0.17と低く,Os濃度は1.4 ppbと非常に高い.Os濃度が高く同位体比が低いこれらの特徴は,地球外物質の寄与,すなわち天体衝突を示す証拠であり,K-Pg境界の衝突層準が保存されていることを示している.異常値を示す393.5 m の上下位では,Os濃度とOs同位体比のいずれも徐々にバックグラウンドの値に戻る.これは,生物擾乱による上下方向への混合である.

Os同位体記録を用いて層序を検討した結果,Lord Howe Rise では短期的なハイエイタスにより衝突層準は欠如していることが分かり,Mentelle Basin ではほぼ欠損なく衝突層準を含むK-Pg境界層が保存されていることが判明した.Lord Howe Rise, Mentelle Basin いずれもMaastrichtianのチョークから珪質泥岩や粘土岩といった珪質堆積物に変化することが特徴であり,天体衝突による石灰質ナノプランクトンの生産の停止を示唆する.これはニュージーランドなどのセクションでも認められ,広くオーストラリア~ジーランディアの特徴であったようだ.

Kuroda, J., Hagino, K., Usui, Y. et al. (2021) Stratigraphy around the Cretaceous-Paleogene boundary in sediment cores from the Lord Howe Rise, Southwest Pacific: GSA Bull. https://doi.org/10.1130/B36112.1

Ota, H., Kuroda, J., Tejada, M.L.G. et al. (2020) Osmium isotopic composition and platinum group element abundances of Cretaceous-Paleogene boundary section at Site U1514C on the Mentelle Basin, SW Australia: Abstract MIS11–P03 presented at 2020 JPGU-AGU Joint Meeting, Chiba, Japan, 24–28 May.