12:00 〜 12:15
[MGI33-11] 大気ラージエディシミュレーションにおける不連続ガラーキン法の数値誤差の影響に関する研究
キーワード:大気境界層、ラージエディシミュレーション、高精度流体スキーム、数値誤差
はじめに
将来的な全球大気ラージエディシミュレーション(LES)に向けた課題の一つは, 力学過程の離散精度である. Kawai and Tomita (2021, 以後 KT2021)では, 移流項の離散誤差が乱流モデルに伴う渦粘性項を卓越しないために必要な精度のオーダーを有限差分法の枠組みで議論した. 我々が導いた数値指標によれば, 7~8次精度は必要であることが示唆される. しかし, このような高精度化を従来的な格子点法で実現しようとすると, 離散式の複雑化やステンシル拡大による計算局所性の悪化が問題となる. そのため, 高精度化が単純であり, コンパクト性が高いことが特徴である不連続ガラーキン法(DGM)に注目している. 大気計算におけるDGM の適用可能性を検討するため, DGM による領域 LES モデルを構築し, 大気境界層乱流の数値実験を実施した. 境界層の鉛直構造やエネルギースペクトルは, 高次移流スキームを用いた保存型有限差分法に基づく SCALE-RM の結果とおおよそ一致することが確認された (JpGU2021 で報告). しかし, DGM に伴う数値散逸が短波長域のスペクトルに与える影響の数理的解釈は不十分であった. そのため, KT2021 で導いた数値指標を DGM の枠組みに拡張し, DGM の短波長域での数値誤差の影響を調べることによって, KT2021 と同様の基準において, 要求される展開多項式の次数(p)を明らかにする. 本発表ではその初期的結果を示す.
数値的指標の定式化
数値粘性に関する指標は, 数値粘性に対する渦粘性項のラプラシアン項の減衰時定数比(Rdiff)として定式化する. 一方, 数値分散に関する指標は, 渦粘性項のクロス項に対する数値分散に伴う位相速度比(Rdisp)と定式化する. 数値誤差が渦粘性項を卓越しないためには, これらの指標が 1 より十分小さい必要がある. 有限差分法では, 移流方程式の修正方程式を容易に導けるため, 数値誤差項に伴う減衰係数や位相速度が陽に得られたが, そのような導出は DGM では難しい. そのため, Moura et al. (2015) 等にならってフーリエ固有値解析を用いる. DGM では, 一つの有限要素に多数の自由度が存在するため, 複数の固有値が得られる. 正味の数値解の振る舞いを調べるために, 結合モードを考える. 厳密解と数値解の比較によって, 最終的に増幅率や位相誤差を定量化でき, 数値粘性に伴う減衰時定数と数値分散に伴う位相速度を見積もることができる. 風上化した数値流束を用いた場合の p=3 と p=7 の DGM に対する Rdiff と Rdisp の格子幅と波長依存性を図 (a,b) に示す. O(10 m) の実効格子幅において, 8 格子より長波側で Rdiff, Rdisp < 10-1 を要請すれば, 少なくとも p=3 程度必要であることが示唆される.
数値的指標の妥当性の検証
半理論的に導いた数値的指標の妥当性を検証するために, Nishizawa et al. (2015) に基づく惑星境界層乱流実験を, DGM に基づく大気LESモデルを用いて実施した. 実効格子幅を 10 m に固定し, p=3, p=7 の六面体要素を用いる. 乱流スキームの空間フィルタ長は実効格子幅の 2 倍に設定する. この場合, 8 格子付近まで -5/3 乗則におおよそ従い, それより高波数側では空間フィルタと数値粘性の両方がスペクトルの傾きに寄与する. p=3 程度で, スペクトルは約 8 格子まで -5/3 乗則に従っており, 我々の基準を満たすことが分かる(図 (c))より短波長では数値粘性の影響が顕著となる. これらの特徴は Rdiff からの示唆と整合する. 本研究で導いた数値的指標は, 大気 LES における DGM の展開多項式の必要次数や数値安定化機構の影響を考察する上で有益な指標となると考えられる.
将来的な全球大気ラージエディシミュレーション(LES)に向けた課題の一つは, 力学過程の離散精度である. Kawai and Tomita (2021, 以後 KT2021)では, 移流項の離散誤差が乱流モデルに伴う渦粘性項を卓越しないために必要な精度のオーダーを有限差分法の枠組みで議論した. 我々が導いた数値指標によれば, 7~8次精度は必要であることが示唆される. しかし, このような高精度化を従来的な格子点法で実現しようとすると, 離散式の複雑化やステンシル拡大による計算局所性の悪化が問題となる. そのため, 高精度化が単純であり, コンパクト性が高いことが特徴である不連続ガラーキン法(DGM)に注目している. 大気計算におけるDGM の適用可能性を検討するため, DGM による領域 LES モデルを構築し, 大気境界層乱流の数値実験を実施した. 境界層の鉛直構造やエネルギースペクトルは, 高次移流スキームを用いた保存型有限差分法に基づく SCALE-RM の結果とおおよそ一致することが確認された (JpGU2021 で報告). しかし, DGM に伴う数値散逸が短波長域のスペクトルに与える影響の数理的解釈は不十分であった. そのため, KT2021 で導いた数値指標を DGM の枠組みに拡張し, DGM の短波長域での数値誤差の影響を調べることによって, KT2021 と同様の基準において, 要求される展開多項式の次数(p)を明らかにする. 本発表ではその初期的結果を示す.
数値的指標の定式化
数値粘性に関する指標は, 数値粘性に対する渦粘性項のラプラシアン項の減衰時定数比(Rdiff)として定式化する. 一方, 数値分散に関する指標は, 渦粘性項のクロス項に対する数値分散に伴う位相速度比(Rdisp)と定式化する. 数値誤差が渦粘性項を卓越しないためには, これらの指標が 1 より十分小さい必要がある. 有限差分法では, 移流方程式の修正方程式を容易に導けるため, 数値誤差項に伴う減衰係数や位相速度が陽に得られたが, そのような導出は DGM では難しい. そのため, Moura et al. (2015) 等にならってフーリエ固有値解析を用いる. DGM では, 一つの有限要素に多数の自由度が存在するため, 複数の固有値が得られる. 正味の数値解の振る舞いを調べるために, 結合モードを考える. 厳密解と数値解の比較によって, 最終的に増幅率や位相誤差を定量化でき, 数値粘性に伴う減衰時定数と数値分散に伴う位相速度を見積もることができる. 風上化した数値流束を用いた場合の p=3 と p=7 の DGM に対する Rdiff と Rdisp の格子幅と波長依存性を図 (a,b) に示す. O(10 m) の実効格子幅において, 8 格子より長波側で Rdiff, Rdisp < 10-1 を要請すれば, 少なくとも p=3 程度必要であることが示唆される.
数値的指標の妥当性の検証
半理論的に導いた数値的指標の妥当性を検証するために, Nishizawa et al. (2015) に基づく惑星境界層乱流実験を, DGM に基づく大気LESモデルを用いて実施した. 実効格子幅を 10 m に固定し, p=3, p=7 の六面体要素を用いる. 乱流スキームの空間フィルタ長は実効格子幅の 2 倍に設定する. この場合, 8 格子付近まで -5/3 乗則におおよそ従い, それより高波数側では空間フィルタと数値粘性の両方がスペクトルの傾きに寄与する. p=3 程度で, スペクトルは約 8 格子まで -5/3 乗則に従っており, 我々の基準を満たすことが分かる(図 (c))より短波長では数値粘性の影響が顕著となる. これらの特徴は Rdiff からの示唆と整合する. 本研究で導いた数値的指標は, 大気 LES における DGM の展開多項式の必要次数や数値安定化機構の影響を考察する上で有益な指標となると考えられる.