11:00 〜 13:00
[MGI33-P02] 全球非静力学火星大気大循環モデルの開発:地形あり計算
キーワード:火星、大気、全球シミュレーション、非静力学、高解像度、地形
地球大気の運動は数メートル規模から惑星規模に至るまで幅広く、様々な規模の現象が相互作用している。このことが、より高解像度の大気シミュレーションが求められる理由の1つである。こうした状況は、火星をはじめとした他の惑星でも同様なはずである。火星では水平数十から数百メートル規模のダストデビル (塵旋風) から、数十キロメートル規模のローカルダストストーム、全球を覆うグローバルダストストームまで、大小様々な規模の砂嵐が観測されているが、これらのスケール間の相互作用は未解明である。また火星は大気が薄く海がないため、昼夜間の寒暖差が大きく、鉛直対流が卓越すると考えられるが、全球規模の大気大循環に対するその役割は解明されていない。これらの謎に挑むためには、水平数キロメートル解像度の高解像度全球大気計算が求められる。また鉛直対流を陽に表現するために、非静力学の方程式系で計算する必要がある。
そこで我々は、大型計算機「富岳」で火星高解像度計算の実現を目指し、全球非静力学火星大気モデル (火星版SCALE-GM) を開発している。SCALE-GM (http://r-ccs-climate.riken.jp/scale/) は、正二十面体準一様格子法による地球大気の全球非静力学モデルNICAM (Tomita & Satoh, 2005; Satoh et al., 2008; Satoh et al., 2014)の力学コアを基に、領域モデル (SCALE-RM) との物理過程モジュールの共通化や他の惑星大気計算など、より幅広い応用を目指して開発が進められている大気大循環モデルである。我々はSCALE-GMに、火星大気用の定数や放射・地表面過程などの物理モジュールを組み込んだ火星版SCALE-GMを開発している。開発は、既存の汎惑星大気大循環モデルDCPAM (https://www.gfd-dennou.org/library/dcpam/) の火星物理モジュールを移植する形で進めている。なおDCPAMは静力学平衡を仮定した方程式系をスペクトル法で解く、伝統的な全球大気モデルである。
これまでに火星大気放射やダスト過程を導入し、全球1.9 km格子の高解像度計算を実現してきた。ただし、これまでの計算は地形を省略した設定で行っていた。火星の地表面は、非常に起伏に富んでおり、南北半球で平均標高に4 km程度の差があり、最大標高差は30 kmを超える。加えて薄い火星大気は、地表面からの熱や運動量フラックスの影響を強く受けるため、地形を考慮することは火星の気象・気候を考察する上では欠かせない。そこで本研究は、火星地形を導入した高解像度計算を試行した。
火星地形をモデル内で表現するために、地形に沿った鉛直座標系を用い、標高データとしてNASAのMars Global Surveyor/Mars Orbiter Laser Altimaterの観測による高解像度データを、モデルの水平・鉛直解像度に合わせて、勾配を緩和し、低解像度化したものを使用した。試行の結果、火星設定のSCALE-GMに大規模地形を導入すると、容易に計算が不安定化することが分かった。地形に沿った座標系において、計算安定のためには地形勾配をモデル最下層の格子のアスペクト比の半分以下に抑えることが必要とされている (Mahrer, 1984) が、この条件を満たしていても不安定となった。解析の結果、地表付近で局所的な、速度と温度の大きな鉛直勾配が生じることで、計算が不安定していることが分かった。この大きな鉛直勾配を適切に表現するために、鉛直解像度を上げてしまっては、前記の条件を満たすためにさらに勾配を緩和しなくてはならない。また、乱流混合過程による鉛直混合を強めると、計算が安定化する一方で、乱流混合によって熱が鉛直に運ばれて、鉛直対流が表現されなくなってしまう。そこで、局所的な鉛直勾配を解消するために、鉛直方向にも高階粘性を導入した。このような工夫を行うことで、鉛直対流を陽に表現しつつ、火星地形を導入した全球大気計算を実現した。
そこで我々は、大型計算機「富岳」で火星高解像度計算の実現を目指し、全球非静力学火星大気モデル (火星版SCALE-GM) を開発している。SCALE-GM (http://r-ccs-climate.riken.jp/scale/) は、正二十面体準一様格子法による地球大気の全球非静力学モデルNICAM (Tomita & Satoh, 2005; Satoh et al., 2008; Satoh et al., 2014)の力学コアを基に、領域モデル (SCALE-RM) との物理過程モジュールの共通化や他の惑星大気計算など、より幅広い応用を目指して開発が進められている大気大循環モデルである。我々はSCALE-GMに、火星大気用の定数や放射・地表面過程などの物理モジュールを組み込んだ火星版SCALE-GMを開発している。開発は、既存の汎惑星大気大循環モデルDCPAM (https://www.gfd-dennou.org/library/dcpam/) の火星物理モジュールを移植する形で進めている。なおDCPAMは静力学平衡を仮定した方程式系をスペクトル法で解く、伝統的な全球大気モデルである。
これまでに火星大気放射やダスト過程を導入し、全球1.9 km格子の高解像度計算を実現してきた。ただし、これまでの計算は地形を省略した設定で行っていた。火星の地表面は、非常に起伏に富んでおり、南北半球で平均標高に4 km程度の差があり、最大標高差は30 kmを超える。加えて薄い火星大気は、地表面からの熱や運動量フラックスの影響を強く受けるため、地形を考慮することは火星の気象・気候を考察する上では欠かせない。そこで本研究は、火星地形を導入した高解像度計算を試行した。
火星地形をモデル内で表現するために、地形に沿った鉛直座標系を用い、標高データとしてNASAのMars Global Surveyor/Mars Orbiter Laser Altimaterの観測による高解像度データを、モデルの水平・鉛直解像度に合わせて、勾配を緩和し、低解像度化したものを使用した。試行の結果、火星設定のSCALE-GMに大規模地形を導入すると、容易に計算が不安定化することが分かった。地形に沿った座標系において、計算安定のためには地形勾配をモデル最下層の格子のアスペクト比の半分以下に抑えることが必要とされている (Mahrer, 1984) が、この条件を満たしていても不安定となった。解析の結果、地表付近で局所的な、速度と温度の大きな鉛直勾配が生じることで、計算が不安定していることが分かった。この大きな鉛直勾配を適切に表現するために、鉛直解像度を上げてしまっては、前記の条件を満たすためにさらに勾配を緩和しなくてはならない。また、乱流混合過程による鉛直混合を強めると、計算が安定化する一方で、乱流混合によって熱が鉛直に運ばれて、鉛直対流が表現されなくなってしまう。そこで、局所的な鉛直勾配を解消するために、鉛直方向にも高階粘性を導入した。このような工夫を行うことで、鉛直対流を陽に表現しつつ、火星地形を導入した全球大気計算を実現した。