日本地球惑星科学連合2022年大会

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[E] ポスター発表

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[M-IS06] アストロバイオロジー

2022年6月2日(木) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (33) (Ch.33)

コンビーナ:藤島 皓介(東京工業大学地球生命研究所)、コンビーナ:薮田 ひかる(広島大学大学院理学研究科地球惑星システム学専攻)、杉田 精司(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、コンビーナ:深川 美里(国立天文台)、座長:藤島 皓介(東京工業大学地球生命研究所)

11:00 〜 13:00

[MIS06-P01] 小惑星内部の水質変質過程を模擬した加熱及びガンマ線照射実験によるアミノ酸の生成

*石川 あかり1、依田 功2小林 憲正1癸生川 陽子1 (1.横浜国立大学、2.東京工業大学)

キーワード:小惑星、炭素質コンドライト、アミノ酸、ガンマ線、水質変質

生命の誕生にはアミノ酸などの生体関連有機物が必須であり、それらは小惑星などを起源とする隕石などにより地球外から持ち運ばれた可能性が考えられている。太陽系形成初期の小惑星では26Alなど短寿命放射性核種の放射性崩壊による熱により、小惑星の氷が溶けて水質変質が起こったことが知られている。このような液体の水を伴う過程において隕石に含まれているもののような高分子有機物やアミノ酸が生成された可能性がある[1][2]。一方で、26Alなどの崩壊に伴い放出されるガンマ線のエネルギーが直接アミノ酸の形成に寄与する可能性はこれまで考慮されてこなかったが、HCHO、NH3水溶液にガンマ線を照射するとアミノ酸前駆体が形成されることかがわかってきた[3]。本研究では、小惑星内に存在すると考えられるHCHO,NH3 ,ヘキサメチレンテトラミン(HMT)[4]等を含む水溶液を加熱またはガンマ線照射することによって、ガンマ線がアミノ酸の生成にどのような影響を与えるのかについて検討した。
出発物質としてアンモニア、ホルムアルデヒド、グリコールアルデヒド水溶液と、HMT水溶液を用いた。アンモニアとホルムアルデヒドと水のモル比率が(1)5:5:100、(2)10:5:100、(3)5:10:100、(4)5:0:100、(5)0:5:100、(6)1:5:100の混合溶液、アンモニアとホルムアルデヒドとグリコールアルデヒドと水のモル比率が(7)0:5:1:100、(8)1:5:1:100、(9)5:5:1:100の混合溶液、HMTと水のモル比率が5:100の混合溶液を調整した。これらを200μLずつガラス管内に真空封管し、それぞれ加熱(80℃で1週間)または60Co線源(東工大)からのガンマ線照射(0.15 kGy/hで60, 600時間および、1.5 kGy/hで60, 600時間)を行った。生成物は6Mの塩酸で酸加水分解を行い(110℃で24h)、遠心乾燥した後、逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)および、陽イオン交換HPLCを用いてアミノ酸分析を行った。
アミノ酸標準溶液試料の分析より、各アミノ酸の保持時間とピークのクロマトグラムを得た。検出されたアミノ酸は約10種類で、特にグリシン、アラニン、β-アラニン、γ-アミノ酪酸(GABA)の生成量が多かった。加熱サンプルでは、GABAの生成量が多く確認され、さらに(3)のサンプルではアラニンの生成も多かった。加熱サンプル、ガンマ線照射サンプルの両方で、(3)の出発物質ではアラニンの生成量が多かった。ホルムアルデヒドの割合を増やすと、アミノ酸の生成量が増える傾向があった。グリコールアルデヒドを加えた系では、アミノ酸の生成量が大きく増加した。ガンマ線照射は照射線率や照射量によって生成されるアミノ酸の生成量や種類が異なる結果となったが、規則性を明確にはできなかった。
本研究によって、加熱やガンマ線照射などのエネルギーを加えると比較的単純な分子からアミノ酸の前駆体となる有機物が生成されることがわかった。また、出発物質のホルムアルデヒドのモル比率を増やした場合と、グリコールアルデヒドを混ぜた場合は、アミノ酸生成量が多くなる傾向がわかった。
参考文献
[1] G. D. Cody et al., PNAS 2011, 108, 19171-16.
[2] Y. Kebukawa et al., Sci. Adv. 2017, 3, e1602093.
[3] Y. Kebukawa et al. 2018, 81st Annual Meeting of The Meteoritical Society, LPI Contribution No. 2067.
[4] V. Vinogradoff et al., ACS Earth Space Chem. 2020, 4, 1398-1407.