日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS11] ジオパーク

2022年5月22日(日) 15:30 〜 17:00 302 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:尾方 隆幸(琉球大学大学院理工学研究科)、コンビーナ:青木 賢人(金沢大学地域創造学類)、田所 敬一(名古屋大学地震火山研究センター)、コンビーナ:松原 典孝(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)、座長:大野 希一(鳥海山・飛島ジオパーク推進協議会事務局)、道家 涼介(神奈川県温泉地学研究所)、松原 典孝(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)

15:30 〜 15:45

[MIS11-01] 日本のジオパークで語られるストーリーとリトル・ビッグヒストリー

★招待講演

*天野 一男1,2 (1.日本ジオパーク学術支援連合、2.東京大学空間情報科学研究センター)

キーワード:ジオパーク、ビッグヒストリー、リトル・ビッグヒストリー

「ビッグヒストリー」は,ビッグバンから現在までの138億年の宇宙の歴史の中に,地球,生命,人間の歴史を含めて総合的に考える歴史観である.オーストラリアのDavid Christianにより1991年に提唱されて以来,その研究・教育活動は世界的に展開されている.日本においても,東北大学,桜美林大学などでビッグヒストリーの講義が開講されている.宇宙,地球,生命の歴史の解明は,近年の自然科学の発展により,精密になされるようになった.従来,人間の歴史は人文科学の研究対象で,自然科学の成果とはかならずしも結びつけられてはこなかった.ビッグヒストリーは,両者の境界領域を埋めるだけでなく,人間を含めた自然の俯瞰的な理解を目指すものである.
人間に関連した事柄について,その背景の全ての歴史を理解しようという説明法をリトル・ビッグヒストリーといい,人間世界にあるものはほとんどがリトル・ビッグヒストリーの題材になる(アルバレス, 2018;Benjamin et al., 2020).一方,ジオパークでは,地球・大地(ジオ)の上に広がる動植物の生態の中で人間の文化,産業,歴史を学び,地域の魅力を知るとともに,それを教育や観光に活用しようという目的をもって活動が展開されている.これはまさにリトル・ビッグヒストリーのアプローチの方法である.
2022年1月現在,日本には9地域のユネスコ世界ジオパークを含む46地域のジオパークがある.それぞれのジオパークでは,その地域のジオの特徴の中でリトル・ビッグヒストリー的な物語を作っている.それらはそれぞれのジオパークの中では,良く出来ているものが多い.しかし,日本列島全体の中での位置づけが明確になっているかという点では,課題が残っている.地球科学的には,日本列島はプレートの沈み込み帯に位置する島弧である.これによって,世界の他の地域とは異なる日本列島の大地・自然の特徴は決まっている.日本の各ジオパークのストーリーは,島弧形成の歴史という大きな枠組みの中に位置づけられる.日本のジオパークを島弧形成史という枠組みの中で,各地域のストーリーを総合してリトル・ビッグヒストリーを作ることができれば,世界に日本のジオパークの特徴を強くアピールすることが可能である.
自然科学によって明らかにされた自然界の歴史と人間の活動とを結びつけてストーリーを構築するのは,必ずしも容易ではない.人間活動の歴史は人文科学的な分野であり,従来,自然科学的研究と人文科学的研究は方法論など必ずしも融和的ではなかった.ビッグヒストリー研究・教育は,両者の間隙を埋めようとする新しい動きである.そして,ジオパークはその実践の格好の場である.例えば,野村(2021)はジオパークにおいて各地のつたわる神話とジオとを関連させたストーリーづくりを提案している.これなどは,文化人類学・民族学と地球科学と連携したリトル・ビックヒストリー構築の可能性をひめたものかもしれない.
[文献]
アルバレス,W., ありえない138億年史- 宇宙誕生と私たちを結ぶビッグヒストリー.光文社,392p.(山田美明訳)
Benjamin, C., Quaedackers, E. and Baker, D., 2020, The Routledge Companion to Big History. Routledge, London and New York, 485p.
野村律夫, 2021, “Geomythology(地球神話)”とジオパーク.日本地質学会News, 24, 11, 15-16.