日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS12] 結晶成⻑、溶解における界⾯・ナノ現象

2022年5月22日(日) 15:30 〜 17:00 104 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:木村 勇気(北海道大学低温科学研究所)、コンビーナ:三浦 均(名古屋市立大学大学院理学研究科)、佐藤 久夫(日本原燃株式会社埋設事業部)、コンビーナ:塚本 勝男(東北大学)、座長:田中 今日子(東北大学)、木村 勇気(北海道大学低温科学研究所)

15:30 〜 15:45

[MIS12-06] 微小重力環境下において,なぜ氷結晶の成長速度は周期的に振動するのか?

*三浦 均1、古川 義純2 (1.名古屋市立大学大学院理学研究科、2.北海道大学低温科学研究所)

キーワード:氷結晶、融液成長、不凍糖タンパク質、成長速度、振動、微小重力

寒冷地に生息する魚類や昆虫類は,氷結晶の成長を阻害する作用を持つタンパク質を自身の体内で合成することで,体液の凍結から身を守っている。このような作用を持つタンパク質を不凍タンパク質(AFP,不凍糖タンパク質AFGPを含む)といい,水の凍結現象に関わるさまざまな分野への応用が期待されている。氷結晶の成長に対するAFGPの作用を結晶成長学的観点から明らかにすることを目的として,2013-2014年に国際宇宙ステーションにおいて,過冷却水中で成長する氷結晶ベーサル面の分子レベルその場観察実験(Ice Crystal 2 project)が実施された[1]。AFGPを含む過冷却水の中で成長する氷結晶ベーサル面の面成長速度を解析したところ,装置側で過冷却度を0.3 Kで一定に設定してあるにも関わらず,面成長速度が10秒ほどの周期で自発的に振動を繰り返す現象が確認された(自発的振動成長)。面成長速度は,高速期と低速期のふたつのフェーズ間を短時間の間に切り替わるという挙動を示した。面成長速度の値は,低速期においては純水(AFGPなし)の場合の値より小さく,高速期においては純水の場合の値より顕著に大きかった。高速期においてAFGPが成長を促進するメカニズムとして,ベーサル面に吸着したAFGPによる不均質二次元核形成が提案されている[1]。しかし,自発的振動を引き起こすメカニズムについてはまったくといってよいほど分かっていない。本研究では,氷結晶表面に吸着したAFGPの不均質二次元核形成活性をモデル化し,自発的振動成長が生じる理論的なメカニズムについて考察した。その結果,自発的振動のきっかけは結晶化潜熱の放出であること,また,振動が繰り返される背景には,結晶面に吸着したAFGPの存在量と面成長速度との間の相互依存関係に起因する不連続な分岐構造(カタストロフ)の存在があることを見いだした。本成果は,あくまで理論的な仮説に過ぎなかったAFGPの核形成活性が,氷結晶の成長に対するAFGPの作用の本質にかかわっている可能性を示している。

参考文献:[1] Furukawa et al., Sci. Rep. 7, 43157 (2017)