日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS12] 結晶成⻑、溶解における界⾯・ナノ現象

2022年5月22日(日) 15:30 〜 17:00 104 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:木村 勇気(北海道大学低温科学研究所)、コンビーナ:三浦 均(名古屋市立大学大学院理学研究科)、佐藤 久夫(日本原燃株式会社埋設事業部)、コンビーナ:塚本 勝男(東北大学)、座長:田中 今日子(東北大学)、木村 勇気(北海道大学低温科学研究所)

16:00 〜 16:15

[MIS12-08] 炭酸イオンによるリン酸カルシウムの相転移抑制

*秋山 拓海1荒木 優希1、中田 俊隆1 (1.立命館大学)

キーワード:リン酸カルシウム

はじめに
 リン酸カルシウムには複数の多形が存在し、非晶質リン酸カルシウム(ACP : amorphous calcium phosphate)から最安定相である水酸アパタイト(HAp : hydroxyapatite)が形成する過程は環境に依存して複雑に変化することが知られている。1) 齋藤らの研究では、擬似体液中に石英ガラスとカルサイトを浸漬させた系において、ACPが準安定相であるリン酸水素カルシウム二水和物(DCPD : calcium hydrogen phosphate dihydrate)に相転移することが明らかとなった。2) その要因は、カルサイトから溶出する炭酸イオンがHApの形成を阻害することによると推測されているが、正確には明らかとなっていない。本研究では、カルサイト周囲でのリン酸カルシウムの析出を擬似体液中で逐次観察およびその場観察し、カルシウムおよび炭酸イオンの濃度場に着目しながら、DCPD形成の要因を明らかにする。
実験方法
 逐次観察では、擬似体液にカルサイトを固定した石英ガラスを複数枚浸漬させ、36.5度に保った恒温槽内で保管し、22時間後、48時間後にそれぞれ取り出して偏光顕微鏡で観察を行った。その場観察では、石英ガラスで作製したセルにカルサイトと擬似体液を封入し、温度を36.5度に保ちながら偏光顕微鏡で観察を行った。
実験結果
 擬似体液に浸漬して48時間の石英ガラス表面にリン酸カルシウムの析出が見られた(図1)。カルサイトと石英ガラスの隙間に形成した粒子は偏光が見られないもの(図1の赤丸)と見られるものが混在していた。光学異方性のある結晶に偏光が現れることから、一部の粒子が結晶へ相転移していることが分かった。カルサイト周辺の石英ガラス表面では、カルサイトに近いほど粒子の析出数はおおく、カルサイトからの距離が離れるほど偏光の見られる粒子の割合は多くなることが分かった。 炭酸イオン濃度はカルサイトのごく近傍で高くなっていると考えられ、この結果は炭酸イオンとDCPD形成との相関を強く示唆する。また、カルサイトと石英ガラスの間を観察すると、偏光を持たない粒子が多く確認された。この隙間では対流が起こりにくく、溶出したイオンが滞留して炭酸イオン濃度が高くなっていると推測される。この結果もDCPDへの相転移は炭酸イオン濃度に依存し、炭酸イオン濃度が高いほど結晶化までにかかる時間が長くなることを支持する。
参考文献
1) C. Ohtsuki et al., J. Non-cryst. Solids 143 (1992) 84.
2) H. Saito et al., J. Cryst. Growth 553 (2021) 125937.