11:00 〜 11:15
[MIS13-08] 大分県速見郡日出町大神の沿岸湿地における約6500年前の古津波堆積物
キーワード:津波堆積物、海底活断層、別府湾
別府湾の海底活断層では,歴史記録に残されている1596年慶長豊後地震以前にも繰り返し断層運動が発生していたことが,海域で行われた音波探査とピストンコアリング調査によって明らかにされている(例えば,島崎ほか,2000;大分県,2002).また,別府湾の南岸に位置する沿岸湿地における津波堆積物研究から,過去7300年間に4回の津波があった可能性が示唆されている(Yamada et al. 2021).しかしながら,この研究で採取された堆積物コア試料は,最近約2800年間の記録が失われているため,別府湾海底活断層の地震・津波履歴を解明するためには,この期間の堆積物データを補完する必要がある.また,1地域のみの津波堆積物データでは,それらを形成した津波の規模や断層の破壊域を推定することは難しいため,さらに広範囲において津波堆積物データを充実させる必要がある.そこで本研究では,別府湾北岸に位置する速水郡日出町大神の沿岸湿地においてハンディジオスライサーを用いた津波堆積物掘削調査を行った.
調査を行った湿地は,幅約85 m,奥行き約150 m,標高約4 mで,現在は植物が生い茂っている.海岸線から約20 mまでは砂礫浜が広がり,その背後には標高約5 mの砂州が発達している.この湿地において,海岸線に直交する測線を1本設定し,地形測量および海岸線から約70 m地点から約10 m間隔で7地点において掘削調査を行った.最大深度180 cmまでの堆積物コアは,下位から明褐色の有機質泥層,暗褐色〜黒色の有機質泥層,耕作土層に区分され,海側の4つのコアでは基底部に灰色の泥質砂層が確認できた.すべてのコアにおいて,深度80〜150 cm付近に平面的に連続する層厚0.3〜22.0 cmの砂層が1枚認められた.この砂層は,上下の有機質泥層と明瞭な地層境界で区切られていることから,突発的なイベントによって堆積したものであることを示唆している.さらに,イベント砂層が内陸方向への薄層化と細粒化の傾向を示すことに加えて,ITRAXコアスキャナーの分析からS,K,Ca,Srなどの海水の指標として扱われる元素がイベント砂層で特徴的なピークを持つことからも,このイベント砂層は津波堆積物である可能性が高いと考えられる.
イベント砂層の堆積年代を特定するため,イベント砂層と上下の有機質泥層との境界が最も明瞭であった堆積物コアに対して,放射性炭素年代測定を実施した.深度154 cm付近に確認された層厚0.5 cmの砂層の直上(深度152〜153 cm)と直下(深度154〜155 cm)の有機質泥層から植物の種子を採取して年代測定を行った.イベント砂層の上位からは5701±23 14C yr BP,下位からは5773±25 14C yr BPという年代値が得られ,OxCalのPhasesモデルを用いることで,イベント砂層の堆積年代を6440〜6620 cal. yr BPに絞り込むことができた.南岸の沿岸湿地で認められた4枚の津波堆積物層のうち最下位層の堆積年代は,5750〜6750 cal. yr BPとPhasesモデルにより推定されている(Yamada et al. 2021).年代値に幅があるのは,下限年代が津波堆積物層の直下から得られているのに対して,上限年代は直上ではなく39〜40 cm上位から得られた年代値を用いているためである.このことを踏まえると,この津波堆積物層の堆積年代は6750 cal. yr BPに近いことが推測され,本研究で認められたイベント砂層の堆積年代6440〜6620 cal. yr BPと概ね一致している.このことから,別府湾の海底活断層では,約6500年前に地震が発生し,北岸と南岸の両方に到達する規模の津波を伴った可能性が高いと言える.本研究により得られた広範囲の津波堆積物分布は,数値シミュレーションにより断層運動の破壊域を推定する際に有用なデータとなるだろう.本研究においても非海成の有機質泥層の最上位である深度80〜82 cmで得られた年代値が5660〜5900 cal. yr BPであるため,それ以降の津波履歴を明らかにすることは難しい.別府湾海底活断層の地震・津波履歴を明らかにするためには,さらなる津波堆積物調査が必要である.
調査を行った湿地は,幅約85 m,奥行き約150 m,標高約4 mで,現在は植物が生い茂っている.海岸線から約20 mまでは砂礫浜が広がり,その背後には標高約5 mの砂州が発達している.この湿地において,海岸線に直交する測線を1本設定し,地形測量および海岸線から約70 m地点から約10 m間隔で7地点において掘削調査を行った.最大深度180 cmまでの堆積物コアは,下位から明褐色の有機質泥層,暗褐色〜黒色の有機質泥層,耕作土層に区分され,海側の4つのコアでは基底部に灰色の泥質砂層が確認できた.すべてのコアにおいて,深度80〜150 cm付近に平面的に連続する層厚0.3〜22.0 cmの砂層が1枚認められた.この砂層は,上下の有機質泥層と明瞭な地層境界で区切られていることから,突発的なイベントによって堆積したものであることを示唆している.さらに,イベント砂層が内陸方向への薄層化と細粒化の傾向を示すことに加えて,ITRAXコアスキャナーの分析からS,K,Ca,Srなどの海水の指標として扱われる元素がイベント砂層で特徴的なピークを持つことからも,このイベント砂層は津波堆積物である可能性が高いと考えられる.
イベント砂層の堆積年代を特定するため,イベント砂層と上下の有機質泥層との境界が最も明瞭であった堆積物コアに対して,放射性炭素年代測定を実施した.深度154 cm付近に確認された層厚0.5 cmの砂層の直上(深度152〜153 cm)と直下(深度154〜155 cm)の有機質泥層から植物の種子を採取して年代測定を行った.イベント砂層の上位からは5701±23 14C yr BP,下位からは5773±25 14C yr BPという年代値が得られ,OxCalのPhasesモデルを用いることで,イベント砂層の堆積年代を6440〜6620 cal. yr BPに絞り込むことができた.南岸の沿岸湿地で認められた4枚の津波堆積物層のうち最下位層の堆積年代は,5750〜6750 cal. yr BPとPhasesモデルにより推定されている(Yamada et al. 2021).年代値に幅があるのは,下限年代が津波堆積物層の直下から得られているのに対して,上限年代は直上ではなく39〜40 cm上位から得られた年代値を用いているためである.このことを踏まえると,この津波堆積物層の堆積年代は6750 cal. yr BPに近いことが推測され,本研究で認められたイベント砂層の堆積年代6440〜6620 cal. yr BPと概ね一致している.このことから,別府湾の海底活断層では,約6500年前に地震が発生し,北岸と南岸の両方に到達する規模の津波を伴った可能性が高いと言える.本研究により得られた広範囲の津波堆積物分布は,数値シミュレーションにより断層運動の破壊域を推定する際に有用なデータとなるだろう.本研究においても非海成の有機質泥層の最上位である深度80〜82 cmで得られた年代値が5660〜5900 cal. yr BPであるため,それ以降の津波履歴を明らかにすることは難しい.別府湾海底活断層の地震・津波履歴を明らかにするためには,さらなる津波堆積物調査が必要である.