11:00 〜 13:00
[MIS13-P02] 2011年東北沖津波により形成された青森県三沢市に分布する津波堆積物の地球化学的特徴と環境DNA解析
キーワード:津波堆積物、地球化学分析、環境DNA
古津波堆積物の情報から過去の巨大地震津波の実像を明らかにするために,津波堆積物の認定手法の確立が求められる(後藤ほか,2017).津波堆積物を認定する際には,従来は上方細粒化や内陸薄層化傾向などの堆積学的特徴の他に,海水流入の痕跡を示すCa, Sr, Cl, Sなどの「海水指標」が津波の影響を受けた堆積物に含有されているかなど,地球化学的・生物学的特徴が重要な情報を与えると考えられてきた.しかし,これらの指標は堆積後数ヶ月で粗い津波堆積物から消失し下位の細粒な土壌に浸透あるいは流失してしまう事が知られている(Chagué-Goff et al., 2012など).また,2011年東北沖津波により形成された津波堆積物は,海底からの運搬だけでなく,その多くが陸上砂丘の侵食・運搬作用により供給されているため,津波堆積物そのものの地球化学・生物的分析は,供給源の地質(鉱物など)や生物群集の特徴が反映されている可能性があることを考慮する必要がある.
そこで本研究では,津波堆積物の地球化学的痕跡に対する供給源の影響を調べるため,青森県三沢市に分布する2011年東北沖津波により形成された津波堆積物を対象として,XRFコアスキャナー分析(ITRAX)とXRDによる鉱物分析を行なった.さらに「海水指標」に関して,従来よりも信頼度の高い新たな手法を提案するため,環境DNA(eDNA)メタバーコーディング法を適用した. eDNAによるメタバーコーディングは,従来の珪藻・有孔虫分析など,種を限定する微化石分析などと比較して,当時の環境を高解像度かつ網羅的に復元する事ができる.しかし津波や波浪イベントの堆積物の識別にeDNAが用いられた報告は限られ(Szczuciński et al., 2016; Wensh et al., 2021),津波識別プロキシとして活用できるか十分な検討がなされていない.本研究では,三沢市で採取したコアサンプルの堆積物中のeDNAを鋳型鎖として18S rRNA遺伝子の増幅を行い,生物相を明らかにした.データ分析にはQiime2を用いた.
調査を実施した2021年5月の三沢市の津波堆積物を含む土壌は,上位から植物遺骸,津波後土壌,津波堆積物,津波前土壌,浜堤砂で構成される.ITRAXとその後の主成分分析の結果,津波堆積物は海水指標Caを含むCa, Al, Si, K, Srのグループで特徴づけられた.またXRD分析により,津波堆積物はAl, Ca, Naを主要元素に含む長石類だけでなくCa, Mgに富む斜方輝石を含む事が明らかになった.この結果は,帯磁率の値が上下の土壌層や浜堤砂よりも津波堆積物で極端に高いことと整合的である.従って, ITRAXを用いた地球化学的分析の結果は,海水指標を示しているわけではなく,鉱物組成の影響を強く反映している可能性が示唆される.
eDNA分析の結果,綱レベルの分類では,津波堆積物中からFungiが最も多く検出された.さらに種レベルでの分類では,津波後土壌/津波堆積物境界部と津波前土壌でのみ海洋種(Heterocapsa rotundata)と未分類の海洋環境サンプルが検出され,津波堆積物では海洋を示す種は検出されなかった.この結果は,粗粒な津波堆積物では津波時に存在したeDNAの保存状態が、上下の細粒な土壌層で異なる可能性や, 津波により運搬された海水指標が,降水などの影響を受け, 上下に方向に浸透した可能性を示唆している.
参考文献
Chagué-Goff, C. et al., 2012. Environmental impact assessment of the 2011 Tohoku-oki tsunami on the Sendai Plain. Sedimentary. Geology. 282, 175–187.
後藤和久ほか,2017,津波堆積物の認定手順.津波工学研究報告第33号,45-54.
Szczuciński, W. et al., 2016 Ancient sedimentary DNA reveals past tsunami deposits. Marine Geology. 381, 29–33.
Wensh, Y. et al., 2021, Environmental DNA signatures distinguish between tsunami and storm deposition in overwash sand, 2021, Communications Earth and Environment. doi.org/10.1038/s43247-021-00199-3
そこで本研究では,津波堆積物の地球化学的痕跡に対する供給源の影響を調べるため,青森県三沢市に分布する2011年東北沖津波により形成された津波堆積物を対象として,XRFコアスキャナー分析(ITRAX)とXRDによる鉱物分析を行なった.さらに「海水指標」に関して,従来よりも信頼度の高い新たな手法を提案するため,環境DNA(eDNA)メタバーコーディング法を適用した. eDNAによるメタバーコーディングは,従来の珪藻・有孔虫分析など,種を限定する微化石分析などと比較して,当時の環境を高解像度かつ網羅的に復元する事ができる.しかし津波や波浪イベントの堆積物の識別にeDNAが用いられた報告は限られ(Szczuciński et al., 2016; Wensh et al., 2021),津波識別プロキシとして活用できるか十分な検討がなされていない.本研究では,三沢市で採取したコアサンプルの堆積物中のeDNAを鋳型鎖として18S rRNA遺伝子の増幅を行い,生物相を明らかにした.データ分析にはQiime2を用いた.
調査を実施した2021年5月の三沢市の津波堆積物を含む土壌は,上位から植物遺骸,津波後土壌,津波堆積物,津波前土壌,浜堤砂で構成される.ITRAXとその後の主成分分析の結果,津波堆積物は海水指標Caを含むCa, Al, Si, K, Srのグループで特徴づけられた.またXRD分析により,津波堆積物はAl, Ca, Naを主要元素に含む長石類だけでなくCa, Mgに富む斜方輝石を含む事が明らかになった.この結果は,帯磁率の値が上下の土壌層や浜堤砂よりも津波堆積物で極端に高いことと整合的である.従って, ITRAXを用いた地球化学的分析の結果は,海水指標を示しているわけではなく,鉱物組成の影響を強く反映している可能性が示唆される.
eDNA分析の結果,綱レベルの分類では,津波堆積物中からFungiが最も多く検出された.さらに種レベルでの分類では,津波後土壌/津波堆積物境界部と津波前土壌でのみ海洋種(Heterocapsa rotundata)と未分類の海洋環境サンプルが検出され,津波堆積物では海洋を示す種は検出されなかった.この結果は,粗粒な津波堆積物では津波時に存在したeDNAの保存状態が、上下の細粒な土壌層で異なる可能性や, 津波により運搬された海水指標が,降水などの影響を受け, 上下に方向に浸透した可能性を示唆している.
参考文献
Chagué-Goff, C. et al., 2012. Environmental impact assessment of the 2011 Tohoku-oki tsunami on the Sendai Plain. Sedimentary. Geology. 282, 175–187.
後藤和久ほか,2017,津波堆積物の認定手順.津波工学研究報告第33号,45-54.
Szczuciński, W. et al., 2016 Ancient sedimentary DNA reveals past tsunami deposits. Marine Geology. 381, 29–33.
Wensh, Y. et al., 2021, Environmental DNA signatures distinguish between tsunami and storm deposition in overwash sand, 2021, Communications Earth and Environment. doi.org/10.1038/s43247-021-00199-3