日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS13] 津波堆積物

2022年6月3日(金) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (28) (Ch.28)

コンビーナ:山田 昌樹(信州大学理学部理学科地球学コース)、コンビーナ:石澤 尭史(東北大学 災害科学国際研究所)、渡部 真史(中央大学)、コンビーナ:谷川 晃一朗(国立研究開発法人産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、座長:渡部 真史(南洋理工大学)、山田 昌樹(信州大学理学部理学科地球学コース)

11:00 〜 13:00

[MIS13-P04] 奄美群島に襲来しうる津波の数値計算による検討

*金子 稜1山田 昌樹1佐藤 海生2楠本 聡3佐藤 哲郎4 (1.信州大学理学部理学科地球学コース、2.東京大学大学院理学系研究科、3.海洋研究開発機構、4.東京大学地震研究所)

キーワード:琉球海溝、津波シミュレーション、地殻変動、津波堆積物

琉球海溝沿いの古地震・古津波研究は約50年にわたり行われてきた.琉球海溝南部では,先島諸島の特徴であるサンゴ礁地形を生かし,津波により打ち上げられたサンゴ巨礫を用いた津波履歴や規模の推定が行われてきた(例えば,Goto et al. 2011;Araoka et al. 2013).一方で,数多くの調査から,琉球海溝北部に位置する鹿児島県奄美群島や沖縄諸島には津波石が分布していないとされている.また,琉球海溝沿いは沿岸低地があまり分布していないこともあり,砂質津波堆積物に関する研究例がほとんどなく,特に奄美群島の奄美大島周辺では報告されていない(後藤 2017).しかしながら,1911年と1995年に奄美群島周辺で発生した地震によって,奄美大島と喜界島の沿岸域に最大で10 mの津波が到達したことが歴史記録から分かっている(都司 1997;後藤 2013).また,喜界島には,過去約6000年間に1500〜2000年間隔で発生した地震性地殻変動により形成されたと考えられる海岸段丘が複数段存在する(後藤2017).さらに,地震性地殻変動により,奄美大島の笠利半島では隆起傾向,名瀬湾以西では沈降傾向にあると考えられている(池田,1977).これらのことは,奄美群島周辺で繰り返し地震と津波が発生していることを示しており,この地域の沿岸低地において過去数千年間の津波浸水履歴を明らかにすることは,琉球海溝で過去に巨大津波が発生していたのか否かを検証する上で重要であると言える.
本研究では,奄美群島の太平洋側に位置する複数の沿岸低地でハンドコアラーを用いた津波堆積物の掘削調査を実施した.調査の結果,奄美大島南方の加計呂麻島東部の沿岸湿地において,主に有機質泥層で構成される深度5 mまでの堆積物コア中の深度4.5 m付近に層厚1 cm程度の砂層が認められた.この砂層は上下の有機物泥層と明瞭な境界で区切られていることから,突発的に形成されたイベント堆積物であると考えられる.ただし,現時点では1地点のみでしか掘削ができていないため,この砂層が津波堆積物であるか否かについては検討できていない.
津波数値シミュレーションでは,イベント砂層が認められた加計呂麻島東部の沿岸湿地に浸水しうる津波の波源の推定を行った.琉球海溝北部での海溝型地震を想定し,奄美群島太平洋沖の北部,南部,両者の中間に海溝型(低角逆断層)の1枚断層を設定して断層パラメータ(断層幅,深さ,すべり量)を変化させながら全32パターンについてJAGURS(Baba et al. 2015)を用いて数値計算を行った.沿岸湿地への浸水と奄美群島の地殻変動量を出力し,沿岸湿地の広範囲が浸水するのか,そして浸水した場合に奄美群島の地殻変動履歴(隆起・沈降)と合致するのかについて評価を行った.北部モデル,南部モデル,中間モデルの計算結果を比較したところ,中間モデルで比較的大きな津波が加計呂麻島沿岸に襲来するが,沿岸湿地は浸水しなかった.そこで,中間モデルの各断層パラメータの数値を変動すると,滑り量が20 m以上の場合に沿岸湿地が広範囲で浸水する結果となった.しかしながら,地質記録では隆起傾向である奄美大島北端の笠利半島が沈降するため,地殻変動履歴と整合しない.また,断層幅や深さを変動させたモデルでは,沿岸湿地の広範囲が浸水することはなく,地殻変動履歴と合致するモデルも見つからなかった.これらの結果から,本研究で想定した海溝型1枚断層では加計呂麻島の沿岸湿地に津波は浸水しない可能性が高いと言える.今後は,まず沿岸湿地において追加の掘削調査を行い,イベント砂層の平面的な連続性を確認し,各種分析から古津波堆積物であるかどうかを評価する必要がある.また,数値計算に関しては,プレート内高角逆断層の検討や海溝型1枚断層の位置を再検討するなどパターンを増やして実施する予定である.