日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS14] 生物地球化学

2022年5月26日(木) 13:45 〜 15:15 202 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:木庭 啓介(京都大学生態学研究センター)、コンビーナ:柴田 英昭(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)、大河内 直彦(海洋研究開発機構)、コンビーナ:山下 洋平(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、座長:木庭 啓介(京都大学生態学研究センター)、柴田 英昭(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)、山下 洋平(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、大河内 直彦(海洋研究開発機構)

14:15 〜 14:30

[MIS14-03] 高知市のヒノキ人工林における植栽木と下層植生の窒素利用様式と水分利用効率の林齢に伴う変化

*稲垣 善之1、宮本 和樹1、酒井 敦1 (1.森林総合研究所)

キーワード:ヒノキ、下層植生、安定同位体比、窒素、水利用効率、二酸化炭素

人為起源による二酸化炭素の排出の増加によって、大気中の二酸化炭素濃度は増加し続けている。樹木は大気の二酸化炭素の増加に対応し、光合成活性や水利用様式を変化させる。樹木の炭素安定同位体比(δ13C)は、水分利用特性の指標として用いられる。世界の森林における樹木の年輪中の炭素安定同位体比の調査から、樹木は大気の二酸化炭素の増加に対応して、水分利用効率(WUE)が増加し、水分損失を抑制することが明らかにれた。しかし、WUEの変化の程度は林分や環境条件によって異なっていた。また、年輪の調査は優占個体を評価することが可能であるが、下層植生についての情報を得ることができない。樹木の落葉について調査をすることで、優占個体と下層植生水分利用特性を明らかにすることができる。本研究では、高知市のヒノキ林において21~46年生の期間に集められたヒノキと下層植生の落葉について、窒素濃度および炭素・窒素安定同位体比(δ15N)を測定し、これらの窒素利用およびWUEの長期変動を明らかにした。
 落葉量はヒノキでは林齢とともに減少する傾向、下層植生では増加する傾向が認められた。落葉の窒素濃度はヒノキでは林齢とともに減少する傾向が認められ、下層植生では、30年生まで増加し、それ以降で低下した。δ15Nは、ヒノキでは26年生まで増加し、それ以降に低下する傾向、下層植生では低下する傾向が認められた。これらの結果より、調査地では、林齢とともに下層植生が発達し、ヒノキの落葉量は低下した。ヒノキは林齢とともにより低いδ15Nを持つ窒素源を利用しており、窒素を巡る下層植生との競争がより強くなることが示唆された。大気中と植物のδ13Cの差である同位体分別(Δ13C)は、ヒノキでは30年生まで低下し、その後増加に転じた。WUEはヒノキでは36年生まで増加したのちに減少した。ヒノキでは、30年生までは大気中の二酸化炭素の増加に対応して気孔を閉じることでWUEが増加すると考えられた。ところが、高齢になるほど窒素制限が強くなるために光合成活性が低下しΔ13Cは低下した。一方、下層植生では林齢とともにΔ13Cは増加する傾向を示し、立木密度の低下に伴う土壌水分の増加への反応を示した。以上の結果より、ヒノキでは高齢林になるほど土壌の窒素資源を巡る下層植生との競争が強くなるため、二酸化炭素増加によるWUEの促進が抑制されることが示唆された。