日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS14] 生物地球化学

2022年6月3日(金) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (29) (Ch.29)

コンビーナ:木庭 啓介(京都大学生態学研究センター)、コンビーナ:柴田 英昭(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)、大河内 直彦(海洋研究開発機構)、コンビーナ:山下 洋平(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、座長:木庭 啓介(京都大学生態学研究センター)

11:00 〜 13:00

[MIS14-P03] 土壌から放出される一酸化二窒素の三酸素同位体異常定量

*中川 書子1、黄 天政1角皆 潤1丁 瑋天1伊藤 昌稚1、Kim Yongwon2 (1.名古屋大学 大学院環境学研究科、2.アラスカ大学フェアバンクス校 国際北極圏研究センター)

キーワード:一酸化二窒素、三酸素同位体組成、硝化、脱窒、土壌

一酸化二窒素(N2O) は、二酸化炭素、メタンに次ぐ長寿命温室効果気体であり、最も主要な成層圏オゾン破壊物質である。N2Oは、主に土壌や海洋中の微生物活動(硝化や脱窒など)によって生成され、大気へと放出される。特に、農地や森林域などの土壌環境より放出されるN2O放出量は、全N2O放出量の5〜7割程度を占める。そのため、土壌からのN2O放出量を削減する上でも土壌環境内におけるN2Oの生成メカニズムを把握したり、その変化を検出することは極めて重要である。N2Oの生成メカニズムを把握する指標として、N2Oの同位体比(δ15N, δ18O)が古くから活用されてきた。しかし、土壌環境中ではN2Oの生成と同時に分解が進行するため、その同位体比は生成過程以外に、分解反応で進行する同位体分別も同時に反映して変化するため、生成過程を正確に把握することは容易ではなかった。

大気中のN2Oは、+0.9‰程度の正の三酸素同位体異常(Δ17O = δ17O – 0.52 × δ18O)、すなわち16Oおよび18Oの存在量に対する17Oの相対過剰値を示すことが知られている。硝化反応で生成したN2Oであれば、そのO原子は大気中の酸素分子(O217O = – 0.4‰)を起源としており、一方、脱窒反応で生成したN2Oであれば、そのO原子は硝酸(NO3-17O> 0‰)もしくは水(H2O:Δ17O = 0‰)を起源とすることから、Δ17O値からN2Oの生成過程を解明できる可能性がある。特に、Δ17O値なら分解反応における同位体分別が無視出来るので、ここからN2O中のO原子の起源を明らかにして、硝化反応と脱窒反応の寄与率(混合比)を求めることが出来る可能性もある。ただし、これを実現するには、N2OのΔ17O値を高精度で定量する必要がある。

そこで、本研究では、岐阜県や愛知県の森林域や三重県の茶畑より放出されるN2OのΔ17O値を定量し、放出されるN2Oの生成メカニズムを考察した。なお、高精度なΔ17O値測定を実現するには、100 nmol以上のN2Oが必要である。そこで、岐阜県の森林域では積雪中に蓄積された土壌N2Oを集めて分析した。愛知県や三重県ではフロー式チャンバー(内容量:約30 L, 流速:200 ml/min)を使って土壌より放出されたN2Oを20分間以上かけて集めて分析した。分析には連続フロー型質量分析計を用い、Δ17O値を複数回測定した。

その結果、森林域ではN2OのΔ17O値がO2と同程度のΔ17O値を示したことから、N2Oが主に硝化によって生成されていることが確認できた。また、茶畑では、N2OのΔ17O値がO2より有意に高い値を示したことから、脱窒と硝化の両反応よりN2Oが生成されていることが確認できた。さらに、降雨時になるとN2OのΔ17O値が有意に高くなる傾向が観測され、脱窒反応など降水中のNO3-の影響を受けてΔ17O値が高くなっていることが分かった。降水によって、大気から土壌環境中へのO2の供給が弱くなり、脱窒反応に適した還元環境が増えたことが原因として考えられる。また、降雨時は、土壌中のNO3-のΔ17O値が大きくなり、脱窒反応が検出しやすくなったことも原因として考えられる。