日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS14] 生物地球化学

2022年6月3日(金) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (29) (Ch.29)

コンビーナ:木庭 啓介(京都大学生態学研究センター)、コンビーナ:柴田 英昭(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)、大河内 直彦(海洋研究開発機構)、コンビーナ:山下 洋平(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、座長:木庭 啓介(京都大学生態学研究センター)

11:00 〜 13:00

[MIS14-P05] 成層期における琵琶湖堆積物中硫化物の濃度と同位体比の鉛直分布

*大西 雄二1山中 寿朗2木庭 啓介1 (1.京都大学生態学研究センター、2.東京海洋大学)

キーワード:湖沼堆積物、微生物硫酸還元、酸揮発性硫化物

堆積物中の硫黄の生物地球化学プロセスは、海洋において古くからよく研究されてきた一方、淡水湖沼環境では、湖水の硫酸濃度が低いためあまり注目されてこなかった。しかし近年、貧酸素状態の湖沼深底部では、微生物による硫酸還元と、それに続く硫黄酸化による一次生産が湖底の生物生産を支えているという指摘がされており、湖底堆積物における硫黄の生物地球化学的プロセスが重要であると考えられる。そこで本研究では、硫黄安定同位体比を用いて、琵琶湖における湖底堆積物中の微生物による硫黄サイクルについての調査を行った。
堆積物コア試料は湖水の成層構造が発達する2021年9月に、琵琶湖北湖の第一湖盆中央部(St. 1; 水深約90 m)と彦根沖の多景島付近(St. 2; 水深約50 m)から得られた。得られたコアを3~5 cm間隔でスライスし、酸揮発性硫化物態硫黄(AVS)と全硫黄(TS)濃度とそれらの硫黄同位体比を測定した。また、間隙水中の硫酸イオン濃度も測定した。
AVS濃度の堆積物中鉛直プロファイルは、表層で最大値を示し、深くなるにつれて低くなっていた。その最大値は熱水噴出域などの還元的な海洋堆積物で観測されている濃度に匹敵していた。間隙水中の硫酸イオンはほとんど検出されなかったことから微生物硫酸還元によってAVSが生成されていると考えられる。しかし、観測されたAVS濃度は、堆積物の含水率と硫酸イオン濃度から想定されるよりも高く、微生物硫酸還元だけでなく有機態硫黄の分解に由来するAVSが多量に存在する可能性が考えられた。AVSのδ34S値は深さとともに増加し、その最大値は湖水硫酸イオンのδ34S値よりも高く、AVS濃度とδ34S値の変化から計算される同位体分別の値(−3.4‰)は、硫黄酸化細菌による同位体分別の値(−4~+2‰)の範囲内であった。このことから琵琶湖の湖底堆積物中では、微生物による硫酸還元や有機物分解で生じたAVSが硫黄酸化細菌によって消費されていると考えられた。これらの結果は、湖底堆積物中での微生物によるAVS生成と消費の硫黄サイクルが駆動していることを示していると考えられる。