日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS15] 山の科学

2022年5月22日(日) 09:00 〜 10:30 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、コンビーナ:佐々木 明彦(国士舘大学文学部史学地理学科 地理・環境コース)、奈良間 千之(新潟大学理学部フィールド科学人材育成プログラム)、コンビーナ:今野 明咲香(常葉大学)、座長:佐々木 明彦(国士舘大学文学部史学地理学科 地理・環境コース)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、奈良間 千之(新潟大学理学部フィールド科学人材育成プログラム)

09:45 〜 10:00

[MIS15-04] 榛名火山南東麓の流れ山の分布特性からみた陣場岩屑なだれの土砂供給量の検討

千明 拓斗1、*青山 雅史1 (1.群馬大学)

キーワード:陣場岩屑なだれ、流れ山、山体崩壊量、榛名山、流れ山の人為的地形改変

群馬県に存在する第四紀火山の榛名山においては,その山頂部のピークの一つである相馬山付近で後期更新世に発生した山体崩壊によって多量の岩屑が榛名山南東麓に供給された(早田 1990など)。この山体崩壊は陣場岩屑なだれと呼称され,榛名山南東麓には陣場岩屑なだれ堆積物とその後の土石流(ラハール)によって扇状地(相馬ヶ原扇状地)が形成された(早田 2000など)。陣場岩屑なだれ堆積物の堆積面上には多くの流れ山が形成されている。しかし,陣場岩屑なだれにより形成された流れ山の詳細な分布や,陣場岩屑なだれによる土砂供給量などについては明らかにされていない。
本研究では,1940年代後半米軍撮影の空中写真の判読を行い,現地踏査結果も加味したうえで流れ山のGISデータ(ポリゴン)を作成し,陣場岩屑なだれによって形成されたとみられる流れ山の分布を明らかにした。1960年代以降国土地理院撮影空中写真の判読についても行い,人為的地形改変による流れ山の消失に関する予察的な検討も行った。その後,GIS上において,個々の流れ山の面積,長径,短径などの地形計測や,給源(崩壊発生源)から流れ山までの距離の測定を行い,吉田の一連の研究(Yoshida et al. 2010,2012など)で提示された流れ山の分布特性と山体崩壊量との関係を示す経験式を用いることで,陣場岩屑なだれによる土砂供給量を推定した。
陣場岩屑なだれによる流れ山は榛名山南東麓に広く分布し,計299 個の流れ山を認定した。給源から約13 kmの範囲においてその分布が認められ,吉岡町南東端の利根川河道右岸まで達している。流れ山の分布形態から,陣場岩屑なだれには複数のフローユニットが存在することが示唆された。既存研究と同様に,現地踏査では陣場岩屑なだれ堆積物が浅間板鼻黄色テフラ(As-YP; 1.5-1.6 ka)を挟在するローム層に被覆されていることが複数の河川流域の露頭で確認され,流れ山の断面露頭1地点においても同様のことが確認された。
陣場岩屑なだれによる流れ山のサイズ(底面積)は165~19,600 m2 と大小さまざまであるが,流走距離が長くなるにしたがってサイズが減少する傾向がみられた。吉田の一連の研究で提示された流れ山の分布特性と山体崩壊量との関係を示す経験式を用いて陣場岩屑なだれによる山体崩壊量(土砂供給量)を見積もった結果,87×107 m3 と推定された。
1960年代以降に国土地理院が撮影した空中写真を判読した結果,本研究で示した流れ山の一部が,圃場整備や宅地,大型商業施設等の造成によって消失したことが判明した。流れ山の分布特性から山体崩壊量を見積もる際には,このような近年の人為的土地改変による流れ山の消失を考慮する必要がある。